2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

和田誠さん、ありがとう

原作と映像とのコラボによるわたしのアガサ・クリスティー攻略作戦、今回はエルキュール・ポアロのシリーズ中の傑作「白昼の悪魔」だ。テレビドラマは二度目だが、この機に原作を読んで、殺害された女の義理の子供を娘から息子に変える(正解だな)などアン…

朝のマルクト広場と鐘楼(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ三十)

ブルージュの中心にあるのがマルクト広場だ。およそ1ヘクタールの骨格の大きな広場では十世紀以降、市が立ち、また集会やお祭り、処刑などもここで行われた。 十四世紀はじめに竣工した町のシンボルである鐘楼は八十三メートル、三百六十六段の階段をのぼる…

ブリュージュ市庁舎(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十九)

ブルク広場に建つ美しいゴシック式の市庁舎。九世紀ここにノルマン人の襲撃に備えた要塞(ブルク)がつくられ、これが町のはじまりとなった。ブリュージュ発祥の地である。 建物向かって右側にはキリストの聖なる血がおさめられている聖血礼拝堂がある。小規…

「悲しい町」の現実(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十八)

「雨は秋の終りに頻繁におとずれる霧雨で、垂直に落ちてくる細かな雨はさめざめと泣き、水玉を織りなし、大気を仮縫いし、平らな運河を針でおおい、そして人の魂をとらえ、おののかせる」「それにブリュージュはまた、午後の終りにはなんと悲しい町となるこ…

ヴェネツィアの嫉妬(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十七)

ブリュージュには「北方のヴェネツィア」という異称がある。ヴェネツィア、ブリュージュはともに水の都であり、栄華と衰退という歴史においても似ている。 ローデンバックはヴェネツィアから見たブリュージュをこんなふうに述べている。 「今日忘れ去られ、…

運河(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十六)

繁栄する貿易港、地域経済の中心地だったブリュージュは十五世紀に水流の変化と土砂の堆積により大打撃を受けた。 『死都ブリュージュ』を含む『ローデンバック集成』(高橋洋一訳、ちくま文庫)に収めるエッセイ「ブリュージュ」はその経緯を次のようにしる…

イメージの都市(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十五)

ローデンバックは『死都ブリュージュ』のはしがきに、わたしはとりわけ一つの都市を呼び起したいと思った、物語の展開を促すのはブリュージュの景観という舞台装置であり、そのために河岸、ひとけない通り、古い家屋、掘割、ペギーヌ会修道院、教会、礼拝用…

『死都ブルュージュ』(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十四)

日本で『死都ブリュージュ』を高く評価した人に永井荷風がいる。「三田文学」大正元年九、十月号所載の「文藝読むがまゝ」で荷風はこの作品を『廃市の鐘』の題で紹介してあらすじを述べ、さらに舞台を奈良の都にして古代を崇拝する詩人と現代的な女性との恋…

ブリュージュ(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十三)

いよいよ今回の旅の最大のお目当ブリュージュに着いた。ローデンバック『死都ブリュージュ』を読むまでこの都市を知らなかったけれど、一読してたちまち行ってみたいところとなった。手許の岩波文庫(窪田般弥訳)の奥付は一九八八年三月第一刷とあり、届く…

風車(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十二)

オランダのハーグからベルギーのブリュージュへ向かうとちゅうキンデルダイクへ寄った。オランダ第二の都市ロッテルダムから南東約十三キロに位置しており、レク川とノールト川に挟まれた地区だ。 十八世紀に造られた風車が十九を数え、どれもたいへんよい状…

「ブラックブック」(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十一)

オランダを舞台にした映画といえば「アンネの日記」「真珠の耳飾りの少女」「小さな目撃者」などが思い浮かぶが、旅行に出るまえ予習の一環として、いま国際司法裁判所をはじめ百五十ちかい国際機関があり、ニューヨークに次ぐ国連都市として重要性の高まる…

「ディアナとニンフたち」(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十)

「真珠の耳飾りの少女」に着想を得て書かれた同名小説の作者トレイシー・シュヴァリエは、絵に描かれた少女の表情は矛盾だらけで、無垢でありながら擦れていて、喜びにあふれていながら悲しみに満ちていて、希望にあふれていながら喪失感に満ちている、と述…

「デルフトの眺望」(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十九)

現存するフェルメールの作品は三十三点から三十六点(研究者によって異同がある)と少なく、そのうちマウリッツハイス美術館には「真珠の耳飾りの少女」「ディアナとニンフたち」「デルフトの眺望」の三点が展示されている。 なかで「デルフトの眺望」はゴッ…

「真珠の耳飾りの少女」(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十八)

マウリッツハイス美術館が工事で休館しているあいだに日本とアメリカで「マウリッツハイス美術館展」が開催されていて、東京では二0一二年の六月から九月にかけて上野の東京都美術館で催された。 フェルメール「真珠の耳飾りの少女」については二00三年に…

マウリッツハイス美術館(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十七)

アムステルダムからバスでおよそ五十分、デン・ハーグへ移動した。 オランダの首都はアムステルダムだが議事堂、宮殿(アムステルダムにもあるが実質的には離宮)、各国大使館などはデン・ハーグにあり、ほぼすべての首都機能を担っている。 マウリッツハイ…

