2016-01-01から1年間の記事一覧
一九二九年セビリアでイベロ・アメリカ博覧会が催された。従来の商品見本市ではなく文化的な催しもくわえた総合博覧会は当時としては斬新な企画だった。イベロ・アメリカはアメリカ州でかつてスペインとポルトガルの植民地だった国々及びイベリア半島のスペ…
フランスのとある街の郊外にあるおんぼろ団地。灰色の空のもとぽつねんと建つ灰色がかった箱状の建物には時代から取り残された雰囲気がただよう。 サミュエル・ベンシェトリ監督「アスファルト」はこの団地を舞台とする三つの出会いが描かれた群像劇、オムニ…
アルカサルと呼ばれるセビリアの宮殿は勝利の広場(プラサ・デル・トゥリウンフォ)を挟んで大聖堂と向き合っている。十四世紀後半カスティリア王国ペドロ一世がムーア人の建築家を呼び集め、ムデハル様式というスペイン独自の建築様式で建てた王宮である。…
一九六五年にノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎は東京教育大(現筑波大)の教授で、一時期は学長を務めていたが授業はほとんどせず、年度はじめに事務方が、朝永先生の授業は基本、休講です、開講するときは張り紙を出しますからよく掲示板を見ていてく…
グアダルキビール川沿いに位置するセビリアへは大西洋から船舶が遡航できる。この条件に着目したのがジェノヴァの商人たちで、ここを拠点とするかれらの積極的な商業活動が中世より港湾都市として栄えさせた。歴史的に培われた経済力の象徴が威容を誇る大聖…
好きな女優の三人を選ぶのはむつかしいが映画と女優の組み合わせベストスリーとなると「カサブランカ」のイングリッド・バーグマン、「東京物語」の原節子、「バンドワゴン」のシド・チャリシーを挙げる。 「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」は娘…
スペインの闘牛は日本の相撲にあたるとどなたかがおっしゃっていた。国技にして宗教性を帯びていて、スポーツというだけでは割り切れないと言われると、なるほどと思えてくる。 スペインには五百を超える常設闘牛場があり、なかで一九00年に設けられたミハ…
イレーヌ・ネミロフスキー『フランス組曲』(野崎歓、平岡敦訳、白水社)、第一部では一九四0年六月ナチスによるパリ占領にともない同市を脱出する人々の姿がアラカルトふうに描かれ、続く第二部では占領の具体のありさまが起伏に富んだ物語として綴られて…
ミハスは絵になる町だ。主たる産業は観光で、個性的な個人商店が軒を連ねていてのぞいているうちに購買意欲が高まってくる。 ネットでは「美しい街並みのミハス!可愛らしいお土産がゲットできるお店五選」といった記事があり、カラフルな陶器、体にやさしい…
ポーランド、ワルシャワのいま。ここで暮らす十一人と一匹の犬のある日の午後五時から同十一分までのあいだの姿がアラカルトふうに描かれ、それぞれのエピソードはジグゾーパズルの小片(ピース)を思わせる。 それらがしかるべきところへ嵌められたときどの…
ネット上で、ミハスについての記事を見ているうちに、ある旅行社のホームページに「アンダルシアの小さな宝石」という紹介記事があった。「アンダルシアの宝石」アルハンブラ宮殿と対比して「小さな宝石」としたのだろう。ミハスはこの語感にぴったりの町だ…
書架を眺めているうちになつかしさから谷沢永一『紙つぶて(完全版)』(文春文庫)を手にした。一篇六百字、瞠目の書物コラムを通読するのはたしか四度目である。単行本『完本紙つぶて』は一九七八年文藝春秋刊、当時二十代後半だったわたしは一読して感銘…
ミハスは美しい町だった。白い家々を意味するカサブランカの町で、そうなると映画と相まってうれしくなるわたしだから、ここはスペインのカサブランカと思うとますます旅情が募るのだった。 ミハスの属するアンダルシア地方は「太陽の国」スペインらしく年間…
蓮見重彦氏の小説をはじめて読んだ。『伯爵夫人』である。 かねてより谷崎潤一郎『瘋癲老人日記』を現代日本文学の大傑作と評価するわたしは蓮見氏が二十二年ぶりに書いたというこの小説を読むうち、ときに卯木督助老人が日米開戦前夜にタイムスリップして小…
普仏戦争の渦中、ドイツで兵士と大砲を印刷した葉書が発行され、これが世界で最初の絵葉書とされている。それから三十数年後、日本の逓信省は日露戦争の士気高揚のため「戦役記念」絵葉書を戦局の進展に応じて発行し、空前の絵葉書ブームを起こした。 パソコ…
