2016-01-01から1年間の記事一覧

「君が代」と「民が代」

就活を素材に若者たちの心模様を描いた「何者」を観た。三浦大輔監督は若者の精神風俗を描くのに巧みで、演劇界出身らしい構成も面白く、会社訪問の経験をもたない前期高齢者としてはエントリーの経緯などこれまで知らない世界を知ることができてありがたか…

発見のモニュメント(西班牙と葡萄牙 其ノ五十一)

ベレンの塔とともにテージョ川に面して建つ発見のモニュメント。五十二メートルの高さのコンクリート製で、十五世紀のポルトガルとスペインの探検家が愛用したキャラベル船の船首を模しており、大航海時代を彩った人物群が刻されている。先頭に立つのは大航…

「Smoke」

一九九五年に公開され大ヒットしたウェイン・ワン監督「Smoke」がデジタルリマスター版で再公開された。スクリーンかビデオかは定かではないがブルックリンの街角にある煙草屋はしっかりおぼえていて、たしかにこの作品は観たことがあるのだが記憶はそこしか…

ジェロニモス修道院(西班牙と葡萄牙 其ノ五十)

ジェロニモス修道院はヴァスコ・ダ・ガマによるインド航路開拓およびエンリケ航海王子の偉業をたたえ、一五0二年マヌエル一世により着工された。一五一一年にほとんど完成していたが、一五二一年のマヌエル一世の死去など紆余曲折があり最終的には三百年の…

「ヒッチコック/トリュフォー」

映画についての本のなかの本『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』をめぐるドキュメンタリー。一冊の本とコラボレーションした無類卓抜の作品は季節柄、映画ファンへの嬉しいクリスマスプレゼントとなった。 処女長篇『大人は判ってくれない』で一躍ヌーヴェ…

「過去を持つ愛情」(西班牙と葡萄牙 其ノ四十九)

リスボンを舞台とした忘れがたい作品に「過去を持つ愛情」がある。一九五五年のフランス映画で監督はアンリ・ヴェルヌイユ。 男(ダニエル・ジェラン)は第二次大戦から帰還したその日、妻の不貞の場面に出くわし殺してしまう。パリで無罪を言い渡されたあと…

史料の裏側

安政三年(一八五七年)備前岡山藩は倹約令の一環として被差別部落民にたいし、公式の場においては紋なし、渋柿による渋染の着衣を義務づけ、下駄履きは原則禁止すると御触書を発した。 着物にまで加えられた制約と差別に被差別部落民は非武装で強訴を行い、…

ファド(西班牙と葡萄牙 其ノ四十八)

リスボンの夜はファドのディナーショーで過ごした。ファドはユネスコの世界無形文化財の遺産に登録されているポルトガルの民族歌謡で、譬えるならアルゼンチンにおけるタンゴのようなものか。 ふつうはポルトガルギター(ギターラ)とクラシックギターで伴奏…

「灼熱」

先日クロアチア、スロベニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロの五か国を廻って帰国すると折よくダリボル・マタニッチ監督「灼熱」(二0一五年第六十八回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞)が上映されていて、さっそく…

ロカ岬と犬吠埼(西班牙と葡萄牙 其ノ四十七)

〈Onde a terra acaba e o mar começa〉左の写真は「ここに地終わり海始まる」と刻されたロカ岬の石碑。 ポルトガルから帰国し、三週間ほどして銚子へ行き、偶然ロカ岬と犬吠埼が友好関係にあるのを知った。大西洋に向かってルイス・デ・カモインスの詩の一…

「ブルーに生まれついて」

ジャズの東も西もわからないころ何かの本か雑誌で「チェット・ベイカー・シングス」という素敵なアルバムがあると知った。四十年以上も昔のことなのでネットで検索して聴くわけにはゆかず、小遣いのゆとりはなかったからレコード店で探すこともないままだっ…

ロカ岬(西班牙と葡萄牙 其ノ四十六)

ロカ岬は首都リスボンから西へおよそ三十km離れたところにある。ユーラシア大陸最西端に位置していて、眼前には大西洋が広がる。突端や辺境と聞くだけでわたしの旅心は高ぶる。じっさい百四十メートルの高さから雄大な大西洋を望んだのはうれしく得難い体験…

ベトナム戦争を読む

十一月。上野駅で見た浅草鷲神社のポスターにことしの一の酉は十一日、二の酉は二十三日とあった。酉の市と聞くと読みたくなるのが樋口一葉『たけくらべ』だ。 「此年三の酉まで有りて中一日はつぶれしかど前後の上天気に大鳥神社の賑わひすさまじく、此処を…

第95回新宿―青梅43kmかち歩き大会

十一月十三日、新宿〜青梅間43kmを歩いた。うれしいことに小春日和の一日だった。 この大会は毎年三月と十一月に行われているが、ことしの三月は上海に旅行していて参加できず、そのぶんもここでがんばろうと意欲に燃えていた。いっしょに参加したグループの…

石畳(西班牙と葡萄牙 其ノ四十五)

ドライバーには申しわけないが、車の走行時、石畳は摩擦が大きく、タイヤと石畳が接する音もうるさい。アスファルトにしたほうが経済的、効率的ではあるが、それでは味気なく観光の魅力も減ってしまう。 神楽坂の石畳の小路をときどき散歩するが、あそこがア…

