映画をめぐる閑談

「パスト ライブス/再会」

シャンソンに「再会」という名曲があり、ジャズに「ホワッツ・ニュー」というスタンダードナンバーがあります。 歌詞は似たようなもので、辞書に同工異曲の語釈として、詩文などを作る技量はおなじであるが、趣が異なることとありますから、まさしく絵に描い…

アイアンクロー

小学生のときのプロレスはいつもいつも金曜夜八時三菱電機提供のTVでしたが、二度だけ力道山のリングを見たことがあります。嬉しかったなあ。外人レスラーのトップはジェス・オルテガだったでしょうか。そのころすでにオルテガを凌駕する「鉄の爪」をもつ凄…

固唾を呑んで観た「ゴールド・ボーイ」

「ゴールド・ボーイ」を観ているうちに「仁義なき戦い」は撮影中ヒット間違いなしとさっそく会社は第二作の準備をしていたという話を思い出しました。そしてこの作品も続作があって然るべきだと確信しました。何回か固唾を呑んだあとのラストシーン、ここで…

「瞳をとじて」

劇場が明るくなるとともに三時間近く続いた心地よい緊張と鑑賞後の余韻に身を浸していました。ビクトル・エリセ監督三十一年目の新作にして集大成と喧伝されている「瞳をとじて」ですが新作や集大成といった売りの形容がなんだか余計に感じてしまうほど魅せ…

「ダム・マネー ウォール街を狙え!」

ほんと、面白くて、ためになる映画でした。いつの頃からか政財界のエライさんたちが「貯蓄から投資へ」と唱導しておられますが、下流の年金生活者の目には、高速道路での煽り運転としか映らず、巻き込まれてはたいへん、だから「ためになる」のはわが家計に…

「笑いのカイブツ」

ことしはじめて映画館で観た「笑いのカイブツ」。2024初スクリーンでこの作品に出会えたのが嬉しく、また大いに刺激を受けました。 原作のツチヤタカユキ氏はこれまで知らない名前でしたが、この映画でさっそく原作を読んでみようという気になりました。わた…

「枯れ葉」

フィンランド語による「枯れ葉」の流れるエンドロールが終わったとき、誰か拍手してくれないかな、そしたらこちらも熱烈に応じるのにと思ったことでした。残念ながらわたしは先頭切って手をたたく勇気を欠いていて心のなかでの拍手となってしまいましたけれ…

「JFK 新証言 知られざる陰謀 劇場版」

一九六三年十一月二十二日のアメリカ合衆国第三十五代大統領ジョン・F・ケネディ暗殺事件から六十年、映画「JFK」のオリバー・ストーン監督が今回はドキュメンタリーで事件の真相に迫っています。 ケビン・コスナーが暗殺事件の捜査に執念を燃やす地方検事を…

「SISU/シス 不死身の男」

超冒険活劇に心躍る、興奮の九十一分でした。公式サイトには、「ランボー」「マッドマックス」をミックスしたアドレナリン全開の面白さ、フィンランド版「怒りのデスロード」といった文字が踊っていて、正真正銘おっしゃる通りなのデス。 一九四四年、第二次…

「ダンサー イン Paris」

堅牢な設計にして、ほどよい潤いを帯びたパリやブルターニュの魅力の映像にたびたびうっとりしました。(といえばなんだかhardにしてgentleといわれたあの私立探偵みたいですけど) ストーリーを追うのが苦手なわたしの悪癖かもしれないのですが、素敵な映像…

イコライザー THE FINAL

ある事情でシチリアに渡ったロバート・マッコール(ゼンデル・ワシントン)でしたが、そこで負傷し、やっとのことアマルフィ海岸沿いの静かな田舎町(ダスタモンテとか言ったかな?思い出せない、架空の名称でしょう)にたどり着きます。そこで温かく接して…

「アウシュヴィッツの生還者」

社会人になって二年目、おなじ職場に学徒出陣で応召された方がいて、いつもいつもあの戦争について考えているのではないけれど八月だけはそれまで読んでいる本は中断してでも戦争についての本を読み、考えるようにしているとおっしゃっていました。一九七0…

「警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件」~事件の記録と捜査の証言

「警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件」(山本兵衛監督、Netflix)はイギリス人女性、ルーシー・ブラックマンさん(当時二十一歳)が二000年、東京で失踪し、その後遺体で見つかった事件のドキュメンタリーで、事件の経過、内情とともに犯罪捜査…

「藤十郎の戀」

一九三七年(昭和十二年)松竹の若手時代劇スターだった林長二郎は同社を退社し東宝に移籍しました。移籍の原因はいろいろ取沙汰されていますがここでは触れません。いずれにせよ反響は大きく、マスコミは世話になった松竹を裏切った「忘恩の徒」と非難し、…

「告白、あるいは完璧な弁護」~旨みのある韓流サスペンス&ミステリー

「告白、あるいは完璧な弁護」(監督、脚本ユン・ジョンソク)は全編サスペンスとミステリーの旨みが味わえる出色の韓流作品でした。一時間四十五分にわたり味覚をそそられたあとは心地よさを伴いつつもいささか疲れを覚えたほどでした。 ホテルの一室で若い…

