2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

「売女」のその後(関東大震災の文学誌 其ノ十)

水上滝太郎「銀座復興」で、震災直後の銀座街頭で、通りがかりの男が派手な身なりの女にむかって「売女」とののしったのを「はち巻」のおかみさんが語る。 「今日あたくしが用達に行ったかえりに、そりゃ凄いようなハイカラが歩いていたんでございますよ。淡…

「人生の特等席」

アメリカ映画がお家芸としてきたひとつに野球映画がある。 「打撃王」「甦る熱球」「がんばれ!ベアーズ」「ナチュラル」「フィールド・オブ・ドリームス」、ミュージカル作品では「私を野球につれてって」「くたばれ!ヤンキース」・・・・・・近くは「マネー・ボ…

「船頭小唄」から「東京行進曲」へ(関東大震災の文学誌 其ノ九)

〈おれは河原の枯れすすき/同じお前も枯れすすき/どうせ二人はこの世では/花の咲かない枯れすすき〉 野口雨情が作詞した「船頭小唄」の一番で(作曲は中山晋平)、関東大震災はこの歌が大流行しているさなかに起こった。そのため震災と暗い歌詞、悲しい曲…

『アルゴ』

世の中には自分はこんなことをしてきましたと素直に語るだけでそれが波瀾万丈のストーリーになる人がいる。取材を重ねたり知恵を絞るなどあれこれ苦労して物語を作らなくてもよい稀な存在だ。CIAで人質救出を専門としたアントニオ・メンデスもその一人で、さ…

大震災天罰論(関東大震災の文学誌 其ノ八)

関東大震災は東京を焼け野原にした。衝撃と茫然自失の気分がただようなか「復興の魁は料理にあり/滋養第一の料理ははち巻にある」と張り紙をして敢然と店を開いた銀座の小料理屋があった。 水上滝太郎「銀座復興」はこの「はち巻」とここに集う人々を通して…

駒込吉祥寺

駒込にある吉祥寺は本郷通りに面した曹洞宗の大きな寺だ。境内には駒澤大学の母体となった学寮旃檀林(せんだんりん)があり、ここは幕府の学問所である昌平黌と並ぶ漢学の一大研究地で常時千人余の学僧がいたという。 寺はまた八百屋お七がよく通ったところ…

中欧の旅で映画とミステリを思う(其ノ四)

今回の旅の最終地はチェコの首都プラハ。 わたしにとってチェコスロバキア(いまはチェコとスロバキアはそれぞれが独立した国になっている)はとても気になる国だった。さいしょこの国を意識したのは東京オリンピックのときの女子体操選手で個人総合ならびに…

第87回新宿ー青梅43キロかち歩き大会

昨日十一月十一日は第87回新宿ー青梅43キロかち歩き大会に参加した。ことし三月につづいて二度目のチャレンジだ。 八時三十分新宿中央公園をスタートしたときは曇天、十五時十九分の青梅市立体育館前にゴールしたときは雨という条件のなか六時間四十九分かけ…

中欧の旅で映画とミステリを思う(其ノ三)

早朝にウィーンを出てハルシュタットへ、バスでおよそ四時間、二百九十キロの行程だった。 ここは世界一美しい湖岸の村といわれユネスコ世界遺産の地ともなっている。ほんとうっとりする景色だ。 ダッハシュタイン山塊の山麓に位置する小さな町なので、家々…

「終の信託」

このあいだまで死の基準は心臓とされてきた。心臓の停止は心拍の停止、呼吸の停止、瞳孔の拡大を伴っており、これらで以て死の認定を行っていた。ところが脳死も死の認定基準にくわえられた。だから、いま死の認定はダブルスタンダード状態にある。 人工呼吸…

中欧の旅で映画とミステリを思う(其ノ二)

ブダペストからウィーンへ二百四十キロの行程をバスで移動。ハンガリーとオーストリアとの国境には検問もなく職員の姿も見えなかった。しかし冷戦期にはここが東西ヨーロッパを分かつ境界線、欧州の三十七度線だった。そんなことを考えているうちにウィーン…

「アルゴ」

「アルゴ」おもしろかったなあ。終わるとすぐに拍手したかったんだけどはずかしくて心のなかで拍手喝采していた。 実際にあった出来事だから当事者にとってはおもしろいどころの騒ぎではないが、それにしても現実がこれほどエンターテイメントと一体化してよ…