東京レガシーハーフ2023

ビヤホールでの飲み会でジャニーズ事務所のことが話題になり、恥ずかしながらめずらしく吼えた。会社の先代社長の極悪非道はわかっているが、それを反省し改革に踏み出そうとしている東山やイノッチという人にビール屋のオヤジがやれ社名を変更せよとか所属のタレントを使わないとか、なんじゃあれは!新浪とかいう社長が芸能事務所のあり方について高飛車に指導したり、あれこれ難癖をつけたり、エライもんだ!と。

わたしは、SMAPを知らないのは東京で貴兄だけだと知り合いの某民放ディレクターから揶揄されたほどいまの芸能界に疎く、ジャニーズ事務所の新社長、副社長のフルネームさえ知らず、芸を見たこともない。それにしても「東山やイノッチという人」が事務所を改革し、立て直しに努力するというのだから好意をもって見守りたい。そんなふうに思って帰宅したところジャニーズ事務所が行った記者会見で「指名NGリスト」が作成され、記者会見を運営した会社はリストの存在を認め謝罪したと報道があった。やれやれ。

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十月二日からNHK連続テレビ小説「ブギウギ」がはじまった。それに先立って番宣の一環だろう八月にNHK出版新書で刊行されていた輪島裕介『昭和ブギウギ 笠置シヅ子服部良一のリズム音曲』を読み終え、著者が挙げる笠置の戦前の代表作「ラッパと娘」、おなじく戦後の「買物ブギー」をはじめ代表曲を聴いた。さて、そうなると彼女だけでは済まず、音楽世界は懐メロ一色となり、藤山一郎霧島昇、楠木繁夫、上原敏、近江俊郎、奈良光江、ミス・コロンビア(松原操)、二葉あき子を聴きながらときに口ずさんだ。SMAPの曲は知らなくても昔の歌謡曲にはけっこう強いのである。そうして、先日、八代亜紀さん(73)が膠原病を患い療養のため年内の活動をすべて休止するというニュースがあり、彼女の快癒を願い、締めに「八代亜紀 服部メロディを唄う」というアルバムを聴いた。

そのとき、早いもんだなあ、彼女もそんな年齢になったんだと感慨にふけったが、なんだかみょうにおかしい。しばしして、そうか、自分もおなじ歳なんだと気づいた。一時的に年齢も時の流れも蒸発したのか、それとも認知症が関係しているのだろうか。

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中国人の作家また学者だった林語堂は、人生には、朝起きて喫する一杯の粥の与える満足といったもの以外、実のあることは何もないのだよ、と説いた。

これって「時には人生はカップ一杯のコーヒーがもたらす暖かさの問題」(リチャード・ブロディガン)とどこかで通じている。平穏無事の基底にはこうした感覚があると考えるけれど、現今の世界はそれとは逆のあれこれが増幅している。

「グラスに注いだわずかばかりのワインが、小さなスプーン一杯のコーヒーが、香り高いリキュールの数滴が、ヒポクラテスも諦める瀕死の病人の顔にさえ最後の微笑をもたらすことを、われわれは数多く見てきたではないか」(ブリア=サヴァラン『美味礼讃』(玉村豊男編訳)

一杯の粥、わずかなワインやコーヒーはときに幸福感をもたらしてくれる。サヴァランはこんなことも書いている。「理の分かった医者なら、われわれの嗜好が赴く自然の傾向に決して目を閉じてはならない。また、苦痛の感覚が本来は忌むべきことであるとすれば、反対に愉快な感覚はわれわれを健康に向かわせるものだということを忘れてはならない」

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十月八日。ラグビーW杯予選最終戦ジャパンvsアルゼンチン。さいわい日本時間二十時キックオフだったからでライヴで観戦できた。残念ながら結果は27対39で敗れ決勝トーナメント進出はならなかったがその健闘は大いに讃えられるべきだ。前々回は「ブライトンの奇跡」南アに勝ち、前回は決勝トーナメント進出、そして今回の健闘。かつてを知る者には「一身にして二生を経る」気さえする。

一九九五年南アでのラグビーW杯、ジャパンの戦績は、対ウェールズ10対57、対アイルランド28対50、そして対オールブラックス17対145だった。三試合ともテレビ観戦したが、なかでオールブラックス戦はミスマッチを通り越して、試合とは呼べない何かを見ている気分に襲われたものだった。

