2014-01-01から1年間の記事一覧

リタ・ヘイワースのミュージカル

寺田寅彦は「コーヒー哲学序説」に、研究している仕事が行き詰まってどうにもならないとき、コーヒーを飲む、コーヒーカップの縁がくちびると触れようとする瞬間、ぱっと頭の中に一道の光が流れ込むような気がしたり、解決の手がかりをおもいつくことがしば…

景観の由来(土耳古の旅 其ノ三十四)

標高1000メートルを超えるアナトリア高原中央部に100km²近くにわたって岩石地帯が広がるカッパドキア。自然がもたらした驚異の景観、奇岩の由来をトルコ政府観光局のウエブサイトにあった記事をもとにまとめてみました。 遠いむかしカッパドキアの火山活動…

ゴーン・ガール

ニック・ダン(ベン・アフレック)は五回目の結婚記念日に、妻のエイミー(ロザムンド・パイク)が失踪したのを知る。エイミーは両親が書いた児童文学の主人公のモデルだったこともあり、警察に届け出るとたちまち報道されて大きな話題となる。まもなくニッ…

カッパドキア(土耳古の旅 其ノ三十三)

一面に奇岩がそびえるギョレメ国立公園。1985年にユネスコの世界遺産リストに加えられた野外の博物館である。 奇抜で不思議な景観はいくら見つづけても飽きない。なかには岩の頂上まで登れるところもあり、時間があれば行ってみたかったけれど、残念ながらそ…

「ストックホルムでワルツを」

マシュー・マコノヒーの「リンカーン弁護士」を、わたしはリンカーン大統領の弁護士時代を描いた映画だろうと思い、さほど関心がなかったのでパスしてしまった。ところがあとでよく出来たミステリー作品と何かの記事で読んでDVDで観たところ、なるほど批評に…

絨毯の店で(土耳古の旅 其ノ三十二)

パックツアーだから旅行社と契約している名産品店へ案内するコースが組まれていて、今回は革製品、トルコ石、絨毯、陶器の工房を兼ねたお店へ立ち寄った。そして各店舗で説明と案内にあたる方々の流暢な日本語に感じ入った。なかには漫談で演芸ホールに立て…

「或る夜の接吻」

「悲しき竹笛」(作詞:西條八十、作曲:古賀政男)という曲を知ったのは中学生のときに見たテレビの懐メロ番組で、それ以来、奈良光枝の美貌とともに忘れがたくなった。 すこししてこの曲が近江俊郎と奈良光江のデュエッでレコーディングされているのと「或…

洞窟レストランで(土耳古の旅 其ノ三十一)

奇岩そびえるカッパドキアの洞窟レストランで出た壺焼きケバブ。ここへ来るバスのなかで現地のガイドさんが江利チエミの歌った「シシュ・カバブ」を流してくれた。 「さあ、さあ、いかがです、焼きたてのシシユ・カバブ、ええ、ええ、所変われば気も変わる、…

第二回日劇ミュージックホール同窓会

先月十一月二十四日、第二回日劇ミュージックホール同窓会がすこし早めの忘年会を兼ねて、前回とおなじ銀座のパセラを会場に開かれた。 参加者は五十音順に、梓かおり、小浜奈々子、小鳩美樹、殿岡ハツエ(ご夫妻で出席)、松永てるほ、岬マコ、若山昌子のダ…

「クォ・ヴァディス」(土耳古の旅 其ノ三十)

迫害を避けたキリスト教徒が生活した地下都市を前にしてシェンキェヴィチ「クォ・ヴァディス」を思い出した。丸山眞男先生が若いとき読んで感銘を受けた本として挙げているのを読んで岩波文庫の三冊本を買ったのはよかったがそのままになっている。映画はず…

「紙の月」

都市銀行の契約社員として勤務する主婦の梅澤梨花(宮沢りえ)が年下の大学生平林光太(池松壮亮)と出会い、愛欲に溺れるうちに顧客の預金を横領する。夫との関係にむなしさを覚え、若い男と関係を重ねながら彼女の金銭とモラルの感覚はマヒし、狂ってゆく。…

地下都市カイマクル(土耳古の旅 其ノ二十九)

カッパドキアのカイマクルを見学した。二十世紀になって地下都市の存在が知られるようになり、いまもなお発掘がつづいている。まだ全貌は明らかになっていないが、百以上の地下都市があり、その建設も古くは青銅器時代にさかのぼるという。 主には初期キリス…

芥川比呂志を読む

所用で帰郷した。本は持たずに帰り、実家に預けてある未読本のなかから芥川比呂志『決められた以外のせりふ』と『肩の凝らないせりふ』の二冊を取り出し、気の向くままあちらこちらの頁を繰った。先日中村伸郎のエッセイを読み、親友だった芥川比呂志のエッ…

隊商宿の屋上で(土耳古の旅 其ノ二十八)

高い所と見るとすぐ上りたがる人がいる。ほめられることはまずないが、わたしもその一人で、さっそくキャラバンサライの屋上に出てみた。 石田幹之助『長安の春』には唐の都の車馬の往来が述べられていて、宮廷の儀仗に迎えられた外国からの賓客のきらびやか…

一定不変

男は娼婦を買うのと買わないのに分類されるという説がある。ほんとかどうかは知らない。仮にこれを認めるとして、二つの割合はどうなっているのか、時代によってこの割合は変化するのか、しないのか、という問題にぶつかる。 永井荷風の作品の多くは芸者や娼…