「 ブラッド・アンド・ゴールド 黄金の血戦場」~娯楽作に漂う奇妙な味

Netflix配信の娯楽作品です。題名からうかがわれるようにゲージュツに接する心がまえとか歴史の予習とかは一切不要のお気楽作品で、わたしはけっこうこの種の映画は好きなのですが、加えてシュールというか奇妙な味付けが気になってメモを取っておく気になり…

「カサブランカ」のシナリオからから(四)〜《Why do you interfere with my little romances?》

ヨーロッパからフランス領モロッコのカサブランカに逃れて来た人たちの多くは、ここから中立国ポルトガルのリスボンを経て米国に向かおうとしています。けれど出国ビザの取得は簡単ではありません。フランス領といっても本国はナチスドイツの侵攻を受けてお…

「カサブランカ」のシナリオから(三)〜《Play it.》

思いがけないサムとの出会い。再会のあいさつを交わしたイルザはサムに「何か昔の曲を弾いて」とリクエストします。 ここでサムはベニー・グッドマンが大ヒットさせたスイング時代の名曲「アヴァロン」を弾きます。イルザはサムにリックの近況を訊ね、サムは…

「カサブランカ」のシナリオから(二)〜《A lot of water under the bridge.》

リックはイルザといっしょにパリからの脱出を決めました。ところがイルザはリックの前から姿を消しました。失意のリックは歌手でピアニストのサム(ドーリー・ウィルソン)とフランス領モロッコのカサブランカに逃れ、ここで酒場を開きました。そこへイルザ…

「カサブランカ」のシナリオから(一)〜《I never make plans that far ahead.》

英語の勉強の一環で映画「カサブランカ」のシナリオを読みました。テキストはアルク英語シネクラブ編集部編『カサブランカ』(アルク)です。監督はマイケル・カーティス、シナリオはジュリアス・J・エプスタイン、フィリップ・J・エプスタイン、ハワード・…

「ウィ、シェフ!」

職人気質と組織が相親しんだり、協調したりするのは難しい。「一輪咲いても花は花」の矜持を機械の歯車にしようとするようなものですから。 じつは、これ、もともとわたし好みのテーマで、しかもこの映画「ウィ、シェフ!」は職人気質を発揮するあまり一流レ…

「パリタクシー」~パリで起きた「或る夜の出来事」

映画のあと、後々まで心に残っているだろうかとか、さわやかな印象を残してくれてうれしいとか思ったり考えたりする。それはおのずと映画の評価に繋がります。よい意味で記憶に残るかどうかは映画や文学作品について考える際の大切な項目であり基準なのです…

「AIR/エア」~ビジネスの世界を爽やかに

マイケル・ジョーダンと契約したナイキが、伝説となったバスケットシューズ「エア・ジョーダン」を作り、販売に乗り出した内幕を描いた実話ベースのサクセス・ストーリーです。ビジネスの世界をじつに爽やかで、楽しめる作品とした監督ベン・アフレック(ナ…

「女相続人」

Amazon prime videoにある魅惑のモノクロ作品群から「女相続人」を観ました。題名は前から知っていて優れた作品だろうとは推測していましたが、これほどまでとは思いもよりませんでした。いままでご縁がなかったのが不思議なくらいです。 一九四九年の作品で…

「メグレと若い女の死」~メグレ警視とあの頃のパリ

興味深い謎とその論理的解決、探偵・犯人のキャラクター、犯罪の背後にある時代の雰囲気・世相風俗、いずれもわたしを含め多くのミステリーファンが期待することがらで、映画ではこれに、語り口にふさわしい映像と音楽を加えなければなりません。 ここまでを…

「エブエブ」に茫然

血湧き肉躍るアクションやサスペンスフルなミステリー作品は大好きですが、 マンガ、SFまた前衛とかゲージュツが苦手でそれらの味が濃くなると腰が引けてしまいます。 ですから予告編だけで「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」は自分に…

「対峙」

米国のある高校で生徒による銃乱射事件が発生し、自殺した犯人の生徒を含めて十数名の生徒が亡くなりました。それから六年。 事件で息子を失い、悲しみから立ち直れないままの状態にあるペリー夫妻(ジェイとゲイル)は、セラピストの勧めで自殺した加害者の…

「非常宣言」~大騒動と極限状態に魅了されたパニック映画

フライト・スリラーにウイルス・テロを絡めた韓流パニック作品。面白かったなあ。 つい先日、アイルランドのパブでいつもいっしょに飲んでいた友人との間柄を理由も告げず一方的に壊したあげく、指を切り落とす自傷行為を繰り返す、なんとかというわけのわか…

「ドリーム・ホース」 〜ウェールズを讃え、人間を讃える

とてもよい気持にしてくれる映画です。素晴らしくて、観終わったときはユーロス・リン監督をはじめとするスタッフとトニ・コレット、ダミアン・ルイスなど役者陣に感謝の言葉を贈りたいほどでした。 ウェールズの谷あいにある小さなコミュニティで育てた競走…

「春の序曲」

わが国ではじめて日本語字幕を付けて上映されたトーキー作品はマレーネ・ディートリッヒとゲーリー・クーパーが共演した「モロッコ」でした。一九三一年のことで、米国では前年一九三0年に公開されています。 一九三六年、主役の二人はふたたび「真珠の頸飾…