2018-01-01から1年間の記事一覧

そば

きょうは大晦日。わが家でも、そばとつゆが今晩の食卓に出されるのを待っている。 その年越しそばについて、大森洋平『考証要集2』(文春文庫)に、ある編集者が幸田露伴のもとに年越しそばを届けたところ「これは町家の仕来りであって、幕臣たる幸田家では…

よく食べ、よく愛しあおう

『「あまカラ」抄』(冨山房百科文庫)に収める岡本太郎「食通の資格はない」は情理を兼ね備えた素晴らしい食味随筆だった。 新書版五ページの短文に納得また共感、そして両親の岡本一平、かの子にも触れてその面影を伝えてくれている。わたしにははじめての…

正岡子規の句集に「大きさも知らず鯨の二三寸」という句があった。 なるほど二三寸の鯨肉からは全体の大きさはわからない。若い方のなかには二三寸どころか鯨肉を口にしたことのない人が相当数いらっしゃるだろう。 わたしが小学生だった昭和三十年代、とき…

Merry Christmas 2018

つい先日、銀座のビアホールで飲み会があり、さあ、そうなると、事前に丸の内のクリスマスのイルミネーションを徹底調査しないとおさまらないヒトがいて、徹底的にお付き合いさせていただきました。 昔の歌謡曲のように、君について行こう、どこまでもついて…

近況記事

Twitterをみていると、SNSの更新が止まっている知人三名のことが気になって、知人の知人に「いまどうされているのか」を訊いてみたら、そのうちふたりが今年の夏に亡くなっていて、SNS(ソーシャルネットワークサービス)の突然の更新停止は「なにかある」と…

口腹の楽しみ

ちかごろは筍が出盛りで供養が安上がりにできるから、いまのうちに死にたいと念じている病気の婆さんがいて、いっぽうに、筍が安いうちに娘を嫁にやり、格安で結婚式をすませたいと願う倹約家がいる。 いずれも薄田泣菫『茶話』にあるエピソードで、むかしは…

引っ越しのごあいさつ

「はてな」より、2019年春をめどに、はてなダイアリーを廃止し、はてなブログに統合します、との連絡をいただきました。そこで、はてなダイアリーにお世話になっていたわたしもこのはてなブログに移ってきました。 インターネットという文明の便宜を得て自分…

根津権現のベンチ

木下順二『本郷』(講談社文芸文庫)を再読した。一九八三年に講談社から刊行された初版の単行本から数えて三十年余りが経つ。書名の『本郷』は昔の本郷区と小石川区の全域を指していて、現在の地理上では文京区にほかならないが、作者は安っぽいネーミング…

「裏町人世」

淀川長治さんはときに「日本映画って、何を観ても貧乏臭いのね、衣装も三流だし……」と語っていた。そのときわたしがきまって思い出すのが太宰治の「弱者の糧」というエッセイだった。ここで太宰は、日本の映画は多く敗者の心を目標にして作られていて、その…

「柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺」。 この秋、はじめて柿を食べた。鰻の蒲焼と聞くと斎藤茂吉を思い出すように、柿となれば正岡子規だ。そこで夏井いつき『子規365日』を開いてみたところ十月八日と九日と続けて柿の句があった。 「句を閲すラムプの下や柿…

『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』

時を忘れて没頭し、頁を繰る指に力がはいる。至福の読書であり、もしもこれがミステリーであればわたしはもうひとつスピード感をくわえよう。 例外を認めたうえであえて言う、しばしば滞って軽快に運ばないミステリーは困ったものだ。その点でA・J・フィン『…

小学生のときに見たプロ野球

この九月に刊行された芝山幹郎『スポーツ映画トップ100』(文春新書)の書き出しに、著者が子供のころ目にした野球選手の思い出が語られていた。 芝山氏は一九四八年(昭和二十三年)石川県金沢市の生まれで、兼六園球場で青田昇、引地信之、箱田淳を、神戸…

旅の終りに(2016晩秋のバルカン 其ノ五十六)

スロベニアのポストイナからクロアチアのザグレブに戻り、翌日(2016/11/25)の午後ザグレブ国際空港からミュンヘン経由で帰国した。 空港行きのバスが出る直前までザグレブ郊外にあるホテルの近くを散歩し、おしゃれなカフェを見つけて憩いのときを過ごした…

ポストイナ鍾乳洞(2016晩秋のバルカン 其ノ五十五)

今回の旅の最後の観光地はスロベニアのポストイナ近郊にある鍾乳洞。スロベニアは国土の半分近くが石灰岩でできたカルスト台地となっていて多くの洞窟があるが、なかでも有名なのがポストイナ鍾乳洞だ。 一八一八年、当時オーストリアの皇太子だったフェルデ…

台風24号の翌朝に

日本列島を縦断した台風24号。東京では九月三十日から翌日未明にかけて暴風が吹き荒れた。十月一日の朝は快晴で、いつものように上野公園を走ったところ、不忍池のほとりや桜並木でけっこう大きな樹が折れていて風の強さに驚いた。スマホを持って走る習慣が…

聖マリア教会(2016晩秋のバルカン 其ノ五十四)

ブレッド湖には小さな島ブレッド島が浮かぶ。スロベニア唯一の自然の島で、ここに建つのが聖マリア教会(聖母被昇天教会)だ。フランスの有名な観光地モン・サン=ミシェルは未体験だが、あるブログに、朝靄にかすむブレッド島の聖マリア教会はモン・サン=…

