『アルハンブラ物語』(西班牙と葡萄牙 其ノ二十七)


十九世紀の前半、欧米においてアルハンブラ宮殿知名度はそれほど高くなかったそうだが、アメリカ人の作家ワシントン・アーヴィングが一八三二年に発表した旅行記また伝説集でもある『アルハンブラ物語』がきっかけとなって一躍広く知られるようになった。
写真はアルハンブラ宮殿の中枢部であるコマレス宮。ナスル朝の政治的意思決定や外交はここで行われた。王の謁見の場でもあり、正面(ファサード)を背とした玉座の王が人々を引見した。建物、塔、回廊、庭園、池の絶妙な配置が調和と均衡のとれた美を生み出している。
そして『アルハンブラ物語』が「爽やかな、美しい朝。夏の日差しがまだ力を発揮せず、夜から受け渡された新鮮な冷気が快い時刻。『コマレスの塔』の頂上にのぼって、グラナダとその近郊を鳥瞰するとすれば、このような朝のこの時刻が最適であるー」(平沼孝之訳、岩浪文庫)と旅ごころを刺激する。