「枯れ葉」

フィンランド語による「枯れ葉」の流れるエンドロールが終わったとき、誰か拍手してくれないかな、そしたらこちらも熱烈に応じるのにと思ったことでした。残念ながらわたしは先頭切って手をたたく勇気を欠いていて心のなかでの拍手となってしまいましたけれど。

カラオケバーで知り合った中年の男女が惹かれ合い、男は女の家に招かれお手製の食事をともにするまでに至ったのはよかったのですが酒で職場をしくじった男の酒は尋常でなく、女が、父も兄も酒で命を縮め、母はそのショックもあって亡くなったと口にすると、男はおれは指図されるのが大嫌いだと言い放ち、ふたりは吹き分れてしまいます。そうした男と女のゆくえと軌跡が、アキ・カウリスマキ監督独特のスタイルとたたずまい、そう、ずっしり、どっかり、大仰、劇的などを排した、飄々またふわりとした感覚で以て描かれています。

f:id:nmh470530:20231222114210j:image

同監督の「希望のかなた」から六年ぶりの新作に接したよろこびとともにその出来具合を讃えたいのに見合う言葉が浮かばないのがもどかしい。とりあえず市井の人々のラブストーリー、そして物語を彩るヘルシンキのノスタルジックな風景、「竹田の子守唄」やシューベルト、ロック、シャンソンなどが流れる多彩な音楽シーン、とりわけ映画館に掛かるポスターが印象的だった細部の魅力などがいっしょになってもたらす仄かな暖かさと優しさを帯びた人生の哀歓が堪らないといっておきます。

(十二月二十一日 角川シネマ有楽町