2016-01-01から1年間の記事一覧

「それでも恋するバルセロナ」(西班牙と葡萄牙 其ノ九)

旅から帰りウディ・アレン監督「それでも恋するバルセロナ」を観た。バルセロナを舞台にした映画はいろいろあるような気がするけれど、どうもこの作品しか思いつかない。 アメリカからやって来たヴィッキーとクリスティーナは親友どうしだが恋愛とセックスに…

「ルーム」

ジョーイ(ブリー・ラーソン)はある日突然誘拐され七年にわたり監禁状態に置かれている。そのかんオールド・ニックと呼ぶ誘拐犯とのあいだにジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)が生まれ、母親となった。男児は五歳になる。オールド・ニックはふだんは不…

生ハム味ポテトチップス(西班牙と葡萄牙 其ノ八)

カタルーニャ音楽堂の近くにはデパート、商店が建ち並ぶ。ここで狙っていたのが生ハム味ポテトチップスで、日本では見かけないうえに1.5ユーロという嬉しい値段。おみやげに、旅行中のビールやワインのつまみにぴったりではないか。そんなわけで女性に大人気…

「リリーのすべて」

世界ではじめて性別適合手術を受けたリリー・エルベの実話を基にした伝記ドラマである。 老いてますますエンターテイメントに傾斜する「ゲイジュツ、関係おまへん」のわたしとしてはじつのところさほど気が進まなかったが、たまには人間の根源的なことがらを…

カタルーニャ音楽堂(西班牙と葡萄牙 其ノ七)

建築家リュイス・ドゥメナク・イ・ムンタネーが地元の有名合唱団オルフェオ・カタラのために設計したコンサートホール、カタルーニャ音楽堂。竣工は一九0八年。一九八二年から八九年にかけて大規模な修復が行われ、九七年にユネスコ世界遺産に登録された。…

『同調圧力にだまされない変わり者が社会を変える。』

本書は池田清彦の最新コラム集(大和書房二0一五年六月刊)。自然科学については皆目ダメなわたしの、やさしく、わかりやすく、できれば政治や社会と関連させながら論じてほしいという贅沢な願いに応えてくれるのが、むかし寺田寅彦、いま池田清彦だ。 「日…

サグラダ・ファミリアのガイドさん(西班牙と葡萄牙 其ノ六)

帰国して十日ほどして同行のYさんからLINEで左の写真が送られて来た。説明はなく、たしかにどこかで見た顔だが、さて、どこであったか。一日おいておなじくTさんから同様の写真が今度は説明付きで来た。それによると、帰国した三月六日二十三時からテレビの…

兼好と志ん朝

小野道風が書き写した『和漢朗詠集』を持っていると言う人がいたので、ある人が、藤原公任の編集した書物をそれより前の道風が書き写したというのは年代が違うでしょう、そんなことはありえないと指摘したところ、だからこそ世にも稀な、めずらしいものと応…

古典とモダンの混在(西班牙と葡萄牙 其ノ五)

写真左はサグラダ・ファミリア東側にある「生誕のファサード」の一部で、ここではキリストの誕生から初めての説教を行うまでの逸話が古典的な彫刻によって表現されている。 右は西側にあるモダンな彫刻群。こちらは「受難のファサード」と呼ばれていて、イエ…

陽光を浴びて(西班牙と葡萄牙 其ノ四)

丈高く、広々とした教会の空間には大胆と言ってよいだろう採光の窓が何箇所かあり、季節ごとに、また一日の時間の経過により内部の趣が変化する。それだけでもサグラダ・ファミリアは何度も訪れてみたくなるところだ。 ここはアルハンブラ宮殿やプラド美術館…

なでしこの敗戦に思う

読書に倦んでひと休み、ふと思いついてYouTubeでジャズの映像を探しているうちにコンコード・ジャズ・フェスティバル1986でのマキシン・サリヴァンとスコット・ハミルトン・クィテットのビデオをアップしてくれている方がいらして感激! 歌の文句じゃないけ…

サグラダ・ファミリア(西班牙と葡萄牙 其ノ三)

バルセロナに着いてさいしょにサグラダ・ファミリア(聖家族贖罪教会)を訪れた。スペインの観光といえばこことアルハンブラ宮殿くらいしか思い浮かばないわたしにはなんだか途中の山道を踏みしめることなく一挙に山の頂上に登ってしまった感じだった。 民間…

「ディバイナー 戦禍に光を求めて」

第一次世界大戦後、オーストラリア人の農夫ジョシュア・コナー(ラッセル・クロウ)は、戦争で行方不明となった三人の息子の遺骨を探すために戦場だったトルコへと向かう。息子たちの不幸に衝撃を受けて自殺した妻の願いを叶える旅でもあった。 スクリーンに…

スペインとポルトガル(西班牙と葡萄牙 其ノ一)・IS事件の余波(西班牙と葡萄牙 其ノ二)

「スペイン&ポルトガル周遊9日間」というツアーに参加して両国を観光してきた。二つの国ともに訪れるのははじめての「走馬看花」の旅である。成田空港〜イスタンブール空港経由バルセロナ〜サラゴサ〜マドリード〜ラ・マンチャ〜グラナダ〜ミハス〜セビリア…

ビリー・ホリディのこと〜「キャロル」の余話の二

ビリー・ホリディは人種差別、麻薬、アルコール依存性などとの壮絶な戦いを余儀なくされた。その生涯は自伝「奇妙な果実」に詳しい。けれど、そうした彼女の人生のイメージは少しばかり増幅され過ぎた感がありはしないだろうか。 ジャズに親しむようになって…

