「ゴールド・ボーイ」を観ているうちに「仁義なき戦い」は撮影中ヒット間違いなしとさっそく会社は第二作の準備をしていたという話を思い出しました。そしてこの作品も続作があって然るべきだと確信しました。何回か固唾を呑んだあとのラストシーン、ここで…
星新一『明治の人物誌』は中村正直から杉山茂丸まで十人の生涯、事績に人物論を加味したコンパクトな評伝だが、いずれも作者の父で星製薬の創業者、星薬科大学の設立者である星一(1873-1951)がなんらかのかたちで関わりをもった人たちで、マクロな目で見た…
昨年(二0二三年)八月に草思社から上梓された平山周吉『昭和史百冊』(草思社)を読んだ。百は多数の意で、書評や言及、紹介されている本は有名無名、古典的なものから最新の研究成果を問わず四百冊を超えている。大まかに年代別、テーマ別に編集されてい…
一月一日。 内田百閒に小学生のころのお正月の思い出を語った「初日の光」という随筆がある。 百閒は一八八九年(明治二十二年)の生まれで、当時尋常小学校の生徒たちはお正月に登校して「一月一日」(作詞:千家尊福、作曲上 真行)という唱歌を歌った。 …
この二月六日、小澤征爾氏が八十八歳で亡くなった。クラシック音楽とはあまりご縁がなく、同氏指揮の演奏も五指を超すかどうかのスピーカー鑑賞しかないけれど、この日は追悼の意を込めてブラームス「ハンガリー舞曲第一番、五番」とモーツァルト「アイネ・…
劇場が明るくなるとともに三時間近く続いた心地よい緊張と鑑賞後の余韻に身を浸していました。ビクトル・エリセ監督三十一年目の新作にして集大成と喧伝されている「瞳をとじて」ですが新作や集大成といった売りの形容がなんだか余計に感じてしまうほど魅せ…
ほんと、面白くて、ためになる映画でした。いつの頃からか政財界のエライさんたちが「貯蓄から投資へ」と唱導しておられますが、下流の年金生活者の目には、高速道路での煽り運転としか映らず、巻き込まれてはたいへん、だから「ためになる」のはわが家計に…
内田百閒『東京焼尽』は昭和十九年十一月一日から翌年八月二十一日までの個性的な日記だ。個性的というのは主題を明確にして、そこに焦点を当てている。その主題とは敗戦末期の惨憺たる空襲とその克明な記録にほかならない。 「夜半二時三十分警戒警報。五時…
星新一に、明治の世相や風俗、ゴシップなどを新聞記事に探り、集め、時代の流れを追った『夜明けあと』(新潮文庫)という編年史の著作がある。 父星一の生涯を描いた『明治・父・アメリカ』『人民は弱し官吏は強し』また母方の祖父で解剖学者、人類学者とし…
寺田寅彦が熊本の第五高等学校に入学したのは一八九六年(明治二十九年)九月、おなじ年の四月に漱石は英語教師として着任していた。 昨年七月に中公文庫の一冊として刊行された寺田寅彦『漱石先生』は、漱石とのつきあい、その素顔、作品、また正岡子規をは…
昨年、「カサブランカ」のシナリオを読み、感じたり気になったりしたこことを四回にわたり本ブログに書きとめた。その二回目「「カサブランカ」のシナリオから(二)~《A lot of water under the bridge.》」(2023/6/5)では、ナチスの侵攻をまえにパリで…
ことしはじめて映画館で観た「笑いのカイブツ」。2024初スクリーンでこの作品に出会えたのが嬉しく、また大いに刺激を受けました。 原作のツチヤタカユキ氏はこれまで知らない名前でしたが、この映画でさっそく原作を読んでみようという気になりました。わた…
十二月三日。昨日スマホの機種変更をした。iPadやKindleなどと充電の端子を一本化したのはよかったが、旧機種からデータを移行しなければならず、手引の小冊子をいただいたが緊張感ただならず、心配した通りきょうの日曜日は午後のラグビー早明戦の時間帯を…
パレスチナのガザ地区を支配するハマスがイスラエルを奇襲攻撃したのは先月十月七日だったからまもなくひと月になる。ミサイルをイスラエルにぶち込んだ。それにはこれまでの経緯があり、空は見えても牢獄状態にあるガザ地区のいまがあってのことだろう。 そ…
あけましておめでとうございます 本年もよろしくお願い申し上げます 二0二四年一月一日 退職して十余年、いちばん大きな変化はお酒がむやみに好きになったことで、これはまったく想定外の事態でした。暇と退屈と仲良くしているうち口腹のたのしみの度合が増…