隊商宿の中庭で(土耳古の旅 其ノ二十七)

隊商宿はふつう中庭がある二階建ての建築物で、一階は取引所、倉庫、厩、管理人や使用人の住居にあてられ、二階は客人である隊商の商人たちの宿泊施設となっていた。(Wikipedia)駱駝や馬を入れなければならないので入口の天井は高い。 石田幹之助先生の名…

金目の話〜チョー極私的ミクロ経済篇

内閣府が11月17日に発表した7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値は実質で前期比0・4%の減となり、民間調査機関の予想をだいぶん下回るものとなった。 わたしは東日本大震災のあった年の三月末で定年退職し、翌月から年金生活となった。もちろん年収は大きく…

キャラバンサライ(土耳古の旅 其ノ二十六)

コンヤからカッパドキアに向かう途中すこし長めの休憩があり、ここで希望する方は入場料三トルコリラでキャラバンサライ(隊商宿)の見学をどうぞと案内があった。 ガイドの説明もなかったのでここが何という町で、この隊商宿がいつの時代のものなのかはわか…

『歳月』

みこしは土地っ子がかついで、和風のうちののきさきをしずかに、ゆっくり、もみながら進んでいくのでないといけない。なのに洋風建築が多くなり、職場と住居が分かれてかつぎてをよそから借りてこなくてはいけなくなった、それやこれやで東京のまつりがつま…

メヴラーナ博物館(土耳古の旅 其ノ二十五)

メヴラーナ博物館はメヴラーナ教団の創始者ジェラルディン・ルーミーおよび教団発展に尽くした高僧たちの霊廟であり、かつては修行の場だった。この教団はセマという独特の旋回舞踏で知られていて館内には竹笛や太鼓が展示されていた。 宗派や教義については…

「ヒールは高く、スカートは短く」

和田誠さんの名著『お楽しみはこれからだ』の表紙を飾るのは「サンセット大通り」のグロリア・スワンソンのイラストで、往年の大女優の「セリフなんかいらないわ。私たちには顔があったのよ」というセリフが引かれている。セリフと顔はトーキーとサイレント…

コンヤ(土耳古の旅 其ノ二十四)

コンヤはパウロがキリスト教の布教に訪れたことで知られる都市イコニウム (Iconium) の後身だから、初期キリスト教の重要舞台である。キリスト教への改宗に際してはユダヤ人からの迫害もあったという。 東ローマ帝国のもとでもキリスト教の都市として栄えた…

金目のはなし

先の内閣改造で、東京電力福島第一原発事故に伴う汚染土などを保管する中間貯蔵施設の建設をめぐり「最後は金目でしょ」と発言したことで批判を浴びた石原伸晃環境大臣の留任は予想通りなかったが、しかしこの「金目発言」は奇妙なエピソードとしてわたしに…

「蜂蜜」(土耳古の旅 其ノ二十三)

佐藤忠男氏にトルコ映画の評論があったとおぼえているが、ご縁はないだろうと読み落とした。以前職場の同僚に「真珠の耳飾りの少女」のDVDを貸してあげたとき、お礼にと持ってきてくれたDVDがトルコ映画だったが、題名を忘れてしまっているくらいだから観た…

あきる野市での柳家小三治独演会

NHKBSで「刑事マディガン」の放送があった。これまで見逃していたドン・シーゲル監督作品でマディガン刑事にリチャード・ウィドマーク、その上司にヘンリー・フォンダ。よい刑事ものだったことにくわえて公開された一九六八年当時のマンハッタンやブルックリ…

蜂蜜ヨーグルト(土耳古の旅 其ノ二十二)

パムッカレからコンヤへは、410km、五時間半の行程。バスのなかで、とちゅう休憩するディナールのドライブインにこの町にしかない、すこぶる美味の蜂蜜ヨーグルトがあるからぜひとも食せよと添乗員さんと現地のガイドさんが口を揃えて絶賛した。トルコの人た…

「誰よりも狙われた男」

モロッコを旅しているあいだ時間があればジョン・ル・カレ『誰よりも狙われた男』(加賀山卓朗訳、ハヤカワ文庫)を読みふけっていた。近く公開が予定されている同名の映画を心待ちにしながら。そして帰国してまもなく観た作品は期待した通りの出来栄えだっ…

チャイ(土耳古の旅 其ノ二十一)

料理が運ばれてくるとすぐ口にするものだから、おなじテーブルの方が料理の写真を撮っているのを見て、しまったと思う。出されたままの状態で写真に収めるならばともかく、すこしであれ食べてしまった皿を撮ってもつまらないとみょうなところで完璧主義が顔…

ジェームズ・M・ケインと映画〜『カクテル・ウェイトレス』余話

ジェームズ・M・ケインの作品についてわたしが知るのは『郵便配達はベルを二度鳴らす』と『殺人保険』(『倍額保険』の訳名もある)それと『ミルドレッド・ピアース』の三作品しかない。このうち『郵便配達』と『殺人保険』は本を読み映画も観たが『ミルドレ…

ヒエラポリスの遺跡に立って(土耳古の旅 其ノ二十)

イスタンブールでボスフォラス海峡を眺め、ダーダネルス海峡をフェリーで渡り、トロイ、エフェソス、パムッカレを観光した。各地にある古代ギリシアやローマの遺跡をめぐる旅がたのしくないはずはない。昼食にワインやビールを飲むのもわたしには海外旅行の…