新コロ漫筆〜オリパラの夢

三代目桂三木助が得意とした噺のひとつに「三井の大黒」があった。

左甚五郎に大黒様を彫ってもらった三井家の使いが、「まえには阿波の雲慶先生に恵比寿様を彫っていただき、『商いは濡れ手であわのひとつかみ』という句をいただきました。つきましては先生の大黒様にも下の句をつけていただけませんでしょうか」とお願いしたところ甚五郎は「どれどれ、面白くはないが一つつけさせていただこう」といってすらすらと「守らせたまえ二つかみたち」と下の句をつけた。

恵比寿に大黒のふたつ神、濡れ手であわのふた掴みの大儲けはまことにめでたい。

反対にペアとするによくないものもあって、すぐには食べ合わせが悪いとされる鰻と梅干とか蕎麦と田螺、心太と生玉子などが浮かぶ。ネットには蛸と黒鯛は血を荒すがゆえに女子には禁物なんてあった。

いま現在世界最悪の組み合わせは新型コロナウイルスとオリンピック・パラリンピック、しかも舞台は日本なのだからやりきれない。

さいしょ日本政府はオリパラを福島復興の証としていたが、昨年には人類がコロナに打ち勝った記念となり、それも難しいとみるや、先日の日米首脳会談を機に世界の団結の象徴というようになった。

七月に開催の運びとなるかどうか予断を許さない現状だが、完全なオリパラという夢を追うと感染拡大の危険は避けられず、すでに海外からの観客を閉め出すことが決定され、完全な開催はあきらめなければならなくなった。

島国という括りで感染症対策をみると、台湾、ニュージーランド、オーストラリアと比較して日本はずいぶん遅れをとった。イギリスはひどい状態だったが最近では新規感染者数は日本を下回っている。三度目の緊急事態宣言に直面するいま(四月二十日)、おなじ島国としてとくに台湾、NZに学ばなかったのが惜しまれる。悔やんでも遅いけれど最も早い段階で両国に習って水際対策、出入国管理をしっかりしておけばだいぶん様相は違ったと考えざるをえない。

それとともに、この一年あまり世界各国の政府が、新型コロナ対策というおなじテーマに取り組むことで、日本の政治、日本の姿がよく見えてきた。 気付かされた三点をあげると意外と脆弱な医療体制、ネット社会の構築の遅れ、マスクと手洗しっかりの国民の努力となる。いっぽうマスクに反対して暴動まがいの事象が起こる米国の姿はわたしには思いもよらないものだった。

経済を廻すため感染拡大抑制策はしないというブラジルの大統領のような政治家がいるのにもびっくりした。しかしいま緊急事態宣言というおなじことの繰返しよりも、この人に学ぶのもよいかもしれないと心の片隅で思っていて、もういくぶんやけ気味である。その処方は、感染症対策は「自助」を第一として「共助」「公助」は二の次、緊急事態宣言は発出しない、したがって休業補償などの必要はなし、オリンピックはやる、そのうち待てば海路のなんとやらでワクチンが来ます、というもの。

夢のようなふたつかみの歌ではじめたから終わりも夢の歌で締めます。

 請御笑覧。

オリパラと夢を喰ふ貘なるものを思ひて

夢に見し一二三四五輪の輪かぢるコロナを貘が追つかけ

これやこの五輪が結ぶ千金に夢の浮橋貘も渡るか

うれしさを袖やたもとにつつむかな千両箱に夢の前借り