わたしの健康ノート (一)あたりまえについて

在職中、発熱があったのは数年に一度で、それも多くは翌朝には引いていた。ところが退職して二年ほどのあいだに何回かかぜと発熱の症状があったから驚いた。いちばんひどかったのは二0一二年の夏にこれまで経験したことのない極度の疲労を覚え、翌日には熱…

野村胡堂を読む

電子本『野村胡堂作品集 214作品』( 九十九円!)に収められている『胡堂百話』を読んだ。銭形平次の作者と知るばかりでご縁のない方だったが、この素晴らしい随筆集で一気にファンとなった。いずれ銭形平次もいくつか読んでみよう。なお本書は昭和三十四年…

「青春18×2 君へと続く道

七十歳をすぎていまさら「青春18」でもあるまいとパスに決めていましたが映画投稿サイトのコメント欄を読むうちやはり気になって劇場へ足を運びました。結果は大正解、よくぞパスしなかった。あとでチェックすると監督、脚本はわたしが「ヤクザと家族」を機…

「ゴッドファーザー」の舞台裏

映画「ゴッドファーザー」は一九七二年の公開ですから一昨年二0二二年は五十周年にあたっていました。おそらくこれに合わせて製作された「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」を先日U-NEXTの配信でみました。 「ゴッドファーザー」製作をめぐるパ…

『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』

春日太一著『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』ははじめ二0一三年一月、PHP新書の一冊として、そして二0一七年九月、増補した「完全版」が二0一七年九月、文春文庫から刊行された。わたしが読んだのは後者で、本書で長きにわたって映画と舞台に出演してき…

「碁盤斬り」

劇場を出るとすぐ脚本を担当した加藤正人みずから書き下ろした小説『碁盤斬り 柳田格之進異聞 』(文春文庫 )を買い求めました。それくらい興味深く、おもしろい作品でした。 川島雄三監督「幕末太陽傳」が複数の古典落語を組み合わせてあったように、白石…

「無名」~中国共産党と汪兆銘傀儡政権のスパイ合戦

本作は第二次世界大戦下の上海を舞台にしたスパイ・ノワール作品です。ネタバレは避けたくて試みてみたのですがどうも上手くいきませんでしたのであらかじめお断りしておきます。 この時代、陰謀渦巻く上海でのスパイ劇となると国民党と共産党の特務機関、諜…

蕎麦屋の二階〜 井上章一『愛の空間』

近代日本の男女、多くは婚姻外のかれらはどこでセックスをしていたか、そうしてその場所はいかなる意匠で彩られていたのか。井上章一『愛の空間』(角川選書)はこの問題についての実証的な研究で、いつもながら著者の問題意識の鋭さとユニークな議論には茫…

「鬼龍院花子の生涯」

政治資金問題をめぐる不祥事で「離党勧告」の処分を受けた安倍派幹部の世耕弘成前参院幹事長が四月四日に離党届を提出し、その際、記者団の取材に応じ「明鏡止水の心境。一番重い処分を誠実に受けたい。冷静な気持ちで政治責任を取って事態を収束させたい」…

オナラの映画

昨年二0二三年は小津安二郎監督の生誕百二十年、歿後六十年にあたっていて、そのためでしょうNHKBSで「東京物語」ほか数本の小津作品の放送がありました。なかに「お早よう」があり、久しぶりの出会いとなりました。 東京郊外の新興住宅地の一角を舞台に元…

吉村昭『海も暮れきる』

丸谷才一『横しぐれ』は語り手が四国の松山市で種田山頭火(1882-1940)とおぼしい人物が本物それとも幻影だったのかを探ってゆく優れた中編小説で、一読のあとはおのずと山頭火が慕い、尊敬した尾崎放哉(1885-1926)のことが気になってくる。僧形に身をや…

英語のノートの余白に (14) 「しろうと」

ある受験参考書の例題に The man on the street has heard that this second Industrial revolution will refashion his life…… とあったので、街頭の人びとは、第二の産業革命は自分たちの生活を作り直すことになるだろうという話を聞いた……と訳して、解答…

「パスト ライブス/再会」

シャンソンに「再会」という名曲があり、ジャズに「ホワッツ・ニュー」というスタンダードナンバーがあります。 歌詞は似たようなもので、辞書に同工異曲の語釈として、詩文などを作る技量はおなじであるが、趣が異なることとありますから、まさしく絵に描い…

「アイアンクロー」

小学生のときのプロレスはいつもいつも金曜夜八時三菱電機提供のTVでしたが、二度だけ力道山のリングを見たことがあります。嬉しかったなあ。外人レスラーのトップはジェス・オルテガだったでしょうか。そのころすでにオルテガを凌駕する「鉄の爪」をもつ凄…

英語のノートの余白に(13) 文末の前置詞をもう一度

一九五五年にリリースされたアルバム「ヘレン・メリル ・ウイズ ・クリフォード・ブラウン」に収めるYou'd Be So Nice to Come Home To (作詞作曲コール・ポーター)はジャズヴォーカルの名唱と評価され、長らく「帰ってくれたらうれしいわ」や「帰ってくれ…

