2023-01-01から1年間の記事一覧

「カサブランカ」のシナリオから(1) 〜《I never make plans that far ahead.》

英語の勉強の一環で映画「カサブランカ」のシナリオを読みました。テキストはアルク英語シネクラブ編集部編『カサブランカ』(アルク)です。監督はマイケル・カーティス、シナリオはジュリアス・J・エプスタイン、フィリップ・J・エプスタイン、ハワード・…

町で見つけた歴史遺産

ご近所の谷中を散歩していると写真の遺物があった。歴史遺産もしくは文化財としてよいであろう。しょっちゅう通っているところなのにいまごろ気がつくなんて迂闊な話である。 示されている町名は「上三崎南町」(かみさんさきみなみちょう)」、『日本歴史地…

『戦争と平和』を読む

南條竹則『酒と酒場の博物誌』(春陽堂書店)のなかに「『ラインガワ』の荒川さん」という一文がある。「ラインガワ」は著者が若い日、よく訪れた渋谷のワインバーで、四方田犬彦『先生と私』の由良君美もなじみの一人で、片手にパイプを持ちおいしそうにふ…

「ウィ、シェフ!」

職人気質と組織が相親しんだり、協調したりするのは難しい。「一輪咲いても花は花」の矜持を機械の歯車にしようとするようなものですから。 じつは、これ、もともとわたし好みのテーマで、しかもこの映画「ウィ、シェフ!」は職人気質を発揮するあまり一流レ…

群盲と象

『北斎漫画』を眺めていると第八篇に「群盲象を評す」の絵(漫画)があった。昔から知られていることわざだから、あって不思議はないけれど、こうして眼にするとことわざを絵にする発想が面白く「おやっ、ほほう」と感心した。 「六度集経」という仏教説話集…

向島で

自宅の根津から上野、浅草、そうして向島を散歩して永井荷風ゆかりのところを訪ねた。 この界隈へ来るとまずは長命寺にある成島柳北(1837-1884)の碑にごあいさつしなければならない。なにしろ荷風が尊敬してやまなかった人で、「隠居のこごと」には「成島…

酒歴

晩年の開高健に『開高健の酒に訊け』という対談シリーズ(酒にはウイスキー とルビが振られている)があり、なかで作家の村松友視が「ぼくがトリスを飲み始めたころ、バーへ行くと小刻みに男のランキングがあって、カウンターの奥にサントリー白一五〇円 ト…

「夢の通ひ路」

三月二日。東京マラソンのエントリーに東京ビックサイトに行ったところ外国人がずいぶんいてコロナ明けを実感した。昨年秋の東京レガシーハーフはそれなりの成績でフィニッシュできたから、その余勢で今回も!とはいえ、加齢とともに弱気に陥りやすくなるの…

「パリタクシー」~パリで起きた「或る夜の出来事」

映画のあと、後々まで心に残っているだろうかとか、さわやかな印象を残してくれてうれしいとか思ったり考えたりする。それはおのずと映画の評価に繋がります。よい意味で記憶に残るかどうかは映画や文学作品について考える際の大切な項目であり基準なのです…

「AIR/エア」~ビジネスの世界を爽やかに

マイケル・ジョーダンと契約したナイキが、伝説となったバスケットシューズ「エア・ジョーダン」を作り、販売に乗り出した内幕を描いた実話ベースのサクセス・ストーリーです。ビジネスの世界をじつに爽やかで、楽しめる作品とした監督ベン・アフレック(ナ…

「女相続人」

Amazon prime videoにある魅惑のモノクロ作品群から「女相続人」を観ました。題名は前から知っていて優れた作品だろうとは推測していましたが、これほどまでとは思いもよりませんでした。いままでご縁がなかったのが不思議なくらいです。 一九四九年の作品で…

旅と料理と酒のたのしみ~ 吉田健一『汽車旅の酒』

中公文庫オリジナルの一冊に吉田健一『汽車旅の酒』がある。二0二二年三月刊。 旅をして、汽車に乗り、駅弁や酒を買う、そこに本書があって素敵なめぐり合せである。 これを企画した編集者を讃えよう。 著者の全体像を論じたりするのはわたしには無理だけれ…

『風と共に去りぬ』にのめり込んで

二月一日、横浜市保土ヶ谷区において歩行者の男性が切りつけられた事件で、六十二歳の男が逮捕された。容疑が事実とすれば、なかなか悪のエネルギーをもつ六十二歳だが、平成令和の六十代のイメージだと特段の驚きはない。 松本清張『黒い画集』(新潮文庫)…

「メグレと若い女の死」~メグレ警視とあの頃のパリ

興味深い謎とその論理的解決、探偵・犯人のキャラクター、犯罪の背後にある時代の雰囲気・世相風俗、いずれもわたしを含め多くのミステリーファンが期待することがらで、映画ではこれに、語り口にふさわしい映像と音楽を加えなければなりません。 ここまでを…

「エブエブ」に茫然

血湧き肉躍るアクションやサスペンスフルなミステリー作品は大好きですが、 マンガ、SFまた前衛とかゲージュツが苦手でそれらの味が濃くなると腰が引けてしまいます。 ですから予告編だけで「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」は自分に…

