「SISU/シス 不死身の男」

超冒険活劇に心躍る、興奮の九十一分でした。公式サイトには、「ランボー」「マッドマックス」をミックスしたアドレナリン全開の面白さ、フィンランド版「怒りのデスロード」といった文字が踊っていて、正真正銘おっしゃる通りなのデス。

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一九四四年、第二次世界大戦末期のフィンランド。愛犬を連れた老兵アアタミ・コルピ(ヨルマ・トンミラ)が掘り当てた金塊を運んでいたところナチスに遭遇し、金塊と命を狙われる。ところがこの老兵はロシア軍の侵略で家族が犠牲になったことから復讐に乗り出し、ロシア軍から不死身の男と名付けられ、恐れられた伝説の兵士なのです。

いわばフィンランド軍におけるたった一人からなる精鋭部隊。対するはブルーノ・ヘルドルフ中尉(アクセル。へにー)率いるナチスの戦車隊、そう、わたしが大好きな、たった一人の反乱であり闘いなのです。老兵が持つのはツルハシ一本と折れない心=SISU、そして横溢する知恵、これに加えて戦場に落ちている武器や敵が埋めた地雷をフル活用して敵に食らいついてゆく。

荒唐無稽と百戦錬磨で007も負けそうなコルピだが、いっぽうのブルーノもけっこう強く、おまけにナチスの敗北は織り込んでいて、戦後はコルピから金塊を奪って食ってゆくと決めているタチの悪さ、執念深いところへもってきて生活がかかっている。

この二人、陸上ばかりじゃなく水中でも戦いを繰り広げ、さらには上空、ナチの戦闘機内での闘いとなり、ここでコルピはずいぶん痛めつけられます。あんまりやられるので、ええ加減、反撃せえよ!なんて気になりました。高校生のとき健さん主演の任侠映画を観ていて、近くにいたおばさんがじっと我慢する健さんに、土佐の方言で「なんぼ云うたち、もうやらにゃあ、いかんぞね」と口にしていたのを思い出しました。「ランボー」「マッドマックス」「怒りのデスロード」に任侠映画の興奮も寄せてくるのですから凄いものです。そして後半の後半にはナチスの捕虜となっていた女性陣も闘うようになり、たった一人の闘いはちょいと華やいできたのでした。

監督、脚本はともにヤルマリ・ヘランダー。これでもか、とアクションエンターテイメントを追求する心意気を感じました。

余談ながらフィンランドの荒廃した国土にはナチスによりずいぶんと死体が吊るされていました。それを見て『吾輩は猫である』の水島寒月君が、絞首刑は主としてアングロサクソン民族間に行われた方法であり、ユダヤ人中にあっては罪人に石を投げつけて殺す、エジプト人は罪人の首を斬つて胴だけを十字架に釘付けにして夜中晒し物にした、と語っていたのを思い出しました。

(十月三十一日 TOHOシネマズ日比谷)