東京マラソン2024

三月三日。東京マラソン2024を走り、なんとかフィニッシュできた。 一月末に風邪をひいて腹具合が悪く、ようやくよくなったと思ったら次には喉にきて鼻水、咳が出るようになり、風邪が抜け切るのを待ってトレーニングを再開したものの肝心の距離を延ばす練習…

漱石と相撲

『近代作家追悼文集成[25]寺田寅彦』(ゆまに書房平成四年)に収める鈴木三重吉「寺田さんの作篇」に、ある日夏目先生のところへ伺うと、先生は「今寺田が帰つたところだがね、僕がアインシュタインの原理といふのは大体どういふことかねと聞いたら、それ…

三楽

幕末、越前国の国学者、歌人橘曙覧(たちばなあけみ)の「独楽吟」は「たのしみは艸のいほりの筵敷きひとりこころを静めをるとき」にはじまる五十二首の連作で「たのしみは~とき」という型で繰り返される。 「たのしみは妻子むつまじくうちつどひ頭ならべて…

平山周吉『小津安二郎』

はじめて平山周吉という活字を目にしたときは本名かペンネームか知らなかった。ペンネームだと映画「東京物語」で笠智衆の役名をそのまま用いたのだからおもしろいワザを使ったものだと感心したが、ちょいと胡散臭さも感じた。 いまはペンネームと知っている…

固唾を呑んで観た「ゴールド・ボーイ」

「ゴールド・ボーイ」を観ているうちに「仁義なき戦い」は撮影中ヒット間違いなしとさっそく会社は第二作の準備をしていたという話を思い出しました。そしてこの作品も続作があって然るべきだと確信しました。何回か固唾を呑んだあとのラストシーン、ここで…

「戦前の昭和史 雑感」補遺

星新一『明治の人物誌』は中村正直から杉山茂丸まで十人の生涯、事績に人物論を加味したコンパクトな評伝だが、いずれも作者の父で星製薬の創業者、星薬科大学の設立者である星一(1873-1951)がなんらかのかたちで関わりをもった人たちで、マクロな目で見た…

戦前の昭和史 雑感

昨年(二0二三年)八月に草思社から上梓された平山周吉『昭和史百冊』(草思社)を読んだ。百は多数の意で、書評や言及、紹介されている本は有名無名、古典的なものから最新の研究成果を問わず四百冊を超えている。大まかに年代別、テーマ別に編集されてい…

はじめての菊池寛

一月一日。 内田百閒に小学生のころのお正月の思い出を語った「初日の光」という随筆がある。 百閒は一八八九年(明治二十二年)の生まれで、当時尋常小学校の生徒たちはお正月に登校して「一月一日」(作詞:千家尊福、作曲上 真行)という唱歌を歌った。 …

小澤征爾氏の死去と『嬉遊曲鳴りやまず』

この二月六日、小澤征爾氏が八十八歳で亡くなった。クラシック音楽とはあまりご縁がなく、同氏指揮の演奏も五指を超すかどうかのスピーカー鑑賞しかないけれど、この日は追悼の意を込めてブラームス「ハンガリー舞曲第一番、五番」とモーツァルト「アイネ・…

「瞳をとじて」

劇場が明るくなるとともに三時間近く続いた心地よい緊張と鑑賞後の余韻に身を浸していました。ビクトル・エリセ監督三十一年目の新作にして集大成と喧伝されている「瞳をとじて」ですが新作や集大成といった売りの形容がなんだか余計に感じてしまうほど魅せ…

「ダム・マネー ウォール街を狙え!」

ほんと、面白くて、ためになる映画でした。いつの頃からか政財界のエライさんたちが「貯蓄から投資へ」と唱導しておられますが、下流の年金生活者の目には、高速道路での煽り運転としか映らず、巻き込まれてはたいへん、だから「ためになる」のはわが家計に…

内田百閒『東京焼尽』

内田百閒『東京焼尽』は昭和十九年十一月一日から翌年八月二十一日までの個性的な日記だ。個性的というのは主題を明確にして、そこに焦点を当てている。その主題とは敗戦末期の惨憺たる空襲とその克明な記録にほかならない。 「夜半二時三十分警戒警報。五時…

「比翼床」

星新一に、明治の世相や風俗、ゴシップなどを新聞記事に探り、集め、時代の流れを追った『夜明けあと』(新潮文庫)という編年史の著作がある。 父星一の生涯を描いた『明治・父・アメリカ』『人民は弱し官吏は強し』また母方の祖父で解剖学者、人類学者とし…

寺田寅彦『漱石先生』

寺田寅彦が熊本の第五高等学校に入学したのは一八九六年(明治二十九年)九月、おなじ年の四月に漱石は英語教師として着任していた。 昨年七月に中公文庫の一冊として刊行された寺田寅彦『漱石先生』は、漱石とのつきあい、その素顔、作品、また正岡子規をは…

川の流れ

昨年、「カサブランカ」のシナリオを読み、感じたり気になったりしたこことを四回にわたり本ブログに書きとめた。その二回目「「カサブランカ」のシナリオから(二)~《A lot of water under the bridge.》」(2023/6/5)では、ナチスの侵攻をまえにパリで…