「ミケランジェロ・プロジェクト」

第二次大戦中、ナチスドイツはヒトラーの命により、占領した国々の歴史的遺産である美術品を次々と奪い取った。若いころ画家を志し、絵葉書を売って生計を立てていた経験をもつヒトラーと芸術との関係は複雑で屈折したものがあったと思われる。
ナチスヒトラーの故郷に近いリンツに「総統美術館」を建設する計画があったというから、略奪したミケランジェロダ・ヴィンチフェルメールたちの作品はそこに収蔵されることになっていたのかもしれない。
しかしながら戦局不利となりドイツへの搬送ができなくなった美術品は各所に隠匿され、なかには自暴自棄となった部隊により焼き棄てられた作品もあった。火炎放射器で燃やされるそのシーンはドラマとはわかっていてもひどく心が痛んだ。くわえて戦争末期にはソ連が戦利品として美術品に手を伸ばそうとしていた。
この現状に強い危機感を抱いたハーバード大学付属美術館の館長ストークス(ジョージ・クルーニー)はルーズベルト大統領を説得し、美術品や歴史的建造物を保護する特殊部隊「モニュメント・メン」を結成し、そこに中世美術に精通したグレンジャー(マット・デイモン)や建築家キャンベル(ビル・マーレイ)、著名コレクター(ジョン・グッドマン)など七人のメンバーが集い、戦闘とは無縁だった素人集団は奪い去られた名画や彫刻の行方を追って戦場を転々とし、その喪失を阻止した。
なお「モニュメント・メン」の原題を「ミケランジェロ・プロジェクト」としたのはミケランジェロの彫刻聖母子像が略奪された作品群の象徴的存在として大きな比重を占めているからであって、ルネサンスの芸術家に特化したものではない。
かれらはノルマンディ(「史上最大の作戦」)、アルデンヌ(「バルジ大作戦」)、レマゲン(「レマゲン鉄橋」)へと美術品を追う。その行程はハリウッドが製作したかつての戦争映画の舞台をたどることと重なる。おもしろい試みだ。

原作はロバート・M・エドゼルのノンフィクション『ミケランジェロ・プロジェクト ナチスから美術品を守った男たち』。角川文庫(高儀進訳)から刊行されているのでそのうちぜひ読んでみたい。
七人の命を懸けた美への思いやグレンジャーと占領下のフランスでナチスの役所に勤めながら秘かに美術品の行方をチェックしていたシモーヌケイト・ブランシェット)との仲を脚色すれば重厚でシリアスな作品となったのかもしれないが、製作・脚本・監督のジョージ・クルーニーが狙ったのは「オーシャンズ11」のような娯楽作とおぼしく、笑いの取れるビル・マーレイジョン・グッドマンの起用もそこにありそうだ。
痛快エンターテイメント志向の語り口としては史実に制約された堅さが否めないけれど、語られたエピソードは個人的な事情もあって、わたしとしては大満足。
その個人的な事情はこうだ。
ミケランジェロの聖母子像はいまベルギーのブリュージュにある聖母教会に収められている。先日ブリュージュへ行ったとき時間の関係でクルージングか聖母子像の二択となってしまい、結果、船を選んだ。
クルージングを終えて教会へ走ったが観覧室の入場は午後四時半でタイムアウトのため聖母子像に接することは叶わなかった。
ところが何の予備知識もなくこの映画を観て、図らずもそのレプリカ像を目にし、さらに像をめぐる秘話をたのしく観られたのだからじつにうれしかった。
ジョージ・クルーニー氏には大感謝だ。

(十一月七日TOHOシネマズシャンテ)