『60歳すぎたらやめて幸せになれる100のこと』~人生のエンディングを軽やかに

『60歳すぎたらやめて幸せになれる100のこと』というムック仕様の本を読んだ。二0二一年十月に宝島社から刊行されている。 人生のエンディングを軽やかに生きていくために大切な「やめること」「捨てること」「離れること」「距離のとり方」「縁の切り方」…

『彼は彼女の顔が見えない』〜1日100頁の快調

ストーリーをたどるのが苦手だ。先日、佐々木譲原作の韓流映画「警官の血」を観て、それなりに面白かったけれど、登場人物の整理がつかないまま終わった。原作は読んでいて、しかしこれほど複雑だった印象はないのに困ったものだ。 それはともかく、いま読み…

「恋人よ我に帰れ」

ある英文法の本に、The earth、The sunがともに定冠詞付きで使われるのは、地球も太陽もひとつしかないものであり、十分に特定されていると想定されるからだと説明があった。 The sky was blue and high above The moon was new and so was love. わたしがカ…

戦時下の「風と共に去りぬ」

マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』は一九三六年六月に出版されるや、たちまち世界的ベストセラーとなり、翌月にはさっそく映画プロデューサー、デヴィッド・O・セルズニックが映画化権を獲得しました。 映画は一九三九年十二月十五日にワールドプ…

「対峙」

米国のある高校で生徒による銃乱射事件が発生し、自殺した犯人の生徒を含めて十数名の生徒が亡くなりました。それから六年。 事件で息子を失い、悲しみから立ち直れないままの状態にあるペリー夫妻(ジェイとゲイル)は、セラピストの勧めで自殺した加害者の…

初春に読書計画

お正月。ことしの読書計画を練る。主題はお酒。まずは吉行淳之介編『酔っぱらい読本』全七巻という格好のアンソロジーがあり、酒にまつわる魅力的な小説やエッセイや落語や古今東西の詩がずっしりと詰まっている。最終巻の奥付は昭和五十四年十一月二十八日…

「非常宣言」~大騒動と極限状態に魅了されたパニック映画

フライト・スリラーにウイルス・テロを絡めた韓流パニック作品。面白かったなあ。 つい先日、アイルランドのパブでいつもいっしょに飲んでいた友人との間柄を理由も告げず一方的に壊したあげく、指を切り落とす自傷行為を繰り返す、なんとかというわけのわか…

鞍を欲しがる牛

カエサルは『ガリア戦記』で橋や武器をつくったことをずいぶん得意げに書いていて、武勲の数々よりもこちらをアピールしているような筆遣いだと聞く。優れた武将であるのはいまさらいうまでもないから、立派な技術者としての資質と実績を知ってもらいたかっ…

寺門静軒 おぼえがき

寺門静軒『江戸繁盛記』は天保初年の江戸風俗、世態人情を漢文戯作の文体で活写した名著として知られる。「相撲」「戯場」(しばい)「千人会」(とみくじ)「楊花」(おんなだゆう)「混堂」(ゆや)などをユーモラスな漢文で綴ってベストセラーとなった。 …

「井戸の茶碗」と「寝床」によせて

ちょいとめでたいことがあったので、晩酌をしながらひさしぶりに古今亭志ん朝さんの「井戸の茶碗」を聴いた。ふと思いついて手許の電子辞書で「井戸の茶碗」を引いたところ、さほど期待してなかったのに「井戸茶碗」が「広辞苑」と「マイペディア」「日本史…

足取りも、心も軽く

最近Amazon musicの仕様が変わって、聞いてみたいアルバムをチョイスするとシャッフルで二、三曲は再生されるが、つぎにはおなじジャンルのおすすめ曲なるものが流れる。つまりアルバム順に一気通貫で鑑賞できない。まあ賛否あるだろうが、わたしには大きな…

「ドリーム・ホース」 〜ウェールズを讃え、人間を讃える

とてもよい気持にしてくれる映画です。素晴らしくて、観終わったときはユーロス・リン監督をはじめとするスタッフとトニ・コレット、ダミアン・ルイスなど役者陣に感謝の言葉を贈りたいほどでした。 ウェールズの谷あいにある小さなコミュニティで育てた競走…

『荷風と戦争』~『断腸亭日乗』にみた戦時の昭和史

二0二0年三月に刊行された『荷風と戦争』(国書出版会)の著者百足光生(ももたり みつお)氏は永井荷風の日記を「昭和史の資料」として読むとしたうえで、昭和十五年から昭和二十年三月九日の偏奇館焼亡にいたる間の記事を丹念に読み解き、貴重な註釈、解…

「春の序曲」

わが国ではじめて日本語字幕を付けて上映されたトーキー作品はマレーネ・ディートリッヒとゲーリー・クーパーが共演した「モロッコ」でした。一九三一年のことで、米国では前年一九三0年に公開されています。 一九三六年、主役の二人はふたたび「真珠の頸飾…

お年賀

あけましておめでとうございます 本年もよろしくお願い申し上げます 二0二三年一月一日 新型コロナのため長距離走はもっぱらヴァーチャル・レースだったのが、昨年はようやくリアルイベントに参加できるようになりました。三月の東京マラソンは高齢者への自…