「手紙は憶えている」

朝、目をさました老人が妻の名を呼ぶと中年の女性が「お気の毒ですけど、奥様は先日お亡くなりになられたのですよ。わたしは奥様の介護をした職員で、いまはあなたの担当をしています」と口にする。 老人はアウシュビッツの虐殺を生き延び、渡米して現在は高…

ジラルド広場(西班牙と葡萄牙 其ノ四十四)

松田毅一『天正遣欧使節』は少年使節の史実探求書であるとともに、著者が使節の旅の軌跡をたどった紀行文ともなっている。なかにエヴォラは「博物館都市」の異称があるほど愛すべきところ、「一幅の名画」と譬えたいばかりの街、と書かれている。 エヴォラ大…

「われらが背きし者」

モロッコで休暇中のイギリス人夫婦―大学教授の夫ベリー(ユアン・マクレガー)と弁護士の妻のゲイル(ナオミ・ハリス)―がディマ(ステラン・スカルスガルド)という男と偶然知り合い、かれの自宅でのパーティに呼ばれたことで家族をも知る。二人は知らなか…

エヴォラの神殿(西班牙と葡萄牙 其ノ四十三)

スペイン国境を越えてポルトガルへ入り、バスを降りるとそこはエヴォラだった。ローマ帝国時代からポルトガル南東部アレンテージョ地方の中心地で、コリント様式の神殿の一部が遺っている。 八世紀にムーア人の領土となり、以後十二世紀なかばまでイスラムの…

豊洲市場問題私見

二0一五年のイングリッド・バーグマン生誕百周年を記念したドキュメンタリー作品「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」を観て、その夜、バーグマンとアラン・バージェスによる『イングリッド・バーグマン マイ・ストーリー』を手にした。一九八0年…

映画「エル・シド」(西班牙と葡萄牙 其ノ四十二)

はじめてスペインを舞台とした映画を観たのはチャールトン・ヘストンとソフィア・ローレンが出演した「エル・シド」だったとおもう。スペイン映画ではなく、アメリカとイタリアの合作で、監督は「ウィンチェスター’73」や「グレン・ミラー物語」を撮ったアン…

「ジェイソン・ボーン」

マット・デイモンのボーンがスクリーンに帰ってきた。監督は「ボーン・スプレマシー」「ボーン・アルティメイタム」とおなじ、そしてマット・デイモンがこの人なしに続篇はありえないと語っていたポール・グリーングラスだ。 手持ちキャメラを駆使した臨場感…

エル・シドの像(西班牙と葡萄牙 其ノ四十一)

エル・シド(本名ロドリーゴ・ディアス・デ・バビール)は十一世紀後半のレコンキスタで活躍したカスティーリヤ王国の貴族で、スペイン語読みに近い表記ではエル・シッドとなる。 カスティーリヤ王国アルフォンソ六世治世下にあってエル・シドは二回もしくは…

『山猫』を読む〜マフィアについて

『山猫』のドン・カロージェロはドン・ファブリーツィオ公爵家が所有する大農地の管理人を務めているが、その経済力は主家を凌ぐほどに強く、また「お館さま」の土地を含むドンナフガータ村の村長でもある。その娘アンジェリカが公爵の甥タンクレーディと結…

パティオ(西班牙と葡萄牙 其ノ四十)

セビリアの旧ユダヤ人地区サンタクルス街は二十世紀のはじめに再建されたものだが、かつての面影は色濃く残っているとのことだ。 ユダヤ人は徴税を請け負ったり、金貸しの仕事をしていたために住民の恨みを買いやすく、しばしば暴徒の襲撃を受けた。かれらを…

『山猫』を読む〜シチリアの挽歌

ことしのはじめシチリア島を含む南イタリアを旅したのを機に長年書架で眠っていたジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサの名作『山猫』(小林惺訳、岩波文庫)を手にした。 イタリア統一戦争を背景に、シチリアの名門貴族サリーナ公爵家の有為転変の軌…

サンタクルス街(西班牙と葡萄牙 其ノ三十九)

セビリアの大聖堂、宮殿、博覧会の会場といった大がかりなところをめぐったあとは石畳の路地の入り組んだ旧市街のサンタクルス街へ。もとのユダヤ人地区で迷路のようなたたずまいだ。 わたしたちが訪れたのはさわやかな空気に包まれ、やわらかな陽が射す午後…

「ハドソン川の奇跡」

二00九年一月十五日、USエアウェイズ、ニューヨーク・ラガーディア空港発シアトル行き1549便が離陸直後に鳥の大群の衝突を受け全エンジン停止という危機に見舞われた。管制官は近くの空港に引き返すよう指示をしたが、それを不可能と判断した機長はハドソ…

ハノイへ飛ぶ(ベトナムの旅 其ノ一)

かつての北ベトナムをすこしばかり観光してきた。羽田〜ハノイ〜バッチャン村〜ハロン湾〜タンロン〜ハノイ〜羽田というのがその旅程。観光というよりもかねてよりベトナム戦争の地を一度訪ねてみたい気持があり、ようやく願いが叶ったしだいだ。戦争の地と…

『鶉衣』を読む

昨年のラグビー・ワールドカップのベスト4は南半球勢が占めた。その四強ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンによるラグビー・チャンピオンシップで、アルゼンチンが南アに26-24で勝った。ホーム&アウエー方式で一週間前のアウエー…