「過去を持つ愛情」(西班牙と葡萄牙 其ノ四十九)


リスボンを舞台とした忘れがたい作品に「過去を持つ愛情」がある。一九五五年のフランス映画で監督はアンリ・ヴェルヌイユ
男(ダニエル・ジェラン)は第二次大戦から帰還したその日、妻の不貞の場面に出くわし殺してしまう。パリで無罪を言い渡されたあとリスボンへやって来た。女(フランソワ・アルヌール)は富豪の夫を殺した嫌疑でロンドン警視庁の警部(トレヴァー・ハワード)に追われリスボンに逃れて来た。男はタクシー運転手をしていて、いつか南米に渡り再起を図ろうと考えている。その男のタクシーに女が乗った。かくて過去を持つ男女の恋の道行が描かれる。
男の下宿先には家計を助けるためにガイドをしている坊やがいて、この子が女のガイド役となる。タクシー運転手とガイドの坊やとイギリスから来た女の描写がリスボンの観光案内となる。二十世紀五十年代のリスボンの光景はいまとなっては貴重だ。