「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」

ロングショットで撮られた街の光景が何度か映し出される。教会だろう、まんなかには尖塔がそびえている。映画の舞台であるニューヨーク州スケネクタディを一望した眺めで、ここは松林の向こう側(The Place Beyond the Pines)の意味をもつ町だそうだ。

円形の鉄網のなかを猛スピードで走るバイクショーに出てその日暮らしの生活を送っているルーク(ライアン・ゴズリング)は巡業先である「松林の向こう側」でかつての恋人ロミーナ(エヴァ・メンデス)と出会う。聞けば二人のあいだにできたばかりの子供をつれて再婚したという。妊娠も出産も再婚も寝耳に水の話だった。ルークはわが子とその母親にたいし自分なりに尽くしたいとバイクショーをやめてこの地に住みはじめた。
みすぼらしい車の修理店に雇ってもらったが、バイクの技術を見込んだ店主が彼を銀行強盗に誘う。こうして子供と元カノへの尽力は常軌を逸したものとなる。うまみを知ったルークは強盗を繰り返し、言い出しっぺの店主さえその凶暴におそれをなし手を引いた。そうしてついに警察に追われる日が来た。追ったのはたまたま附近をパトロールしていた新米警官のエイヴリー(ブラッドリー・クーパー)だった。
このときの二人が放った銃弾が当事者はもとよりその家族をはじめ警察の上司や同僚など人々の人生の軌跡にさまざまな影響をおよぼして事態は次世代にも及ぶ。


いったいこのドラマは観客をどこへ連れて行こうとしているのか、着地点が予想しにくい物語にのめり込み、さまざまなエピソードが登場人物にもたらした負荷の重さに心は高ぶった。見終わったとき相当な疲れを覚えたほどに。
狂犬的な犯罪者の心に芽生えた家族愛、殉職の危険を辞さなかった警察官のなかにある権勢欲といった心理劇も含んだ百四十分にいささかの弛みもなく「ブルー・バンレンタイン」につづくデレク・シアンフランス監督とライアン・ゴズリングのコラボレーションは出色の犯罪ドラマとなった。
(六月三日ヒューマントラストシネマ有楽町)