ミハス(西班牙と葡萄牙 其ノ三十二)


ミハスは美しい町だった。白い家々を意味するカサブランカの町で、そうなると映画と相まってうれしくなるわたしだから、ここはスペインのカサブランカと思うとますます旅情が募るのだった。
ミハスの属するアンダルシア地方は「太陽の国」スペインらしく年間日照日が三百日を数える。その日射しや気温を和らげるために家に白い塗料を塗る。それも年に三度塗るそうだからいつも美しく手入れがされている状態にあるわけだ。
町はミハス山麓の海抜四百二十メートルのところにあるから地中海を見晴らす展望もよい。アフリカが見られる日もあるとか。山麓の地だからよい坂もある。永井荷風は『日和下駄』で、平坦な大通りは閑人の散歩には単調に過ぎる、それに対して坂は「平地に生じた波瀾」と論じたが、白い家々のあいだで体感する「波瀾」は心地よい。