遅船庵筆記

叙 勲

令和四年春の叙勲が四月二十九日に発令され、なかに旭日大綬章を受章した田中直紀、田中真紀子ご夫妻の名前が見えていた。政治家の受章は政治利用を防止する観点からだろう、以後選挙に立候補しないことを条件としているから受章は政界引退の記念でもある。 …

暗い見通し、ふたつ

一九三三年(昭和八年)三月三日に起きた釜石市東方沖を震源とするマグニチュード8.1の昭和三陸地震とそれに伴った津波を機に、寺田寅彦は「津波と人間」というエッセイを書いた。そのなかで関東大震災にも触れ「二十世紀の文明という空虚な名をたのんで、安…

嘘と血

四月三日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の報道官、セルゲイ・ニキフォロフ氏がBBCのインタビューに応じ、ロシア軍から奪還した首都キーウ周辺の地域で、複数の市民が処刑され、集団埋葬地に埋められていたことが判明したと語った。 じっ…

電子辞書

二00七年に書いた「電子辞書の時代に」というエッセイに、わたしは、大学院で英文学を専攻する知人から聞いた話として、電子辞書があるので特段の必要がない限り教室に紙の辞書を持参する院生はいないと書いていて、すでにこのころ大学では辞書は頁を繰っ…

ミモザとアカシア

ご近所を散歩していたところ花屋さんの掲示板に、三月八日はミモザの日、イタリアで男性から女性にミモザの花が贈られるようになったことに由来していますといった旨のことが書かれてあった。帰宅してネットをみると三月八日の国際女性デーの日にもとづいて…

辛夷

ご近所の根津神社の裏門坂に辛夷の木が何本か並んでいて、春の足音が近くなるいまの季節、白い花を咲かせる前の蕾を見せてくれている。名前の由来は、この蕾が子供の拳(こぶし)に似ているところから来ているとするいっぽう『滑稽雑談』(正徳三年)には「…

ロシアの侵略に思う

ウクライナが気の毒でときにTVニュースを見ていられない。映像を見るのが辛い。しかし情報は知っておきたいのでその際はラジオに頼っている。 二月二十三日プーチン大統領はウクライナ国内の親ロシア派支配地域の独立を承認する大統領令に加え、ロシアと両地…

小晦日(こつごもり)

大田南畝「吉書初」にこんな一節があった。 「もういくつねて正月とおもひしをさな心には、よほど面白き物なりしが、鬼打豆も片手にあまり、松の下もあまた潜りては、鏡餅に歯も立がたく、金平牛蒡は見たばかり也。まだしも酒と肴に憎まれず、一盃の酔心地に…

いまひとたび、人生七十・・・

ことし二0二一年三月三日に九十三歳で亡くなった小沢信男の遺著『暗き世に爆ぜ 俳句的日常』(みすず書房)に「初湯殿卒寿のふぐり伸ばしけり 青畝」という一句があった。 作者阿波野青畝(あわのせいほ1899-1992)は原田浜人、高浜虚子に師事し、昭和初期…

人生七十・・・

「人生七十古来稀」と前書があるから大田南畝(1749~1823)が七十歳を迎えたときの作だろう。 「一たびはおえ一たびは痿(なえ)ぬれば人生七十古来魔羅なり」 「おえ」は生え、でよいのかな。いま七十歳の老輩が身につまされたのはいうまでもありません。 …

新コロ漫筆〜酒と煙草

作家の平野啓一郎氏が、世界的に人が酒を飲まなくなってきており、長期的には酒に頼らない経営も考える時期に差し掛かってるんだろうなぁ、コロナで付き合いがなくなったのを機に酒を止めた人もいる、とツイートされていた。 人類の酒量が落ちてきているとい…

新コロ漫筆~政治と言葉

先日YouTubeで田中均氏(元外務審議官、現在日本総研国際戦略研究所理事長)が、安倍、菅内閣に共通する特質について三つの点を指摘していた。すなわち「説明しない」「説得しない」「責任をとらない」 の3Sである、と。 三つのうち説明と説得は政治と言葉の…

新コロ漫筆〜「御役人は隙になくては不叶事也」

九月三日、菅首相が自民党総裁選の不出馬と首相退任を表明した。これをうけて小泉進次郎環境大臣が、感謝のほかなくこれほど仕事をした内閣もないと涙を流しておっしゃっていた。感謝は個人的なものだからともかく、これほど仕事をしたというのには首をかし…

新コロ漫筆~「地獄を作るな」

「天堂を願はんより地獄を作るな」 太田南畝『半日閑話』に引かれてあったある方の家訓で、天堂は天上界、極楽浄土を意味している。 菅首相は東京オリンピック・パラリンピックを開催して成功させ、衆議院議員選挙の勝利と自身の自民党総裁再選を果たし、首…

新コロ漫筆~On Liberty

さきごろ国民民主党、立憲民主党がそれぞれ連合と締結した政策協定のなかに「左右の全体主義を排し」との文言があり、これについて国民民主党の玉木雄一郎代表が「共産主義、共産党のことだ」と発言したところ、日本共産党がこれに反発し、小池晃書記局長が…

