2021-01-01から1年間の記事一覧

指ヶ谷町で

『荷風全集』を読みながら荷風ゆかりの地や小説の舞台となったところを散歩している。この試みは今回が二度目で、さいしょは一九九七年から九八年にかけてだった。それまでわたしはほとんどカメラに縁がなく、使い捨てカメラを買っては目的地へと向かってい…

新型パソコン学習記

とくに用事のない日の午後は喫茶店で座っていたのに昨年の緊急事態宣言を機に自室で音楽を聴きながら、自分で淹れた珈琲を飲むようになった。きょう聴いたジュディ・ガーランド「Afternoon Tunes」は「ダニーボーイ」や「君去りし後」などのスタンダードナン…

「一秒先の彼女」

爽やかで心暖まる台湾発のロマンティック・コメディです。 映画館では彼女が笑った一秒あとにほかのお客さんが笑いだす。写真を撮るときのチーズ!も一瞬彼女が早くてみんなとテンポが合わない。小さい頃からちょっぴりズレていたシャオチー(リー・ペイユー…

新コロ漫筆〜副反応について

七月一日に一回目のワクチン接種をした。二回目は二十二日に予定されている。 無事に終わった一回目だが、じつは副反応が気になって何回か腰が引け、当日はニュースで早くワクチンを接種できてよかったとよろこんでおられた方々とは対照的に不安な気持で接種…

2019旅順、大連、錦州(其ノ三)

大連に路面電車が走ったのは一九0九年。営業主体は満鉄が全額出資し分社化した純粋子会社で、実質的に満鉄の軌道、バス部門を担っていた。 日本の敗戦により管轄は大連市交通公司に移行し、一部の路線はトロリーバスへの転換や廃止となったが、いまも大連市…

2019旅順、大連、錦州(其ノ二)

東鶏冠山北堡塁は帝政ロシアが日本軍の攻撃を防御するため東鶏冠山に建設した堡塁で、日露戦争の激戦地のひとつとなった。日本軍はこの堡塁を奪い、突破するために一九0四年の八月から十二月にかけておよそ四か月を要し、死者は八千人に及んだ。壁面の銃弾…

2019旅順、大連、錦州(其ノ一)

二0一九年六月十四日、成田空港から大連へ向かった。所要時間三時間余り。一九七六年三月にはじめて訪れて以来中国へは何度か来ているが東北地方は今回がはじめてだ。 大連市は日中関係の要衝となった都市で、南満洲鉄道株式会社(満鉄)の本社や関東軍の司…

新コロ漫筆~「客子暴言」を読む

永井荷風に「客子暴言」という随筆がある。 初出は大正五年(一九一六年)七月一日「文明」、いま『荷風全集』第十二巻(岩波書店新版)に収められていて、四頁ほどの短文ながら、このころの性風俗を俯瞰するのに有益また貴重な一文であり、また新型コロナ禍…

「逃げた女」

女は結婚して五年、そのかん一度も離れたことのなかった夫がはじめて出張となり、彼女はソウル郊外にいる女ともだちを訪ねます。面倒見のよかった先輩は離婚していまは親しい女性といっしょに生活してい、もう一人の先輩は高収入で気楽な独身生活を楽しんで…

ワクチン接種一回目予約完了

「さつきの頃、家々にのぼりたつるをみて によきによきとたてる幟の子だからはげに家々の御珍宝かな」大田南畝。 五月はかくありたいものだが、いまはオリンピックパラリンピックと新型コロナ感染症が合体し「によきによき」と不気味に迫ってきている感じが…

「HOKUSAI」

緊急事態宣言で営業を休止していた東京の映画館が制限つきながら六月一日から再開し、久しぶりに劇場で映画をみました。 「HOKUSAI」は葛飾北斎(1760-1849)の人生の四つのシーンを章立てとした、小説でいえば短篇連作の映画です。青壮年期を柳楽優弥、老年…

「デンジャラス・ライ」

緊急事態宣言のなか、つれづれなるままに「デンジャラス・ライ」(Netflix)という聞いたことのない(もちろん見たこともね)映画をみました。デンゼル・ワシントンの「デンジャラス・ラン」じゃないですよ、念のため。 チョイスしたのは、貧困にあえぐ介護…

新コロ漫筆~もう一度、勇気、希望、絆

東京オリンピックパラリンピック開催の意義について菅首相は「世界最大の平和の祭典であり、国民に勇気と希望を与える」、丸川珠代オリンピックパラリンピック担当大臣は「コロナ禍で分断された人々の間に絆を取り戻す大きな意義がある」と語った。 オリパラ…

永井荷風がマラソンについて語っていた!