オリンピックイヤーのことしはベルリンオリンピックから数えて八十年目にあたる。金メダリストの記録でいえば史上初の四冠(100メートル、200メートル、400メートルリレー、走り幅跳び)達成者を輩出したのがこの大会だった。米国代表の黒人選手ジェシー・オ…
グラナダの夜はフラメンコショーに出かけた。静かなというよりさびしい感じがする狭い坂道をバスが上がって行くと、添乗員さんから、ここらあたりはむかしはユダヤ人の居住地でしたと説明があり、言われてみるとなんとなく疎外された地域の雰囲気を感じてし…
Amazonビデオにあった二0一三年WOWOW製作「レディ・ジョーカー」を視聴してすぐに高村薫の原作を再読した。元版は一九九七年に毎日新聞社から刊行されているが、その後作者は新潮文庫版で全面的に改稿改訂の措置をとっており文庫版『レディ・ジョーカー』と…
グラナダには「アンダルシアの宝石」の異称があり、なかでもひときわ光彩を放つのがアルハンブラ宮殿だ。ならば「アルハンブラの宝石」は何だろう。少なくともそのひとつとして壁面や天井に施されたアラベスクの文様や意匠の傑作群がある。 文様、意匠の繊細…
Amazonビデオのコンテンツに「レディ・ジョーカー」があった。二0一三年にWOWOWが製作した本作をこれまで寡聞にして知らなかったが、かねてより同和問題が重要な要素として織り込まれた作品なので映像化は難しいだろうと考えていて予想が覆ったのはうれしい…
スペインにおける最後のイスラム王朝となったナスル朝がアルハンブラ宮殿をキリスト教徒軍に無血開城したのはコロンブスが新大陸を発見した一四九二年のことで、これによりレコンキスタは完遂されたが宮殿は残された。散策しながら魅力と魔力が宮殿を残した…
東京都知事選挙関連のニュースで増田寛也という方が区長会や市町村長会の有志から出馬要請があったと段取りをしたうえで、自民党、公明党などの推薦を得て立候補表明するのを見て、通常だったらなんとも思わなかっただろうが今回は違った。 というのもいっぽ…
十九世紀の前半、欧米においてアルハンブラ宮殿の知名度はそれほど高くなかったそうだが、アメリカ人の作家ワシントン・アーヴィングが一八三二年に発表した旅行記また伝説集でもある『アルハンブラ物語』がきっかけとなって一躍広く知られるようになった。 …
雨の午後。先日ずいぶんと骨組の強い折り畳み傘を買ったが、これの初お目見えで上野のスターバックスへ向かい、テーブルについたところでダウンロードしておいたSue Raney のアルバムSongs For A Raney Dayを聴いた。雨にご縁のあるスタンダードナンバー十二…
アルハンブラはアラビア語で赤い城砦を意味している。由来は諸説あるがアルハンブラ宮殿増築の際に夜を通してかがり火を燃やして工事したためグラナダ平野から見上げた宮殿が赤く染まって見えたことからという説が有力だそうだ。 広い宮殿の壁や天井は精緻な…
この五月にサンクトペテルブルクとモスクワで見たロマノフ王朝の金銀財宝や美術品はとてつもなく豪華なものだった。 五時間かけて見学したエルミタージュ美術館はエカチェリーナ二世(1729-1796)の専用美術品展示室に発していて、後代のロマノフ家やロシア…
イベリア半島では長くキリスト教徒とイスラム教徒との対立が続いた。八世紀はじめに全域がイスラム圏となりコルドバを都とする後ウマイヤ朝が栄えたが、十一世紀のはじめにはキリスト教徒によるレコンキスタ(国土回復運動)が本格化し、十三世紀中葉になる…
ジョン・クローリー監督「ブルックリン」は一九五0年代はじめアイルランドの小さな町からニューヨークへ渡り、ブルックリンで生活をはじめたエイリッシュという若い女性の物語で、彼女の渡米はほとんどのアイルランド人と同様に貧困と将来の生活不安による…
中学生のころギターの名曲「アルハンブラの思い出」を聴いてアルハンブラという宮殿がスペインにあるのを知った。おそらくNHKFMでのアンドレ・セゴビアの演奏だったと思う。スペインの作曲家で、クラシック・ギターの名手フランシスコ・タレガの作品だが、後…
ある歌手が、CDで聞いてもらう前提で音作りをしているので、mp3に圧縮してしまうと自分の聞いてもらいたい音じゃなくなってしまうと言っていて、それを読んでからというものiPodで音楽を聴くとき、大好きなこの曲も本当はもっといい音なんじゃないかと思うよ…