蓮の花

不忍池に蓮の花が咲いた。
文政十年(1827)に刊行された行楽ガイドブック『江戸名所花暦』は蓮の花の名所として溜池、芝増上寺地中弁天の池、不忍池の三処をしるしている。
明治四十四年(1911)の若月紫蘭『東京年中行事』は不忍池、浅草、芝の公園を挙げ、「昔盛えたお堀の中のは今は姿も見えないのが惜しい」と花の名所のうつろいを語っている。
『江戸名所花暦』には「赤坂御門外一めん、ため池まで、花葉水面をふさぎて夥し」とあったのが「今は姿も見えない」。かろうじて不忍池が『花暦』の伝統をいまに伝えてくれている。
蓮の花を見たあと上野の喫茶店でのんびりしていると、朝顔の苗を二鉢さげた女の方が近くの席に坐った。入谷の朝顔市で買ってきたものか。
「花は盛りに」を前にした上野界隈のちょっとした花の一日である。