「茂禄子」(モロッコの旅 其ノ二十七)


福沢諭吉『世界国盡』はわたしの書架にある本のなかでいちばん早く「茂禄子」(モロッコ)について触れた著作で、その前段でモロッコを含むアフリカについては「北と東の数箇国をのぞきし外は一様に無智混沌の一世界」と記述されている。
福沢は木村摂津守の従者として咸臨丸で渡米し、ついで文久遣欧使節の翻訳方として欧州各国に同行した。『福翁自伝』によるとロンドンでは潤沢な手当のほとんどを英書についやしたとあるから、アフリカへの視線をかたちづくるにはこれらの書物の影響も大きかっただろう。
福沢がわずかに「北と東の数箇国」は「無智混沌の一世界」をまぬがれているとしたエジプトやモロッコだが、そのモロッコは「気候静かに地味肥て天の恵は濃(あつ)けれど君の政事の薄くして農を勧むる者もなし」といった具合である。