四月十三日。東京電力福島第1原発で増え続ける処理水の処分に関し、政府は海洋放出の方針を正式決定した。二年後をめどに、残留する放射性物質トリチウムは濃度が国の基準の40分の1未満になるよう薄めて放出に着手する。無知な文系人間は疑問に思う、ニュー…

新コロ漫筆~勇気、希望、絆

東京オリンピック1964のときは中学三年生だった。日紡貝塚大松監督と東洋の魔女、体操個人女子総合金メダリストのチャスラフスカ、マラソンのアベベ、円谷たちの姿はその気になればいまでも瞼に浮ぶ。教室では先生が「ソ連の重量挙げの選手たちは食パンとお…

新コロ漫筆〜池江璃花子選手のこと

五月十一日までだった緊急事態宣言が月末まで延長されることとなった。 すると五月十七日に予定されていたIOCバッハ会長の日本訪問が緊急事態宣言の延長を受けて延期されるとの報道があった。なんだか今回の緊急事態宣言の日切をとりあえず五月十一日とした…

アンクレット

新型コロナ感染症禍のなか、東京在住の高齢者はおのずと自宅で映画、TVドラマをみることが多くなり、先日もNHKBSPで放送のあった「深夜の告白」を鑑賞したことでした。 ビリー・ワイルダー監督とシナリオ担当のレイモンド・チャンドラーが組んだノワール好き…

新コロ漫筆〜狂歌をよむ

永井荷風が大田南畝について書いた随筆や論稿を読んでいるうち、荷風経由ではなく直截南畝を読んでみたくなり、 いま『大田南畝全集』の狂歌の巻を読んでいる。素人なので自己流の解釈は避けられず、それに気がかりな新型コロナウイルスに引きつけて読んだり…

『大田南畝全集』

東日本大震災直後の三月末を以て定年退職したから、この四月から十一年目の年金生活に入った。わたしは六十歳定年だったが、このかん六十五歳定年が普及し、今年度からは労働者が希望すれば七十歳まで働くことができる「高年齢者雇用安定法」の改正法が施行…

新コロ漫筆〜オリパラの夢

三代目桂三木助が得意とした噺のひとつに「三井の大黒」があった。 左甚五郎に大黒様を彫ってもらった三井家の使いが、「まえには阿波の雲慶先生に恵比寿様を彫っていただき、『商いは濡れ手であわのひとつかみ』という句をいただきました。つきましては先生…

三ノ輪と雑司ヶ谷にて

昨秋古稀を迎えたのを機に『荷風全集』の再読にとりかかり、併せて荷風ゆかりの地や作品の舞台となった地を訪れている。 先日は三ノ輪の浄閑寺にある荷風の筆塚に詣で、傍にある花又花酔の川柳「生まれては苦界、死んでは浄閑寺」を刻し、吉原の女郎さんを祀…

新コロ漫筆〜ワクチン異聞

欧米から遅れること二か月、日本でも二月から新型コロナワクチンの接種がはじまった。順番としてまず医師や看護師などの医療従事者、次に高齢者や基礎疾患を有する人、そうしてエッセンシャル・ワーカーと呼ばれる勤労者がつづく。いまこれを書いている四月…

「すばらしき世界」

現代の日本映画にたいするわたしの不満の最たるものは、感情の昂りとともに大声をあげ、どなり、わめく、そうしたシーンの多いことにあります。ある役者さんなど予告編でお会いするたびにどなりまくっている。その方を批判しているのではなく、感情の昂りを…

新コロ漫筆〜平平山人のこと

厚生労働省の職員が三月二十四日に銀座で二十三人が参加する大宴会を開いていたことが発覚した。三月二十一日に新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言は解除されたが政府は解除後も大人数での飲食や歓送迎会を控えることを国民に呼び掛けていて、その本丸の…

『大日本帝国の興亡』を読みながら

リディア・ケイン、ネイト・ピーターセン『世にも危険な医療の世界史』(福井久美子訳文藝春秋)という本の書評に歴史家の磯田道史氏が「本当の医療の歴史は、試行錯誤と失敗の歴史であった。とんでもない『インチキ療法』が、とめどなく開発される。悲しい…

新コロ漫筆~医者寒からず・・・

江戸時代の医学書の多くは漢文で書かれていたから、医師志望者は漢文の素養を高めるために四書五経など儒学の古典を学んでいて、医学と儒学は隣り合わせていた。 漢文の医学書といっても内容はすべて東洋医学ではなく、なかには漢訳された西洋の医学書が清国…

新コロ漫筆~動けば損

晩唐の詩人李商隠は引越しが大好きで、そのため貧乏を通したと聞く。官僚政治家だったが賄賂とかは取らなかったのだろう。 ことわざに「動けば損」という。男女の仲やマネーゲームにも適用されているがどちらともご縁のない老爺としてはズバリ転居、旅行を戒…

大寒から雨水へ

一月二十日。大寒。 「受験用写真の不思議な顔寒し」 今井聖のこの句で、先日実施された大学入学共通テストの受験票の写真はマスクなしだっただろう、しかし当日はマスクをしなければならなかったから本人確認はどうやっておこなったのかと首を傾げた。お節…

十年目の三一一に小沢信男氏を悼む

元禄十一年(一六九八年)八月、隅田川に長さ百十間(約二百メートル)の大橋が架けられ、永代橋と名付けられた。場所は深川の渡しがあったところでいまの橋よりも百メートルほど上流にあった。 「つく田島つくづく月をながむればかたぶく秋の長きよのはし」…

新コロ漫筆~「行蔵は我に存す」

反共タカ派のニクソン大統領はベトナム戦争に終止符を打ち、中国と国交を結び、消費税反対だった村山富市首相は税率引き上げを認め、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長森喜朗氏はわが国を神の国と讃える超のつく国威発揚論者だが二月三日の日…