フィンランド語による「枯れ葉」の流れるエンドロールが終わったとき、誰か拍手してくれないかな、そしたらこちらも熱烈に応じるのにと思ったことでした。残念ながらわたしは先頭切って手をたたく勇気を欠いていて心のなかでの拍手となってしまいましたけれ…
「およばぬこととあきらめました、だけど恋しいあの人よ…」 井上ひろしが歌った「雨に咲く花」(作詞:高橋掬太郎、作曲:池田不二男)のレコードは一九六0年(昭和三十五年)七月に発売され百万枚を売り上げたという。ちなみにフランク永井の「君恋し」は翌…
レイモンド・チャンドラーはストーリー・テリングに優れた作家とは思わないが、読者の情感にさざなみを寄せることには巧みで、その最たるものとして遺作『プレイバック』のあの人口に膾炙したやりとりがある。いまさら引用するのもはずかしくなるほどよく知…
江川泰一郎『英文法解説』に、視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚の五感についての説明があった。人を主語として五感を二つに分類すると、意志を持つ場合と持たない場合とがあり、前者はlook(at),listen(to),feel,taste,smell,後者はsee,hear,feel,taste,smellと…
江川泰一郎『英文法解説』(金子書房)を読んでいると、不定詞に伴う場合の前置詞の位置についていくつか例文があり、なかにGive me something to remember you by.(あなたを思い出すよすがとなるものをください)という一文があって、思わずニヤリとした。…
一九六三年十一月二十二日のアメリカ合衆国第三十五代大統領ジョン・F・ケネディ暗殺事件から六十年、映画「JFK」のオリバー・ストーン監督が今回はドキュメンタリーで事件の真相に迫っています。 ケビン・コスナーが暗殺事件の捜査に執念を燃やす地方検事を…
ヴィクトリア朝時代の小説を読んでいると、しばしばガヴァネス(governess)という言葉を見かける。裕福な家庭に雇われ、住込みで子供たちの教育と訓練を担当する女性のことで、子供たちの身の回りの世話をするのでなく、もっぱら教育に従事する。ふつう対象…
英語のノートの余白に(7)からだいぶん間があいたが、もう一度O・ヘンリー「最後の一葉」を取り上げてみたい。 肺炎に罹ったのを機に生きる意欲を失ったジョンズィ。往診に来た医師はスウディを廊下に呼び出して、彼女の生きる可能性は十にひとつくらい、そ…
宋の李瀆素という人、酒を好み人が節酒を忠告すると、養生にはこれが一番、好きな物を飲んで余生を送るなんて楽しいではありませんかと答えた。 艾子が飲み過ぎて吐いた。門人たちは師の酒を諌めようと豚の腸を吐きものに混ぜて五臓の一つが欠け四臓になって…
ビヤホールでの飲み会でジャニーズ事務所のことが話題になり、恥ずかしながらめずらしく吼えた。会社の先代社長の極悪非道はわかっているが、それを反省し改革に踏み出そうとしている東山やイノッチという人にビール屋のオヤジがやれ社名を変更せよとか所属…
超冒険活劇に心躍る、興奮の九十一分でした。公式サイトには、「ランボー」「マッドマックス」をミックスしたアドレナリン全開の面白さ、フィンランド版「怒りのデスロード」といった文字が踊っていて、正真正銘おっしゃる通りなのデス。 一九四四年、第二次…
堅牢な設計にして、ほどよい潤いを帯びたパリやブルターニュの魅力の映像にたびたびうっとりしました。(といえばなんだかhardにしてgentleといわれたあの私立探偵みたいですけど) ストーリーを追うのが苦手なわたしの悪癖かもしれないのですが、素敵な映像…
ワシントン・スクエアの西側の古びたアパートに貧しい芸術家たちが住んでいる。そのなかのひとりジョンズィが肺炎を患った。診察した医師はジョンズィの友人スウディに、病状よりも生きる気力が問題だと告げる。医師が懸念した通り、心身ともに疲れ、人生に…
昔のイギリスでは、犬をけしかけ熊や牛を噛ませる、あるいは犬どうしを噛ませあって血だらけになるのを見て楽しんでいて、これを「ベア・ベイティング」(bearbaitingクマいじめ)や「ブル・ベイティング」(bullbaiting牛攻め)と呼んでいた。ベイティング…
ある事情でシチリアに渡ったロバート・マッコール(ゼンデル・ワシントン)でしたが、そこで負傷し、やっとのことアマルフィ海岸沿いの静かな田舎町(ダスタモンテとか言ったかな?思い出せない、架空の名称でしょう)にたどり着きます。そこで温かく接して…