「一秒先の彼女」

爽やかで心暖まる台湾発のロマンティック・コメディです。

映画館では彼女が笑った一秒あとにほかのお客さんが笑いだす。写真を撮るときのチーズ!も一瞬彼女が早くてみんなとテンポが合わない。小さい頃からちょっぴりズレていたシャオチー(リー・ペイユー)はアラサーの郵便局勤務、そのズレが影響しているのでしょうか、彼氏はいません。

そんな彼女が公園でダンスを指導していたイケメン君と知り合います。しかもイケメン君は郵便局までやって来て彼女をデートに誘ってくれたのです。折しもデートの日はバレンタインデーでした。

ここでちょっとひとこと。台湾にはバレンタインデーが二度あり、二月十四日ともうひとつは七夕の日(七夕情人節)で、シャオチーはこの日にデートするはずでした。ところが彼女がめざめると七夕の翌日になっていました。楽しみにしていたバレンタインデーは消えてしまっていたのです。ちなみに本作の原題は「消失的情人節 My Missing Valentine」。

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どうして七夕バレンタインデーは吹き飛んでしまったのでしょうか。探っているうちに、どうやら毎日のように郵便局へやって来て、必ずシャオチーのいる窓口で切手を買い、手紙を出す若いバスの運転手が関係しているようです。

こちらグアタイ(リウ・グァンティン)は彼女と対照的にワンテンポ遅れる人で、対比していえば映画館ではみんなが笑い終えようとするところで笑いはじめ、チーズ!もみんなが終わろうとするときにポーズがはじまります。

こうしてイケメン君とのデートが叶えられなかったあとに一秒先の彼女と一秒遅れの彼とのラブストーリーがスタートします。郵便局が重要な舞台ですから、二人のあいだにあるのはもちろんメールではなく手紙です。

日本人にとってもいつかどこかでみた気がするノスタルジックな空間にゆるやかな時間が流れます。チェン・ユーシュン監督のさりげないワザに魅せられました。そして、そこに介在するのは手紙。何年か先、わたしはこの映画を、手紙をめぐるとても素敵な物語と記憶している気がしています。

わたしはSF、ファンタジー系に弱い。ミステリーに強いわけではないのですがなじみの度合いはずいぶん異なります。食わず嫌いを直そうとしたこともありますが上手くいきませんでした。「一秒先の彼女」はラブストーリーにして、時間をめぐるSFの物語です。ところがSF、ファンタジー系に弱いわたしにも、バレンタインの一日が飛んでいたという謎の解明と処理は面白いものでした。謎解きにもSF的な解き方があるんですね。

ところで日曜日の昼下がりはNHKEテレの囲碁講座とNHK杯の対局をみて過ごします。現在前半の講座で初歩の手ほどきをしてくれている黒嘉嘉先生(七段)がシャオチーの勤める郵便局の同僚役で出演していて「おっ!」でした。エンドタイトルには特別出演とありました。囲碁ファンはぜひプロ棋士の女優ぶりをご覧になってください。うれしくなりますよ。

(六月二十九日ヒューマントラストシネマ有楽町)