2015-01-01から1年間の記事一覧

オールド・ローズはバレリーナに似て

イマジカBSがデヴィッド・フィンチャー監督の特集をやっていて「ハウス・オブ・カード 野望の階段」シーズン1と2を一気に放送してくれた。元版のイギリスBBC製作「野望の階段」は見ていてアメリカ版もそのうちにとBlu-rayに録画してあったが映画を優先してい…

トドラ峡谷(モロッコの旅 其ノ四十)

ベルベル人のテントをあとにふたたび四駆に乗り込み、エルフードへ戻った。ここでバスに乗り換えワルサザードへ、347Km、7時間、そこからこの日の宿泊地であるアイト・ベン・ハッドゥへは37Km、45分というのが行程だった。とちゅうトドラ渓谷のレストランで…

『ミケランジェロ・プロジェクト ナチスから美術品を守った男たち』

ジョージ・クルーニー製作、監督、主演の「ミケランジェロ・プロジェクト」を観て、原作を読んでみたくなり、ロバート・M・エドゼルのノンフィクション『ミケランジェロ・プロジェクト』(高儀進訳)を手にした。 第二次世界大戦でドイツ軍はヒトラーの指令…

イブン・バットゥータ(モロッコの旅 其ノ三十九)

イブン・バットゥータ(1304-1368)はモロッコのマリーン朝時代にタンジェで生まれたイスラム法学者また旅行家だった。旅行家としては1325年にメッカ巡礼に出発し、以後エジプト、イラン、シリア、キプチャクハン国、中央アジア、スマトラ、ジャワ、中国(泉…

「本が売れない」考

公立図書館の貸し出しにより本が売れなくなっているとして、大手出版社や作家たちが、発売から一定期間、新刊本の貸し出しをやめるよう求める動きがある、との報道があった。 新刊書の貸し出しを一定期間禁止すれば売り上げが伸びる・・・・・・本当だろうか…

ベルベル人のテントで(モロッコの旅 其ノ三十八)

サハラ砂漠からの帰途、ベルベル人のテントを訪れた。井戸があり、山羊が放し飼いされていた。ここでもミントティーをいただき、しばしの砂漠でのティータイムを過ごした。 ほとんどが牧畜と農業で生活するベルベル人だが、この環境における一年の生活の具体…

すべからく

矢野誠一編『志ん生讃江』は古今亭志ん生の芸と人について書きしるされたエッセイや対談で編まれた見事なアンソロジーで、久しぶりに人物論の醍醐味をあじわった。二00七年に河出書房から刊行されている本なのにこれまで知らず、ずいぶんと遅ればせの読書…

「シェリタリング・スカイ」(モロッコの旅 其ノ三十七)

スクリーンでのサハラ砂漠となるとやはりベルナルド・ベルトリッチ監督「シェリタリング・スカイ」だ。これほど存分にサハラ砂漠が映し出される作品はほかにない。 第二次世界大戦後まもない1947年、ニューヨークからモロッコへある夫婦がやって来る。かつて…

「黄金のアデーレ 名画の帰還」

ロバート・M・エドゼル『ミケランジェロ・プロジェクト』(高儀進訳、角川文庫)の終章に「ナチが盗んだ美術品を発見し、正当な持ち主である国に返還する努力が一九九0年代に始まったあとも、モニュメンツ・メンとその信じ難い成果は、ほとんど見過ごされて…

砂漠のシルエット(モロッコの旅 其ノ三十六)

ジャズのライヴスポットで演奏しているトランペッター(真田広之)が休憩時間に、金銭トラブルが原因の刺殺事件の一部始終を目撃したクラブのホステス(ミッシェル・リー)を助けたことで逃走劇に巻き込まれてしまう。和田誠監督「真夜中まで」で、客席にい…

「恋人たち」

おどろいた。光石研、木野花、リリー・フランキーといった実力派の役者陣がよい意味で喰われている。喰ったのはいずれも寡聞にして知らない名前の篠原篤、成島瞳子、池田良といった方々で、なんの情報もないままスクリーンに観たのは凄いキャストによるリア…

「月の沙漠」(モロッコの旅 其ノ三十五)

「月の沙漠」(この曲に限って言えば「砂漠」は誤記)大正から昭和初期に叙情的な挿絵画家として人気を博した加藤まさをが講談社発行の雑誌「少女倶楽部」一九二三年(大正十二年)三月号に発表した、詩と挿画からなる作品、つまりはじめは詩だけで曲はなか…

ラグビー・ワールドカップとジョナ・ロムー氏の死去

九月に歌舞伎座へ来た折り、来月のプログラムは何かなと見たところ「文七元結」とあり、余計なことするのじゃなかったと思ったがもう遅い。慣れ親しんだ古典落語の舞台をパスするのは無理というもので、帰りがけ年金老人は財布を気にしながらチケットをゲッ…

スカーフ(モロッコの旅 其ノ三十四)

同行のみなさんがラバトでスカーフを買っていらした。なるほどモロッコらしくてしかも軽いからおみやげに最適だ。そこで付和雷同の老骨もさっそく何枚か買い求めた。なかにはすぐにガイドさんに巻き方を習って身に着けている方もいた。 本格的なターバンを買…

「エベレスト3D」

「さァさァ皆さん、二十世紀の大発明『活動代写真』はこれだ!居ながらにして西洋の風景や老人子供、きれいなハイカラさんの踊りなどが、動く写真となって、ソレあのようにこっちへ歩いてくる、ああ笑った、ころんだ。オヤ、今度は汽車が走ってくる、だんだ…

