私の「いつか聴いた歌」

「雨に咲く花」

「およばぬこととあきらめました、だけど恋しいあの人よ…」 井上ひろしが歌った「雨に咲く花」(作詞:高橋掬太郎、作曲:池田不二男)のレコードは一九六0年(昭和三十五年)七月に発売され百万枚を売り上げたという。ちなみにフランク永井の「君恋し」は翌…

「思い出のサンフランシスコ」

むかし英語の授業でleaveという単語を習ってかすかな戸惑いを覚えた記憶がある。去ると残していくというふたつの意味がうまく結びつかなかったのである。おっちょこちょいは去ると残るなら真逆じゃないかと思ったような気もする。 あらためて辞書の語釈を列…

「恋人よ我に帰れ」

ある英文法の本に、The earth、The sunがともに定冠詞付きで使われるのは、地球も太陽もひとつしかないものであり、十分に特定されていると想定されるからだと説明があった。 The sky was blue and high above The moon was new and so was love. わたしがカ…

「魅せられて」

エリザベス二世が、九月八日スコットランド、バルモラル城で崩御され、十九日ウィンザー城内の聖ジョージ礼拝堂に埋葬された。 一九五二年二月六日の就位から二0二二年九月八日までの在位七十年を辿ってみたいと思っていたところ、誌名は忘れたがある週刊誌…

マイ・ファニー・ヴァレンタイン

ジャズのスタンダードナンバーでいちばん歌われ、演奏される機会の多い曲はなんだろう。第一感は「 マイ・ファニー・ヴァレンタイン」( my funny valentine )で、ボーカル、インスツルメントゥル問わずいろんなアルバムに収められていて聴く機会が多いこと…

「侍ニッポン」

昭和戦前の貧困層、負け組の心情をうたった最高傑作として昭和十二年(一九三七年)に上原敏と結城道子のデュエットでヒットした「裏町人生」を推す。よろしければ本ブログ二0一八年十二月六日の記事「裏町人生」を参照してみてください。 貧乏・負け組歌謡…

「裏町人世」

淀川長治さんはときに「日本映画って、何を観ても貧乏臭いのね、衣装も三流だし……」と語っていた。そのときわたしがきまって思い出すのが太宰治の「弱者の糧」というエッセイだった。ここで太宰は、日本の映画は多く敗者の心を目標にして作られていて、その…

「芸者ワルツ」

「四谷赤坂麹町チョロチョロ流れるお茶の水、粋な姉ちゃん立ち小便」はフーテンの寅さんの啖呵売として知られるが、明治末期から大正期にかけての公衆便所は男女ではなく大小の別でつくられていて、女性もときに朝顔便器に背を向けておしっこをしていて、こ…

「April In Paris」

パリを旅したのはこれまで二度とも秋だった。素敵な季節にはちがいないけれど、ジャズのスタンダードナンバーに「パリの四月」があるものだから、四月のパリがついつい気になってしまう。 そこでは、マロニエの花咲く四月のパリ、思いもしなかった春の魔力、…

「September In The Rain」

「さびしさはその色としもなかりけり真木立つ山の秋の夕暮れ」(寂蓮) 「心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮れ」(西行) 「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ」(藤原定家) 『新古今和歌集』にある三夕の歌はいずれも晩秋…

「September Song」

ことし二0一七年八月の東京は月はじめから半月以上にわたり曇り一時雨といった天気が続いた。猛暑はどこへ行ったのやら、ずいぶんと日照時間の少ないまま九月になった。 異例の夏だったけれど九月を迎える気分に変わりはなく、いつものように「セプテンバー…

「I'll be seeing you」 余話

ウィリアム・ジンサー『イージー・トゥ・リメンバー アメリカン・ポピュラー・ソングの黄金時代』という本がある。先年、国書刊行会から関根光宏氏の訳で上梓された。(WilliamZinsser『EASY TO REMEMBER The Great American Songwriters and Their songs』…

「I'll be seeing you」と「港が見える丘」

第二次世界大戦当時のアメリカのラヴソングに「I'll be seeing you」(さようなら、また会いましょう)という曲がある。 一九三八年に発表されたときはありきたりのバラードとして注目されずヒットもしなかったが、戦争になり遠い戦場にいる恋人を思い、再会…

「鈴懸の径」

「鈴懸の径」は昭和十七年(一九四二年)灰田勝彦の歌でヒットした。作曲は兄の灰田有紀彦、作詞は佐伯孝夫。レコードはこの年の九月に出ている。 灰田は昭和十一年立教大学の卒業で、いまキャンパスには〈友と語らん 鈴懸の径 通いなれたる 学舎の街/やさ…

ビリー・ホリディのこと〜「キャロル」の余話の二

ビリー・ホリディは人種差別、麻薬、アルコール依存性などとの壮絶な戦いを余儀なくされた。その生涯は自伝「奇妙な果実」に詳しい。けれど、そうした彼女の人生のイメージは少しばかり増幅され過ぎた感がありはしないだろうか。 ジャズに親しむようになって…

「イージー・リビング」〜「キャロル」の余話

デパートのおもちゃ売り場にアルバイトとして勤める十九歳のテレーズはお客のなかに優美と華やかさを併せ持つ女性を見て心惹かれる。 パトリシア・ハイスミス『キャロル』の冒頭のシーンで、まもなくテレーズはそのキャロルという美しい人妻と交際するように…