迷路の街・再説(モロッコの旅 其ノ二十九)


映画「望郷」で、ジャン・ギャバンのペペ・ル・モコはアルジェリアのカスバに逃げ込んでいる。フランスの警察官がアルジェの警察署にやって来て、どうして捕まらないかと訊ねるのに対して現地の刑事がカスバについて説明するシーンがある。
「カスバは一種のジャングルです。もとは砦という意味ですが、その言葉通り、迷路のように入り組んだ小路が縦横にからまりあい、アリの巣のような家々が、巨大な階段を作って海に向かっています。それは出口さえわからぬ迷路であり、暗黒街なのです」。
仮にペペ・ル・モコがフェズに逃げ込んだとしても現地の刑事はおなじ説明をするだろう。アルジェの、モロッコの人々の生活空間を「ジャングル」「暗黒街」と言うのだからとんでもない話で、こうしたイメージがアルジェやモロッコの現実についての知識や視座を蝕んで来たのは理解しているつもりだが……。