以下は当時書いた書評メモの一部で、「一身にして二生を経る」の感覚が少しでもわかっていただければさいわいです。

《日本ラグビー狂会編・著『ラグビー黒書』(双葉社)を読んだ。オールブラックス戦で145点も取られた原因を究明し、国際競争力をつけて世界のチームに伍してゆくにはどうすればよいかを論じた書で、日本ラグビー協会が選手、レフェリー、関係者の代表格に対して「狂会」は競技経験はあまりない、それよりも観戦主体の集団で、しかしこの集団は競技力はさほどない、あるいはないゆえにというべきか迷ってしまうが、いずれにせよ毎度、歯に衣着せない議論を展開する観戦オタク集団である。

「狂会」佐々木典男は「支離滅裂な言辞を弄して監督の座に居座り続けた『ミスター無能』、その無能を排除することも補正することも出来ずに手をこまねいていた協会首脳、ワールド・カップに出場するということがどういうことかを理解することなく単なる観光客と化した一部の選手たち……。その集大成が145点なのです」と語り、おなじく大友信彦は、ジャパンの採った作戦「縦・縦・横」は「攻撃の一種のオプションに過ぎない」のに、監督はこれを「金科玉条のごとく信奉」してチームの持つ可能性を封印したと論ずる。

残念ながら「協会」の反応がわからない。しょせんは素人集団のたわごとと一蹴するなら145点の原因は何なのか。素人にもそれなりの目利きはいるだろう。ここは「協会」と「狂会」の議論をぜひ期待したい。》

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十月九日。早朝にW杯予選最終戦フィジーvsポルトガルを見た。ウェールズのウォーレン・ガットランドヘッドコーチがポルトガルはミニフィジーと評したそうだ。確かにボールの動かし方、繋ぎ方はフィジーを思わせて魅力的だ。結果は24-23でポルトガルのW杯初勝利。四大会ぶり二度目のW杯、通算八試合目にして記念すべき初勝利を収めた。世界ランキングはフィジー8位、ポルトガル16位。日本vs南アに例えられてよい予想を覆した大金星だ!

いっぽう、フィジーは敗れはしたものの7点差以内でボーナスポイント1を獲得し、総勝ち点11でオーストラリアと並んだが直接対決での成績によりC組2位が確定。こちらも四大会ぶりの決勝トーナメント進出を果たした。

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十月十日のニュースで経団連のなんとかという会長がジャニーズ問題について、社名変更など前進があったがまだ不十分との見解を示したと報じていた。過日はビール屋のオヤジが出て来て社名変更すべきだとか言っていたが、財界のジャニーズに対する熱心、執着には頭が下がる。マスコミも性加害の事実があると知りながら指摘、報道しなかった点で共犯関係にあったと聞く。財界お歴々はせっかく登場するのであればこちらにも言及していただきたかった。

わたしは東山社長や井ノ原副社長のこれからを暖かく見守ってやりたい。但しNGリストの問題をあとあと引きずらないよう記者会見はやり直したほうがよいのでは。

と、ここまで書いて思い出した。安倍内閣のとき、菅官房長官は某社の記者を出入り禁止にしたとか記者会見では特定新聞を無視していたとの話を漏れ聞いた。官製NGリストの真偽は存じ上げないが、疑問は持たれないようにしなくてはならない。経団連の会長とかビール屋のオヤジは官房長官に諫言のひとつつもしたのだろうか。

新聞記者について申せば無礼下品な輩もけっこういたな。役所勤務のころあることがらへの対応をめぐり、お気に召さない某全国紙の本社の記者(もちろん面識はない)から電話があり、マスコミ対応は課長一任としていて、いま不在ですと電話を受けたわたしが申し上げたところ、あんたら部下が課長にあれこれ意見を述べておかしな結論に導いたのだろうが、と喧嘩を吹っかけてきた。

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ときに魚肉ソーセージを晩酌のつまみにする。魚肉ソーセージ一本、ベビーチーズ一個を細かく切り、オリーブオイル小匙一をかけて、塩と胡椒を少々振る。これで一丁上がり。安くて簡単。よく行く上野の百均では三本セットで売っている。ネットの紹介にはダイエットメニューとあったが、酒の肴として十分通用する。

