新コロ漫筆〜ワクチン異聞

欧米から遅れること二か月、日本でも二月から新型コロナワクチンの接種がはじまった。順番としてまず医師や看護師などの医療従事者、次に高齢者や基礎疾患を有する人、そうしてエッセンシャル・ワーカーと呼ばれる勤労者がつづく。いまこれを書いている四月八日、東京ではワクチンが世田谷区と八王子市に届き、十二日から高齢者への接種がはじまる。感染対策の切札だから安全に、かつ速やかに実施されるよう願っている。

ワクチン開発にあたっては医師、研究者、製薬会社に加え多くの治験者が参加する。仙台市にある、おきのメディカルクリニックのホームページに、院長先生がファイザー社の開発過程についてやさしく解説してくれていて、それによると、21,720名の参加者に開発中のワクチンを、21,728名にプラセボ(偽薬)を投与し、両グループとも21日間隔で2回の注射を受けた結果、一次解析では、ワクチン接種群での発症は8例のみ、プラセボ群では162例あった。こうした過程を経ながら効果を見極め、有効率を確定する。 

 

緊急事態宣言と外出自粛により口福のたのしみの比重が高まり、お酒がますます好きになった。ふだんは芋、麦、黒糖のいずれかの焼酎をロックで、ときにビールやウイスキーを飲む。酒量はさほどのことはないけれど飲まない日はさびしく、ほんとうは毎日飲みたいのだが、そんなことしているとジョギングが続けられなくなるような気がして連日の飲酒は控えている。

これからも可能な限りマラソン長距離走に出場したい思いが酒量を抑えてくれているわけだが、精神的には依存症であり、飲まない日はさびしく、コロナ禍まではまったく意識になかったノンアルコールビールを口にするようになった。ノンアルコールビールすなわちビールのプラセボで、ワクチンの話からみょうなことに意識が行った。 

困ったことに?わたし、 ノンアルコールビールがけっこう効いて、ビールを飲んだときとノンアルコールビールを飲んだときとでさほど変わったことはなく、極端いえばノンアルコールビールで酔ってしまう。

酒を飲むと眠くなるタイプで、ノンアルコールビールでも眠くなる。ビールというワクチンと ノンアルコールビールというプラセボの効き目がおなじといってよいなら、わたしのばあい接種はプラセボでもよいかもしれない。

団塊の世代である。運動中は水を飲むなといわれ、卵はコレステロール値を高めるから控えろといわれ、水泳は肩によくないから甲子園の常連校では野球部員は水泳を免除されていると聞いた。いずれもいまとなってはまことしやかな類の話だったようだが、それでもこれらを律儀に守って好結果を得た人はたくさんいただろうから、新コロワクチン開発の過程で用いられたプラセボだって効く人がいたってよいではないか。

わが幻想のなかではプラセボも予期せぬ効果をもたらすことがあるかもしれないのである。