「アンダルシアの宝石」(西班牙と葡萄牙 其ノ二十九)


グラナダには「アンダルシアの宝石」の異称があり、なかでもひときわ光彩を放つのがアルハンブラ宮殿だ。ならば「アルハンブラの宝石」は何だろう。少なくともそのひとつとして壁面や天井に施されたアラベスクの文様や意匠の傑作群がある。
文様、意匠の繊細と典雅、優美と細密が織りなす空間はみごとと言うほかなく、いずれもイスラム世界が培ってきた優れた美意識と鋭い感性の精華である。イスラム教徒ではないわたしはここまでだが、教徒はここに唯一神アラーの創造と信仰の象徴を感じるという。
壁面にアラベスクの文様を施し、天井をいろいろな細工で飾る、こうしたサラセン建築の工法の発祥地はダマスクスだが、それを高度に洗練させたのはモロッコのモーロ人だった(『アルハンブラ物語』)。文様や釉薬のかかったタイルの背後にはイベリア半島、モロッコダマスクスの人々の往来と交流がある。