湖に船を浮かべて(2016晩秋のバルカン 其ノ五十三)

ブレッド城に登り湖畔を一望したあと湖で船に乗った。淡い霧のなかをゆっくりとボートが進んで行く。行き先は聖マリア教会だ。 『死都ブリュージュ』で知られるベルギーの象徴派を代表する作家、詩人のローデンバックに『霧の紡ぎ車』という短篇集があり、こ…

「日日是好日」

小津安二郎は、物語じゃなくて随筆みたいなものを映画にしたいとよく語っていたそうだ。「おれは黒澤明君みたいにオクターブは高くない」とも。 オクターブの高い波乱万丈の物語を語る映画と、ありきたりのドラマティックは追及せず、日常生活のなかで生じた…

ブレッド湖の朝(2016晩秋のバルカン 其ノ五十二)

クロアチアの首都ザグレブからスロベニアの代表的観光地ブレッド湖へ。およそ二百キロの行程だ。ホテルに着いたのは夜もだいぶん更けていたのでその光景はわからなかったが、朝起きて一望したとたん静寂なたたずまいの美しさにおどろいた。まるで幻想の世界…

夕景(2016晩秋のバルカン 其ノ五十一)

ザグレブのアッパータウンである旧市街とダウンタウンの新市街をつなぐ交通機関がケーブルカー「ウスピニャチャ」だ。開設されたのが一八九0年、距離は六十六メートル、片道三十秒で到着する世界一短いケーブルカー、そしておそらく世界最短の公共交通機関…

菊人形

十月になり、自宅近くの団子坂を上り下りしていると、菊人形のことが思い浮かぶ。 文化文政年間に巣鴨、染井、白山の植木職人が手慰みに菊を衣に人形に着せた菊細工が起こりで、これが安政年間に駒込団子坂に移り、明治七八年ころから木戸銭を取って客に見せ…

ザグレブ大聖堂(2016晩秋のバルカン 其ノ五十)

聖母被昇天大聖堂とも呼ばれるザグレブ大聖堂はクロアチアのカトリック教会の中心、また旧市街を代表する建築物だ。聖母被昇天は聖母マリアがその人生の終りに肉体と霊魂を伴って天国に召されたという信仰にもとづいている。 一0九四年に建設がはじまり、一…

市松模様のTシャツ(2016晩秋のバルカン 其ノ四十九)

聖マルコ教会の屋根は赤、白、青のタイルによるモザイク模様でデザインされている。赤白青はクロアチア国旗の横縞三色となっており、その中央には赤と白の国章がある。国章は赤と白の市松模様で、一九九一年の独立以来このデザインの国旗が用いられている。 …

聖マルコ教会(2016晩秋のバルカン 其ノ四十八)

ザグレブ旧市街の中心にある聖マルコ広場に面した聖マルコ教会。 広場には国会議事堂、首相官邸、最高裁判所という国権の最高機関があり国葬など重要行事はこの教会で行われる。 屋根の赤、白、青の陶板を用いたモザイク模様がおしゃれで美しい。赤は内陸部…

ザグレブ(2016晩秋のバルカン 其ノ四十七)

プリトヴィッツェ湖群国立公園をあとにクロアチア共和国の首都ザグレブへ。ここはアドリア海から百三十キロほど内陸に入ったところにある。アドリア海、アルプス、ディナルアルプスへと広がるパンノニア平原南西部に位置していて、沿海地方と中央ヨーロッパ…

「LBJケネディの意志を継いだ男」

一九六三年十一月二十二日金曜日、現地時間十二時三十分、第三十五代アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディはテキサス州ダラス市内をパレード中に狙撃され、死亡した。 事件の一報が日本に届いたのは十一月二十三日午前四時ごろで、この日、日米間初の衛…

プリトヴィッツェ湖群事件(晩秋のバルカン 其ノ四十六)

美しく静かなみずうみのほとりを散策したあとは船を浮かべて周遊した。思ってもみなかった贅沢なひとときだった。 プリトヴィッツェ湖群が観光地として知られるようになったのは十九世紀の後半で、ホテルが建設され、ヨーロッパ全土からの観光客でにぎわった…

心地よさ、荘厳、すがすがしさ(2016晩秋のバルカン 其ノ四十五)

O・ヘンリーに、別れたままになっていた父娘の絆をテーマとする「水車のある教会」という短篇小説がある。 アトランタで暮らしてきたチェスター嬢にとってカンバーランド地方の雄大な自然と変化に富む地形はめずらしく、大いに心惹かれた。水車のある教会が…

清冽(2016晩秋のバルカン 其ノ四十四)

ネット上のプリトヴィッツェ湖群国立公園口コミガイドのひとつに、当日は生憎の雨、気温は低く、歩道は滑り、道はぬかるんだ、絶景ハイキングルートはどこ!と書かれていた。この方には申しわけないけれど、天気のよい日に訪れることができてじつにありがた…

プリトヴィッツェ湖群国立公園(2016晩秋のバルカン 其ノ四十三)

さわやかな晩秋の一日、プリトヴィッツェ湖群国立公園をあるいた。ほとんど予習なしの旅だからクロアチアでハイキングができるとは思いもよらず、うれしいおどろきだった。クロアチア旅行をブームとしたひとつにこの公園があるそうで、同国の重要な観光資源…