リスボンの夜はファドのディナーショーで過ごした。ファドはユネスコの世界無形文化財の遺産に登録されているポルトガルの民族歌謡で、譬えるならアルゼンチンにおけるタンゴのようなものか。
ふつうはポルトガルギター（ギターラ）とクラシックギターで伴奏される。映画「過去を持つ愛情」ではアマリア・ロドリゲスが「暗いはしけ」を切々と歌う。歌詞は漁師の夫は暗い波間に消えて帰って来ず、妻は夫の面影をいつまでも追い求めているといった内容で、ここからわたしはなんとなくファドは切なく悲しい歌、嘆きの歌のような印象を持っていたが、じつはたのしく陽気なファドもたくさんある。ときにたのしいひとときがあるからこそ辛い人生に耐えられる。暗さだけに覆われた民族歌謡なんてありえないのではないか。いつも嘆いてばかりいられないのだ。
なお日本の歌手では、ちあきなおみにファドのメロディを取り入れたアルバム「待夢」がある。
