あじさい

町あるきをしていると、あじさいの花を見かけるようになった。写真は千駄木の民家に咲いているのを撮らせていただいた。泉鏡花に「森の紫陽花」という随筆があり「千駄木の森の夏ぞ昼も暗き」ではじまる。明治三十四年八月の執筆だが「森」はそこからさかのぼっての思い出である。かつて「森」だった千駄木界隈の姿はなかなか想像がつかない。
〈母よ――
 淡くかなしきもののふるなり
 紫陽花いろのもののふるなり〉
あじさいの季節になると三好達治の詩だけを思った日々があった。いまは男から男へ渡り歩いた移り気な女を描いた永井荷風の短篇「あじさい」が先に浮かんだりする。無用の知識とは思わぬが「失われた少年時代」の感はある。題名には白から青へ、さらに青むらさき色に変わる色変わりの浮気者が含意されている。