2013-01-01から1年間の記事一覧

メトラに乗ってダウンタウンへ(市俄古と紐育 其ノ二)

今回ニューヨークでは旅行社の企画に添って旅したが、シカゴでは友人のI氏夫妻が感じた市民の日常生活の日米比較を聞きながら町を案内してもらった。 なるほどスーパーマーケットで販売している牛乳、ジュース、パン、バター、果物等々を見るといずれも日本…

"Chicago(That Toddling Town)"(市俄古と紐育 其ノ一)

七月末にシカゴ在住の友人夫妻を訪ね、その好意に甘えしばし滞在させていただいた。わたしにははじめてのアメリカ旅行である。 このミシガン湖に面したアメリカ有数の都市について知るところは皆無に近いけれど、映画や歌では長年にわたるなじみの街で、わた…

「さよなら渓谷」

都会から渓谷のある村へやって来て暮らす三十代の夫婦がいる。ともに地元の事業所に職を得て、男は少年野球のコーチをしているが、生活のたたずまいはひっそりとしている。 そこへ隣に住む女が自分の子供を殺すという事件が起こり、不可解なトラブルが夫婦に…

「コンプライアンス 服従の心理」

慌ただしい週末のファストフード店。店長の中年女性サンドラ(アン・ダウド)に警察官を名乗るダニエルズ(パット・ヒーリー)という男から電話がかかってきた。店内で若い女性の従業員に金を盗まれたとの訴えがあり、緊急を要するので警官が着く前に服とバ…

ダニエラ・ビアンキ

洋画専門チャンネルIMAGICA BSが007シリーズを放映していて、先日久しぶりに「007ロシアより愛をこめて」を観た。たぶん十年ぶりくらいか。 「007は殺しの番号」(「ドクター・ノオ」)につづくこのシリーズ第二作が「007危機一発」として公開されたのは1964…

「林檎の木の下で」

「林檎の木の下で」(In the Shade of the Old Apple Tree)という歌をご存じですか。 アメリカの作詞・作曲家ハリー・ウィリアムズ (Harry Williams) と作曲家エグバート・バン・アルスタイン (Egbert Van Alstyne) の共作として一九0五年に発表された楽曲…

祝 富士山「世界文化遺産」登録

ことし二0一三年六月二十二日富士山が「世界文化遺産」に登録された。この山を国民の財産として、また、日本が世界に誇るシンボルとして、アピールしてこられた方々の努力に心からの敬意と感謝を申し上げたい。 登録に際しては静岡、山梨両県の推進力が大き…

池田清彦『アホの極み』を読む

地震予知、原発、地球環境、脳死、臓器移植などなど現代科学の諸問題について文系老人(小生のこと)はとても難渋する。関係しないでいられるならそれでよいけれど生活に係わるからそうもゆかない。 もとよりさまざまな意見、考え方があるのは承知しているが…

蓮の花

不忍池に蓮の花が咲いた。 文政十年(1827)に刊行された行楽ガイドブック『江戸名所花暦』は蓮の花の名所として溜池、芝増上寺地中弁天の池、不忍池の三処をしるしている。 明治四十四年(1911)の若月紫蘭『東京年中行事』は不忍池、浅草、芝の公園を挙げ…

荷風日記の二人の女優〜高清子と西条エリ子

先だって思いがけず「週刊新潮」誌上に高清子の名前を見た。 同誌に著名人が調べものについて広く問い合わせをする「掲示板」という頁があり、二0一三年七月四日号に筒井康隆氏が高清子について情報を提供してほしい旨の記事を寄せていて、「彼女の出演映画…

「生誕110年映画監督清水宏」

溝口健二は清水宏について「清水君は天才です。ぼくや小津君は努力家にすぎない」と評したという。その人の特集上映が、京橋のフィルムセンターで「生誕110年映画監督清水宏」として催されている。 1929年の「森の鍛冶屋」から1959年の遺作「母のおもかげ」…

雨の日の午後に

雨の日曜日の午後、NHKのテレビ囲碁選手権のあと、シャーロック・ホームズのテレビ・ムービーを取り出して「踊る人形」を見た。BBC製作、ジェレミー・ブレット主演のシリーズの一篇で、ときどきこうして視聴しては原作を読み返している。 原作では、踊る人形…

日暮里諏訪神社

本郷通りを東大前から駒込へ向かい、そこから田端、西日暮里、谷中へと走る。このおよそ八キロがわたしのジョギングコース。写真は諏訪神社。南隣に浄光寺があり、ここからの崖下の眺めがよく雪見寺の俗称がある。もっとも雪の日はジョギングはお休みだから…

『色ざんげ』

丸谷才一による生前最後の編纂本『花柳小説傑作選』(講談社文芸文庫)には十九篇の短篇小説が収められている。そのなかで島村洋子の短篇連作集『色ざんげ』から採られた「一九二一年・梅雨・稲葉正武」「一九四一年・春・稲葉正武」の阿部定をめぐる二篇が…

小西湖

永井荷風はみずからを風に葉が破れたハスに見立てて、戯れに敗荷と号した。その句「枯蓮にちなむ男の散歩かな」の男は敗荷としての自身を指している。 明治四十四年一月十八日井上唖唖とともに上野博物館で錦絵を鑑賞した帰りに詠んだこの句には「小西湖上に…