サハラ砂漠の朝(モロッコの旅 其ノ三十三)

サハラの夜明けを見ようと、砂漠をラクダで、そして徒歩で進む。もちろん道とてないからガイドさんが頼りだが、よくルートがわかるものだ。 スマートフォンやデジタルカメラに砂が入るといけないからと多くはビニール袋を持参していて、なかには防砂用具を持…

勇気のあり方

毎年八月十五日の前後には戦争関連の番組が放送される。敗戦から七十年のことしは例年よりも多くの放送があったはずだが、わたしは唯一NHK 「知られざる終戦工作」を視聴した。 採りあげられたのは終戦時、鈴木貫太郎総理大臣秘書官兼陸軍省軍務局御用掛を務…

織女と牽牛(モロッコの旅 其ノ三十二)

サハラ砂漠で天の川を見て感嘆久しくし、つぎに心に覚えたのは子供のときに見たときの星空の記憶であり、ノスタルジーだった。あまりに天空の光景に魅せられていたものだから、織女星と牽牛星の伝説に思い至ったのはだいぶんあとのことだった。 中国、日本そ…

「ミケランジェロ・プロジェクト」

第二次大戦中、ナチスドイツはヒトラーの命により、占領した国々の歴史的遺産である美術品を次々と奪い取った。若いころ画家を志し、絵葉書を売って生計を立てていた経験をもつヒトラーと芸術との関係は複雑で屈折したものがあったと思われる。 ナチスはヒト…

天の川(モロッコの旅 其ノ三十一)

砂漠のホテルに着いたのは夕刻近く、しばし散策したあと夕食を終えると外は暗くなっていた。それからはホテルの屋上に出て空を見上げる人もいれば、わたしたちのように砂漠に出て大きめのバスタオルを広げて寝ころび空を仰いだ者もいた。 おそらく部屋に居つ…

「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」

思いっきりネタバレの記事ですのでご留意ください。 レーガン政権下の一九八一年はアメリカ史上最も犯罪率が悪化した年だった。 この年、アベルは全財産をつぎ込んでニューヨークに会社を設立し、灯油販売のビジネスに参入した。 ところがそれを待っていたか…

サハラ砂漠へ(モロッコの旅 其ノ三十)

フェズからサハラ砂漠へ向かった。まずはバスで七時間かけてモロッコからチュニジアに東西に伸びるアトラス山脈を越え、砂漠の入口の街、エルフードへ。ここで4WDに乗り換えておよそ60km、一時間の行程でメルズーガの砂漠の中にあるホテルへ着いた。 「『佐…

「フレンチアルプスで起きたこと」

三十代の夫婦と子供たち(小学生の一男一女)が一家そろってスウェーデンからフレンチアルプスにスキー旅行にやって来て、豪華なリゾートホテルのスキー場に面したレストランのベランダで昼食をとっていたところ目の前で雪崩が発生した。 大きな雪崩を防ぐた…

報道パパラッチの物語

BBC製作のテレビドラマ「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」(映画「裏切りのサーカス」の元版)とその続篇「スマイリーズピープル」がセットになったDVDをゲットした。全篇視聴するには11時間余りかかる。日本語字幕も吹替えもなく、英語字幕を期…

迷路の街・再説(モロッコの旅 其ノ二十九)

映画「望郷」で、ジャン・ギャバンのペペ・ル・モコはアルジェリアのカスバに逃げ込んでいる。フランスの警察官がアルジェの警察署にやって来て、どうして捕まらないかと訊ねるのに対して現地の刑事がカスバについて説明するシーンがある。 「カスバは一種の…

七十年目の敗戦の日に 10 終章〜和解と平和

歴史修正主義という言葉がある。歴史は新しい史料が発見され、あるいは新たな視角から従来の史料の解釈に変更がくわえられるなどすると書き換えられるのが常だから、その意味で絶えず修正を迫られている。だから何をいまさら歴史の修正をこと挙げするのだろ…

ミントティー(モロッコの旅 其ノ二十八)

トルコの人たちはいつでもどこでも一日に何度もチャイを飲んでいる。わたしもトルコでは行く先々でチャイダンルックという特別な二段がさねのポットで淹れるトルコ風紅茶を飲んだ。郷に入り、郷に従ってトルコの旅を体感した。モロッコではミントティーがチ…

七十年目の敗戦の日に 9「日本のいちばん長い日」

昭和史のコンパクトな史料集として重宝している半藤一利編『昭和史探索』の第一巻に一九二八年(昭和三年)六月四日の張作霖爆殺事件の処理の過程で西園寺公望と牧野伸顕とが天皇と皇室のありかたについて見解の相違を生じさせた興味深い議論がある。 はじめ…

「茂禄子」(モロッコの旅 其ノ二十七)

福沢諭吉『世界国盡』はわたしの書架にある本のなかでいちばん早く「茂禄子」(モロッコ)について触れた著作で、その前段でモロッコを含むアフリカについては「北と東の数箇国をのぞきし外は一様に無智混沌の一世界」と記述されている。 福沢は木村摂津守の…

七十年目の敗戦の日に 8 個人的な体験

七十年目の敗戦の日の時点でわたしが懐いている先の大戦についての歴史像を述べて来た。ひょっとすると、人によってはこれも、自虐史観、東京裁判史観、戦後の誤った歴史教育に基づく歴史像となるのかもしれない。 できるだけ歴史のイメージの基となった事実…