ハス

ハスの花見頃は七月下旬から八月中旬にかけてだからまもなく花の季節を迎える。「蓮池や今朝出現の花一つ」。露菊の句にある「今朝」はことしは何日になるのだろう。
永井荷風のファンにハスはとても気になる植物である。明治二十八年流感の罹患から腎臓を悪くした十六歳の永井壯吉は一時小田原の病院に入院した。このとき恋心をいだいた看護婦さんにお蓮さんがいて、のちに雅号に取り入れたとの話がある。ハスの漢字は「蓮」のほかに「荷」の字をあてる。
写真のようにいま不忍池のハスは開花に準備怠りないといったところだが、葉だけでも十分鑑賞の対象になるし、秋になり風に吹き破られたハスすなわち敗荷は秋の季語となっている。敗荷は荷風の戯号でもあり「枯蓮にちなむ男の散歩かな」との句もある。こうしてハスは季節に応じて荷風の読者に、また散歩者にいろいろな思いをもたらしてくれる。