ロマン・ポランスキー 初めての告白

「水の中のナイフ」「ローズマリーの赤ちゃん」「チャイナタウン」「戦場のピアニスト」「ゴーストライター」等々どれも大好きな作品だが、率直なところ監督ロマン・ポランスキーその人については作品だけで十分とは思わないものの、深入りするのは避けてき…

カラオケ

場の空気も読めず、咄嗟の機転も利かない不器用者だから、せめてあらかじめの決めごとだけは実行しようと考えてきた。それが習慣となってか、事前に路線を敷いておかないと落ち着かず、ことはカラオケの選曲にまでおよんだ。 カラオケではここしばらく由紀さ…

「嘆きのピエタ」

ソウルの一角、清渓川(チョンゲチョン)周辺。かつては産業が栄えた町だというが、いまは高層ビル群の谷間で、零細企業といってなお首をかしげてしまう極貧の工場があえぐように乾いた機械の音を発している。この町でガンド(イ・ジョンジン)は闇金融の取…

ハス

ハスの花見頃は七月下旬から八月中旬にかけてだからまもなく花の季節を迎える。「蓮池や今朝出現の花一つ」。露菊の句にある「今朝」はことしは何日になるのだろう。 永井荷風のファンにハスはとても気になる植物である。明治二十八年流感の罹患から腎臓を悪…

「らくだ」

古典落語に「らくだ」というはなしがある。 長屋中の嫌われ者で、らくだというあだ名の男がフグにあたって死んだ。たまたまその家を訪ねた兄貴分が死体を見つけたところへくず屋が通りかかる。 兄貴分はくず屋を使いっ走りにして、やれ香典だ酒だと大家や店…

「ローマでアモーレ」

先日MGMと20世紀FOXのロゴの入った封筒でウディ・アレンがプリントされたTシャツが送られてきた。すっかり忘れていたが、そういえばアレンのDVDボックスセットを買った際プレゼントの抽選に応募してあった。 そこでこれを着て「ローマでアモーレ」を観てきた…

「ビル・カニンガム&ニューヨーク」

「ニューヨーク・タイムズ」で人気ファッション・コラムと社交コラムを長年担当してきた名物カメラマン、ビル・カニンガムを追ったリチャード・プレス監督のドキュメント作品。 パリの道路清掃係の制服とかの青い上っ張りにニコンのカメラを吊るしたこの写真…

あじさい

町あるきをしていると、あじさいの花を見かけるようになった。写真は千駄木の民家に咲いているのを撮らせていただいた。泉鏡花に「森の紫陽花」という随筆があり「千駄木の森の夏ぞ昼も暗き」ではじまる。明治三十四年八月の執筆だが「森」はそこからさかの…

「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」

ロングショットで撮られた街の光景が何度か映し出される。教会だろう、まんなかには尖塔がそびえている。映画の舞台であるニューヨーク州スケネクタディを一望した眺めで、ここは松林の向こう側(The Place Beyond the Pines)の意味をもつ町だそうだ。 円形…

「リンカーン」

スティーブン・スピルバーグの新作「リンカーン」を観てきた。はじめはいまさら偉人伝のような映画はいいよと食指が動かなかったが、それなりに工夫はしてあるだろうし、あまり自分の世界を狭めてはいけないと考え直して行ってきた。 この映画ではエイブラハ…

「オース!バタヤン」

ことし四月二十五日に九十四歳で亡くなった田端義夫の遺産となった映画である。観ているうちにこうして残してくれた製作のアルタミラピクチャーズならびに田村孟太雲監督はじめスタッフ関係者にありがとうを伝えたい気持でいっぱいになった。 一九一九年(大…

ギャング映画と音楽

ハリウッドのギャング映画には必ずといってよいほどナイトクラブやダンスホールのシーンがあり時代の雰囲気を漂わせる曲が歌われ、演奏される。それらは断片的であっても当時のファッションを目にしながら聴く音楽はファンにとってはうれしい贈り物となる。 …

『コーヒーと恋愛』

「てんやわんや」「自由学校」「大番」「青春怪談」「信子」「娘と私」。 思いつくままにこれまでに観た獅子文六原作の映画を挙げてみた。こんなにたのしませてもらっているのにこの作家の小説を読んだことがない。折よく『コーヒーと恋愛』がちくま文庫に入…

銀座テアトルシネマ

銀座一丁目に建つ銀座テアトルシネマが五月末を以て閉館する。いま劇場ではクロージング作品「天使の分け前」とともに、開館した1987年からこれまでのラインナップから選ばれた作品がナイトショーで日替わり上映されている。「バッド・エデュケーション」「ト…

オールド・パーを読み、そして飲む

エリック・アンブラー『グリーン・サークル事件』を興味深く読んだ。激動の中東をめぐる国際政治のなかでパレスチナ解放機構(PLO)から絶縁され分派活動をつづけるテロ組織が中東で同族企業を経営するマイクル・ハウエルを誘拐同様の身に置いて全面的な協力…