「イレブン・ミニッツ」

ポーランドワルシャワのいま。ここで暮らす十一人と一匹の犬のある日の午後五時から同十一分までのあいだの姿がアラカルトふうに描かれ、それぞれのエピソードはジグゾーパズルの小片(ピース)を思わせる。
それらがしかるべきところへ嵌められたときどのような完成図が現れるのか。いつかどこかで見た作劇術ではあるが、十一分という切迫感と接点のない人たちが何かしら関係しあうのだろうラストへの険悪で怪しい雲行きはスリリングでサスペンスに富む。
反面でゲイジュツふうのたたずまいにひょっとして完成図はとりとめがなくて、狐につままれた気分に陥ることになるかもしれないといった不安がぬぐえない。ゲイジュツ関係おまへんのわたしだからゲイジュツ風味にはらはらさせられていた。

ホテルの一室に隙あればセックス狙いの映画監督を訪ねた出演志望のセクシーな女優。その夫は嫉妬深く妻をストーカーしてようやくホテルの部屋を突き止め廊下で苛立っている。広場の一角にホットドッグの屋台が出ていて、客には四人の尼僧と犬を連れた若い女がいる。刑務所を出たばかりのホットドッグ屋の男は閉店後何かを企んでいるらしく、バイク便の仕事をする息子の迎えを待っている・・・・・・わたしのゲイジュツへの不安をよそにラストではピースのそれぞれがしかるべきところに収まり狐につままれるのは避けられた。そこに現れた完成図は一筋縄ではゆかない驚愕と破綻の美学を感じさせるものであった。
監督、脚本は「アンナと過ごした四日間」「エッセンシャル・キリング」で知られるポーランドイエジー・スコリモフスキ。七十八歳のスコリモフスキ氏による個性的な映像と脚本の妙を感じさせる若々しい映画に不穏と不安のリズムを刻む音楽がよく似合っていた。
(八月二十四日ヒューマントラストシネマ有楽町)