「ダンサー イン Paris」

堅牢な設計にして、ほどよい潤いを帯びたパリやブルターニュの魅力の映像にたびたびうっとりしました。(といえばなんだかhardにしてgentleといわれたあの私立探偵みたいですけど)

 ストーリーを追うのが苦手なわたしの悪癖かもしれないのですが、素敵な映像があれば物語は二の次でよろしい、見惚れるほどの素敵なスクリーンであればツッコミを入れたい気持など仮に生じてもすばやく蒸発してしまいます。といってもこの映画にそんな心配はまったく不要です。

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パリ・オペラ座バレエ団でエトワールをめざしている二十六歳のバレーダンサー、エリーズが恋人の裏切りのショックもあってだろう本番中に足首を負傷し、医師からは踊れなくなる可能性を告げられます。

まもなく旧友が傷心のエリーズを料理のアシスタントのアルバイトに誘い、ブリュターニュに出かけたところ、この地で独創的なコンテンポラリー・ダンスの世界にはじめて触れ、やがて練習に参加するようになり、新たな世界へ進んでいきます。

あいだにはバレー教室へ送り迎えしてくれた亡き母の回想や、母に代わってバレー教室に連れていってくれた父、でも踊りよりも法律を学んでほしかったと思っている弁護士の父とのいまが語られます。

ダンスカンパニーを率いるホヘッシュ・シェクター(本人役で出演)が語った、クラシック・バレエは空を飛ぶ、コンテンポラリー・ダンスは地面に足をつけるイメージというせりふが印象的でした。

主演はパリ・オペラ座のバレエダンサー、マリオン・バルボー。初主演映画だそうです。彼女をはじめいずれもプロのダンサーによる(つまり吹き替え、CGではない)バレー、ダンスシーンは貴重な舞台芸術であり、ひいては名人芸を披露した古典的なミュージカルの楽しさに通じています。それにエリーズが理学療法士のもとでリハビリに取り組み、また再起をめざしてトレーニングに励むシーンは驚きのバックステージでした。

(十月二十六日 ヒューマントラストシネマ有楽町)