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」

ハリウッドは政治や社会の問題を扱うのに長けている。エンターティメントとして作り上げる手法に優れている。古典から一例を挙げると「カサブランカ」はメロドラマとしても戦意高揚映画としても一級品だった。 近年「事実に基づく」とか「事実にインスパイア…

上海、無錫、蘇州に遊ぶ(其ノ一)

駆け足で上海、無錫、蘇州を廻った。三月半ば、江南の春というにはやや早い。さいしょに上海を訪れたのは一九七六年三月、二度目は七九年八月だから今回はずいぶん御無沙汰の三度目になる。また無錫と蘇州ははじめての旅だった。 たいへんな人出の外灘(バン…

「イージー・リビング」〜「キャロル」の余話

デパートのおもちゃ売り場にアルバイトとして勤める十九歳のテレーズはお客のなかに優美と華やかさを併せ持つ女性を見て心惹かれる。 パトリシア・ハイスミス『キャロル』の冒頭のシーンで、まもなくテレーズはそのキャロルという美しい人妻と交際するように…

台東区役所総務課

昭和三十三年に公開された刑事映画の傑作「張込み」(野村芳太郎監督)で、東京から佐賀へと犯人を追うベテランの下岡刑事(宮口精二)と若手の柚木刑事(大木実)は猛暑のなか昼夜を分かたぬ張込みを続ける。 こういうときは飯と菜を同時に食べられる料理が…

「もうヒトツのソラ」展

表参道のギャラリー「PROMO-ARTE」で催された(二月十八日〜二十三日)森泉笙子さんの「もうヒトツのソラ」展へ行ってきた。絵画の展示とともに著書や関根庸子の名で日劇ミュージックホールにショーダンサーとして出演したときの公演パンフレット、グラビア…

谷中五重塔跡

幸田露伴の小説『五重塔』のモデルとなった谷中の五重塔はかつては谷中霊園のシンボルとしてそびえていた。 小説では、落成式の前夜、江戸は暴風に襲われたが、のっそり十兵衛はいささかも動じない。そして最後に「塔の倒れるときが自分の死ぬとき」と心に決…

「キャロル」

デパートのおもちゃ売り場に勤めるテレーズ(ルーニー・マーラ)は、ブロンドで、スタイルのよい身体を毛皮のコートで包んだ素敵な女性がクリスマスプレゼントを探している姿に目を奪われる。のちにキャロル(ケイト・ブランシェット)と知ったその女性は優…

警視庁下谷警察署天王寺駐在所

はじめて読んだ佐々木譲の小説は『エトロフ発緊急電』だった。第三回山本周五郎賞と第四十三回日本推理作家協会賞(長篇部門)のダブル受賞に輝くこの小説の見事な出来栄えと面白さに読み終えるやいなや前作の『ベルリン飛行指令』にさかのぼり、次に『スト…

パリの散歩の余韻

ジュリアン・デュビビエ監督「パリの空の下セーヌは流れる」を再見した。セーヌ河のほとりを主たる舞台に人々の織りなす人生のスケッチ集には懐かしいシャンソンが彩りを添える。昨年の秋この界隈をほっつき歩いたので親近感はひとしおだ。テロによる戒厳状…

「人生は祭りだ、共に生きよう」(モロッコの旅 其ノ四十九最終回)

夜のジャマ・エル・フナ広場は聞きしに勝るにぎわいだった。民族楽器を響かせて繰り広げられる大道芸人のパフォーマンス、ところ狭しと軒を並べる屋台、みやげものや名産品を扱うお店、そして世界中から集い来る人たち。このカオスが生むエネルギーとエキサ…

追悼京極純一先生

二月十二日京極純一先生の訃報に接した。同月一日老衰のため東京都内の病院で亡くなられ、葬儀はご家族だけで執り行われた。享年九十二歳。 先生が一九八六年に東京大学出版会から上梓した『日本人と政治』には一九八一年夏の高知市での二つの講演が収められ…

クトゥビーヤ・モスクにかかる月(モロッコの旅 其ノ四十八)

マラケシュの夜が明けるとカサブランカへ戻り、イスタンブール経由で帰国の途につく。今回の旅はマラケシュがフィナーレとなる。そこでホテルで夕食をとるとわたしたちはさっそくジャマ・エル・フナ広場へと向かった。昼間も相当なものだったが、夜のにぎわ…

「フランス組曲」

フランスのレジスタンス文学を代表する作品として名高いヴェルコール『海の沈黙』を読んだのは大学生のときで、四十年以上経ったいまもしっかり記憶に残る、忘れがたい小説だ。 ナチス・ドイツに占領されたフランスの地方都市で、老人と若い姪が暮らす家が接…

マラケシュのにぎわい(モロッコの旅 其ノ四十七)

マラケシュはベルベル語で「神の国」を意味する。人口はおよそ90万人で、カサブランカ、ラバト、フェズにつぐモロッコ第四の都市だ。 ジャマ・エル・フナ広場では各地からやって来た芸人がパフォーマンスを繰り広げ、夜は広場いっぱいに屋台が建ち並ぶ。人口…

『「ふらんす」かぶれの誕生』

永井荷風の乗る信濃丸がカナダのヴィクトリア港を経てシアトル港に到着したのは一九0三年(明治三十六年)十月七日のことだった。父久一郎のすすめによる渡米だったが、荷風自身はフランスへの思いを断ち難く、渡仏志望が変わらぬことを父に訴えた結果、配…