2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ヴェネツィアに魅せられて

五月六日は傘雨忌、久保田万太郎の命日で、先日読んだ倉島厚、原田稔編『雨のことば辞典』にもこの忌日が立項されていた。傘雨は万太郎の俳号。 万太郎は一八八九年(明治二十二年)十一月十一日に生まれ一九六三年(昭和三十八年)五月六日に没した。梅原龍…

カサブランカへ!(モロッコの旅 其ノ一)

一昨年ヴェネツィアでゴンドラに乗ったあとアドリア海を眺めているうちに、この海の彼方にあるイスタンブール、その昔のコンスタンチノープルへのあこがれが芽生え、ついで、かつてのローマ帝国領の周縁の地を訪れてみたいと思い、モロッコが心に浮かんだ。 …

曲学阿世の徒

曲学阿世の徒は真理に背いて時代の好みにおもねり、世間の人に気に入られるような説を唱える者を指す。 出典は司馬遷『史記 』「儒林伝」。 わたしがこの言葉をいつ知ったのかは定かではないけれど、吉田茂の発言を通じてだったのはたしかである。 ジョン・…

子供合埋碑

新宿の成覚寺にある子供合埋碑。傍の新宿区教育委員会による説明板には、江戸時代の内藤新宿にいた飯盛女(子供と呼ばれていた)たちを弔うため、万延元年(一八六0年)十一月に旅籠屋中で造立したもので、惣慕と呼ばれた共葬墓地の一角に建てられた墓じる…

『イージー・トゥ・リメンバー』

William Zinsser『EASY TO REMEMBER The Great American Songwriters and Their songs』が昨年十月『イージー・トゥ・リメンバー アメリカン・ポピュラー・ソングの黄金時代』(関根光宏訳)として国書刊行会より刊行された。 著者ウィリアム・ジンサーは一…

映画弁士塚

浅草寺境内にある映画弁士塚。往年の名弁士の名を連ね記念とするもので、活字を通してわたしが知る名前では徳川夢声、西村楽天、山野一郎、大辻司郎、松田春翠といった人たちがいる。 建立されたのは一九五八年(昭和三十三年)十一月十八日。新東宝社長で自…

「私の少女」

韓国映画「海にかかる霧」と「私の少女」に圧倒されたことしのゴールデンウィークだった。ともに監督デビュー作というおどろきもあった。いずれも見事な作品でわざわざジャンルの枠をはめるのは贅言のそしりをまぬがれないと知ってはいても、特に後者につい…

麟祥院

麟祥院は徳川三代将軍家光の乳母春日局の菩提寺として知られる。幕府の恩恵に報いるために寺院を建立しようと思い立った局の志を知った将軍家光が本郷湯島のこの土地を寺地として贈り、その願いを叶えさせた。宗派は臨済宗妙心寺派。 局により「報恩山天沢寺…

「海にかかる霧」

四月に開館した劇場でビルの合間からゴジラが覗いているのが話題のTOHOシネマズ新宿へ行ってきた。建物の上からニョキッと出たゴジラの頭はほぼ原寸大のレプリカだとか。 ゴールデンウィークの一日、館外では多くの人が足を止めてゴジラにカメラを向け、館内…

歌のひととき(春の銚子で 其ノ十四)

酒宴はYさんの家で持ちこみでやりましょうと決めてあったので東京からの組は買ってきたお酒やウィスキーをテーブルにならべたけれど、Y家自家製のワインとどぶろくがおいしくてなかなかそこまで行き着けない。野菜につけて食べる味噌がこれまた自家製でなん…

はんぺん(春の銚子で 其ノ十三)

スケトウダラなど魚肉のすりみにすりおろしたヤマノイモを混ぜてさらにすり、調味して薄く四角形または半月型にしてゆでた魚肉練り製品をはんぺんという。ヤマノイモが使われていたなんてこの稿を書くために調べてみてはじめて知った。 はんぺんをはじめて食…

師弟という関係〜映画「セッション」によせて

学校の四月は先生と生徒との出会いの季節である。小中高等学校いずれも新入生のばあい入学した先でクラス分けがあり配属が決まるとそこに見知らぬ学級担任や教科担当がいる。出会いはあくまで偶然であり、なんとしてもこの先生に師事したいと入学する事例は…

なめろう(春の銚子で 其ノ十二)

『徒然草』第五十二段に石清水八幡宮にお参りに行き、とちゅうあちらこちらとお参りをしたのはよかったが「神へ参るこそ本意なれと思ひて、山までは見ず」と肝心の山上には登らずに帰って来た仁和寺の法師の話がある。漁業と醤油の町の銚子で魚料理を食べず…

君ケ浜(春の銚子で 其ノ十一)

犬吠埼に隣接するおよそ一キロの海岸線が君ケ浜だ。太平洋の波が寄せる美しい浜辺で、浜沿いはしおさい公園として整備され憩いの場となっている。数組の小さい子供を連れた親子が暖かな午後のひとときを過ごしていた。Iさんもお孫さんが小さい頃にはよくここ…