「読み飛ばし」についての考察

八月六日、菅義偉首相は広島の原爆死没者慰霊式・平和祈念式でのあいさつで 広島市を「ひろまし」、原爆を「げんぱつ」といいまちがえたうえに「読み飛ばし」であいさつの一部を意味不明にしてしまった。 同日夜、わたしは犯罪組織を検挙するためフライドチ…

新コロ漫筆~二回目の接種のあとに

七月二十二日に新型コロナウイルス予防の二回目の接種(ファイザー)をしてシリーズを終えた。テレビではわたしと同世代とおぼしき高齢者が、接種を終えてこれでひと安心とか、肩の荷が下りましたと笑顔でおっしゃっていた。 自分もあんなにハッピーになれた…

新コロ漫筆〜副反応について

七月一日に一回目のワクチン接種をした。二回目は二十二日に予定されている。 無事に終わった一回目だが、じつは副反応が気になって何回か腰が引け、当日はニュースで早くワクチンを接種できてよかったとよろこんでおられた方々とは対照的に不安な気持で接種…

新コロ漫筆~「客子暴言」を読む

永井荷風に「客子暴言」という随筆がある。 初出は大正五年(一九一六年)七月一日「文明」、いま『荷風全集』第十二巻(岩波書店新版)に収められていて、四頁ほどの短文ながら、このころの性風俗を俯瞰するのに有益また貴重な一文であり、また新型コロナ禍…

新コロ漫筆~もう一度、勇気、希望、絆

東京オリンピックパラリンピック開催の意義について菅首相は「世界最大の平和の祭典であり、国民に勇気と希望を与える」、丸川珠代オリンピックパラリンピック担当大臣は「コロナ禍で分断された人々の間に絆を取り戻す大きな意義がある」と語った。 オリパラ…

新コロ漫筆~勇気、希望、絆

東京オリンピック1964のときは中学三年生だった。日紡貝塚大松監督と東洋の魔女、体操個人女子総合金メダリストのチャスラフスカ、マラソンのアベベ、円谷たちの姿はその気になればいまでも瞼に浮ぶ。教室では先生が「ソ連の重量挙げの選手たちは食パンとお…

新コロ漫筆〜池江璃花子選手のこと

五月十一日までだった緊急事態宣言が月末まで延長されることとなった。 すると五月十七日に予定されていたIOCバッハ会長の日本訪問が緊急事態宣言の延長を受けて延期されるとの報道があった。なんだか今回の緊急事態宣言の日切をとりあえず五月十一日とした…

新コロ漫筆〜狂歌をよむ

永井荷風が大田南畝について書いた随筆や論稿を読んでいるうち、荷風経由ではなく直截南畝を読んでみたくなり、 いま『大田南畝全集』の狂歌の巻を読んでいる。素人なので自己流の解釈は避けられず、それに気がかりな新型コロナウイルスに引きつけて読んだり…

新コロ漫筆〜オリパラの夢

三代目桂三木助が得意とした噺のひとつに「三井の大黒」があった。 左甚五郎に大黒様を彫ってもらった三井家の使いが、「まえには阿波の雲慶先生に恵比寿様を彫っていただき、『商いは濡れ手であわのひとつかみ』という句をいただきました。つきましては先生…

新コロ漫筆〜ワクチン異聞

欧米から遅れること二か月、日本でも二月から新型コロナワクチンの接種がはじまった。順番としてまず医師や看護師などの医療従事者、次に高齢者や基礎疾患を有する人、そうしてエッセンシャル・ワーカーと呼ばれる勤労者がつづく。いまこれを書いている四月…

新コロ漫筆〜平平山人のこと

厚生労働省の職員が三月二十四日に銀座で二十三人が参加する大宴会を開いていたことが発覚した。三月二十一日に新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言は解除されたが政府は解除後も大人数での飲食や歓送迎会を控えることを国民に呼び掛けていて、その本丸の…

新コロ漫筆~医者寒からず・・・

江戸時代の医学書の多くは漢文で書かれていたから、医師志望者は漢文の素養を高めるために四書五経など儒学の古典を学んでいて、医学と儒学は隣り合わせていた。 漢文の医学書といっても内容はすべて東洋医学ではなく、なかには漢訳された西洋の医学書が清国…

新コロ漫筆~動けば損

晩唐の詩人李商隠は引越しが大好きで、そのため貧乏を通したと聞く。官僚政治家だったが賄賂とかは取らなかったのだろう。 ことわざに「動けば損」という。男女の仲やマネーゲームにも適用されているがどちらともご縁のない老爺としてはズバリ転居、旅行を戒…

十年目の三一一に小沢信男氏を悼む

元禄十一年(一六九八年)八月、隅田川に長さ百十間(約二百メートル)の大橋が架けられ、永代橋と名付けられた。場所は深川の渡しがあったところでいまの橋よりも百メートルほど上流にあった。 「つく田島つくづく月をながむればかたぶく秋の長きよのはし」…

新コロ漫筆~「行蔵は我に存す」

反共タカ派のニクソン大統領はベトナム戦争に終止符を打ち、中国と国交を結び、消費税反対だった村山富市首相は税率引き上げを認め、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長森喜朗氏はわが国を神の国と讃える超のつく国威発揚論者だが二月三日の日…