ビールとクロケット(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十六)

オランダもベルギーもともに気候は寒冷でワインの栽培には不向きな地域だ。代わって製造が盛んなのはビールだ。ただし今回の旅行中、食卓に出されたビールに限っていえばオランダとベルギーとではだいぶん事情が異なっていた。 オランダではハイネケン一色、…

アムステルダム・コンセルトヘボウ(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十五)

国立美術館のトンネルを抜けると雪国ではなくて広大な芝生の公園が広がり、その一角にヴァン・ゴッホ美術館のモダンな姿があった。 残念ながらゴッホを鑑賞する時間はなかったが、公園の向こう側、道路を隔ててなにやら気になる建物があり、急いで行ってみた…

自転車(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十四)

フォンデル公園を行く自転車。少々の雨はものともせず黄色の合羽を着けて走る。オランダの風物といえば風車、チューリップ、そして自転車。 この国では昔から自転車による移動が普及していて、第二次世界大戦が勃発した時期、夫とともにヨーロッパに滞在して…

フォンデル公園の紅黄葉(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十三)

今回の旅行では柴田宵曲『随筆集 団扇の絵』(小出昌洋編、岩波文庫)を携行していて、合間に読み継ぐうちに十数年ぶりに通読し、あらためて感嘆これ久しゅうした。 その一篇「月と人」に夏目漱石『文学論』の話題があり、そこで漱石は、多くのイギリス人は…

フォンデル公園(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十二)

国立美術館のすぐ近くにフォンデル公園があった。写真はそのほとりの運河。美術館の周囲を散策しているうちにたまたま行き当たった公園で、わたしの持つガイドブックには世界最大のフラワーパークとしてキューケンホフ公園の紹介があるだけでこの公園につい…

アムステルダム国立美術館(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十一)

「ライクス・ミュージアム」と呼ばれるアムステルダム国立美術館。ライクスRijkは英語のSTATEにあたる。収蔵品としてはレンブラント「夜警」「自画像」やフェルメール「牛乳を注ぐ女」「手紙を読む青衣の女」など十七世紀オランダ絵画の充実で知られる。 二…

ダイヤモンド(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ十)

クルーズ船を下りてダイヤモンド工場へ行った。ここは四百年以上にわたりダイヤモンドの街として知られてきた。世界の王室のダイヤモンドを研磨した伝統は「アムステルダム・カット」の名前とともにある。 明治四年十一月から明治六年九月にかけて欧米を視察…

アムステルダム運河クルーズ(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ九)

今回の旅では、アムステルダムの運河、ブリュージュの運河、セーヌ川と三度クルーズ船で巡航した。 パリでの自由時間ではエッフェル塔に上るよりセーヌ川のクルージングを選択した。察するに、高いところよりも水面に浮かぶのが好きらしく、これは旅をしてい…

アムステルダム中央駅(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ八)

運河を前にしてアムステルダム中央駅が建っている。一八八九年に開業したオランダ鉄道の駅で、中央駅の名の通りメトロ、トラム、バス、フェリーが発着する。鉄道に限れば一日三十万人が利用しているとのことだ。 ちょうど駅舎の前をトラムが走っていた。そし…

路地(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ七)

昭和十三年秋に渡欧し、およそ一年後に帰国した野上弥生子は『欧米の旅』で「ハーグを山の手の屋敷町とすれば、アムステルダムはそこからずっと活気のある下町に出て来た思いである」と二つの都市の印象を述べている。 活気ある下町としてのアムステルダム。…

岸の樹木(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ六)

アムステルダムの運河の岸には美しく黄葉した樹が並木をなしていた。おそらくマロニエかプラタナスだろう。 久米邦武編『米欧回覧実記』が運河沿いの樹木に触れていて「水ハ地上ノ堤ヲ流レユク、岸ニハ楊樹ヲ種ユ」とある。「楊樹」は日本語辞書ではヤナギの…

運河の都市(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ五)

アムステルダムという地名はアムステル川に由来する。この川は市内中心部で多くの運河に分割され市の北側にあるアイ湾に注ぎ込む。中央駅を基点として放射状に張り巡らされた運河群は世界遺産に登録されている。 アムステルダムに着くと小雨が降っていた。あ…

日本、オランダ、中国(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ四)

レンズ、ビール、ランドセル、ペンキ、ズック、ガラス、ゴム、カバンなどはいずれもオランダ渡来で日本語となった言葉だ。鎖国のあいだも徳川幕府はオランダとの通商は許可していて、この日蘭両国の関係は、明治維新のあとも日本人のオランダに対するイメー…

マグナプラザ(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ三)

美しいアーチを擁した建物が出迎えてくれた。ダム広場の近くにあるマグナプラザで、王宮の裏側に当たる。もとは郵便局だったがいまはショッピングセンターになっている。眺めていると世界一高貴なショッピングセンターのような気がしてくる。 岩倉具視を団長…

アムステルダム(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二)

アムステルダムという地名は「アムステル川のダム(堤防)」を意味する。もともとは小さな漁村だったが、十三世紀にアムステル川の河口にダムがつくられて町となった。アムステルダム中央駅から続くダム広場はその中心で王宮、新教会、有名デパートなどが並…