ところでこの魚肉ソーセージは日本独自のものだそうで奥本大三郎『書斎のナチュラリスト』(岩波新書)に魚肉ソーセージは日本にあって外国になく「ハンペンとかチクワとかカマボコとか、魚を材料にした練り物の製品があるのだから、何もソーセージまで魚で造らなくてもよさそうなものなのに、あれは魚を用いて肉の食感を出そうとした、いわゆる代用食なのであろう」とあった。

ソーセージの記録として古くはホメロスオデュッセイア』にあるそうだが、ヨーロッパで加工食品として一般化したのは一三00年ごろのことだった。日本には幕末に外国人がもたらした。一八七七年(明治十年)の第一回内国勧業博覧会の出品リストに腸詰があり、第一次大戦後に本格的な生産がはじまった。

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十月十三日。国立競技場で明後日に行われる東京レガシーハーフの出走手続きをした。ありがたいことに昨年に引き続き当選、余勢を駆ってか、来年三月の東京マラソンの出走権も手にした。この日はパリ五輪のマラソン代表選手を決定するMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)の日で、時間は前後するけれどMGCに出場するエリートランナーとおなじ日に国立競技場のトラックを走ることとなる。

若いとき高齢ランナーの方々を見て、おれにはたぶん無理だと感じていたがいまのところなんとか走れている。といってもは再来年は後期高齢者。いつまでレースに出られるのか、出られても完走できるのか、先行きをあれこれを思う。つい昨日までは、さあ次はあの集団に追いつこうなんて他人様との闘いも念頭にあったが、いまは自分との闘いで精一杯。

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十月十四日。子供のひとりが立教の卒業生なのでことしの箱根駅伝五十五年ぶりの出場はことのほか嬉しくて、きょうの箱根の予選会を楽しみにしていた。ところが折もおり上野裕一郎監督の女子陸上部員との不倫報道に唖然とした。いささか気落ちしているところへネットで為末大氏の立教へのエールを読んだ。

立教大学陸上部がんばれ!応援してくれる人は必ずいる。つい何かを考えたくなるけどそれはレースの後にしよう。体は準備できているはずだからあとはゴールだけを見て走ろう。今自分にできることだけに集中するんだ。せっかくここまできたんだから力を出し切ろう。立教大学陸上部がんばれ!」

嬉しく、爽やかな気持を覚え、二度読んだところで目頭が熱くなった。立教、期待しているよ。

そして予選会スタートの号砲。結果、立教は6位で本選出場を決めた。監督の不祥事と解任で部員たちは精神的に動揺していただろう。しかしそれよりも目標達成への意欲、前を向いた姿勢が勝った。かつての保護者として心からの拍手を贈りたい。

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十月十五日。

5:00 起床。簡単なストレッチのあとシャワーを浴びて朝食(六枚切りトースト一枚、バナナ一本、スープ)。ウエア、アスリートビブスを確認し、ランパンのポケットに塩飴一個を入れた。そうしてフィニッシュのあとのバスタオル、下着等を入れたデイバッグを点検。

7:00 自宅を出て8:00前に国立競技場に到着。

8:10 MGC、8:00スタートの男子は見られなかったが、8:10の女子のスタートを観客席で見た。

気温の低い雨の日なので何年かぶりにアームウォーマーを着けた。寒い日のレースでいちばん用心しなければならないのがトイレで、スタートのスペースへ向かうまでいささか滑稽なほどに小用を足した。

9:50 東京レガシーハーフスタート。走っているうちにMGCの選手たちが国立に向かっていて男子は大迫傑選手、女子は前田穂南選手を視認できた。

フィニッシュ(ネットタイム2:07:36。スマホは携行しなかったので、本ブログ用にウエアとアスリートビブスの写真を撮っておいたところ、YouTubeにレース風景の画像がUPされていて自分を発見。撮影していただいた方に感謝!)

帰宅。昼食をとり、銭湯でゆっくりしたあとはMGCをテレビ観戦。時間は前後しても同日にエリートランナーと国立のトラックを走ったのはよい記念となった。

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夕刻から友人と酒を酌み交わしながらラグビーW杯ベスト8のうちアイルランドvsニュージーランド戦を視聴。アイルランドスタンドオフ、好漢セクストンへの思い入れがありアイルランドに勝ってほしかったけれど24-28で惜敗した。

お酒のほうはレガシーハーフに備え五日間禁酒していたので待望の再会。元気だったかいと声をかけたい、しみじみとした心持だった。