日記から

年末年始のミステリーと中欧の旅

年末年始の読書はもっぱらミステリーにあてる。週刊誌や雑誌のベストテンを参考にしながら読みふけって四十年、今回まずとりかかったのは陳浩基『13・67』(天野健太郎訳文藝春秋)で、さすがに評判どおりの面白さでグイグイ読ませてくれた。2013年から1967…

「仕まり」の感覚

テレビのコマーシャルに刺激されてものを買ったおぼえがない。もちろん陰に陽に影響は受けているのだが、すくなくともコマーシャルで、よし、こんどはこの珈琲だとか、あのビールにしようなんて思ったことはない。いくら役者、タレントさんが「ちがいのわか…

ブルガリアの喫茶店の片隅で

十一月二十九日から十二月六日にかけてルーマニアとブルガリアを旅した。ともにはじめての地だ。 成田空港からイスタンブール経由でルーマニアの首都ブカレストへ。この国ではブカレスト、ブラショフ、プレジュメール、シギショアラ、ブランを訪れ、ついでバ…

「艱難汝ヲ玉ニス」

十月からBS放送の「シネフィルイマジカ」が「シネフィルWOWOW」としてリニューアルされスタートした。早々に「バウンド」という映画を録画しておいたところ、これがなかなかの逸品で、幸先のよいリニューアルとなった。 監督、脚本は「マトリックス」のウォ…

「明治の父」のこと

佐藤雅美『知の巨人 荻生徂徠伝』につづいておなじ著者の『覚悟の人 小栗上野介忠順伝』(いずれも角川文庫)を読んだ。徂徠については以前から関心はあったが小栗上野介のほうはまったく知識がなく、土地勘のないままの読書だった。 小栗は幕末にあって幕府…

徂徠先生の墓参り

火取虫、蛍、毛虫、兜虫、金亀虫(黄金虫)、天道虫、水馬(あめんぼう)、蝉、蝿、蚊、ががんぼ、紙魚、蟻、蜘蛛、蛞蝓(なめくぢ)、蝸牛……いずれも夏の季語に分類される虫たちで、他の季節と比較して虫の季語が多いような気がする。 青葉、若葉が緑を深め…

断捨離

幕末、薩摩藩が贋金を鋳造していたのはよく知られており、一説によるとその額は二百九十万両にものぼったとか。薩摩藩と縁の深い佐土原藩も倒幕のための贋金づくりに精を出していた。 佐土原藩については岩井克人『ヴェニスの商人の資本論』にある「ホンモノ…

「うたたねの枕の上」と「をりをりの美景」

ことしの憲法記念日、安倍首相は憲法改正に向けてのアクセルをこれまでにも増して強く踏み込んだ。第九条に三項を付けるとか言っていたが、そのまえに仮名遣いの問題がありはしないか。日本国憲法は歴史的仮名遣いで書かれているから整合性をたもつには新た…

「鰯雲」と「鰊雲」

六月三日の毎日新聞が、受動喫煙対策強化を目的とするいわゆる「原則禁煙法案」の提出が今国会では見送られると報じていた。厚生労働省と自民党の方針に隔たりがあり、会期が延長されたとしても法案提出すら極めて厳しい状況にあるという。なんとかという厚…

六義園散策

上野の喫茶店へ行くのに不忍池を通る。桜の季節は人出が多く、弁天堂の参道を抜けるのにひと苦労だ。先年ポケモンGOが登場したときもしばらくは同様もしくはそれ以上の人出で、はじめ弁天堂の社務所は境内でのしかるべきマナーを呼びかけたがさほどの効果は…

寺田寅彦の観察力

ボブ・ディランという人がどれほど偉いのか知らないが、これまでのノーベル賞をめぐる対応を見ていると全然釈然としない。メダルは受けたというがどうして人並みに授賞式に出なかったのか理解できない。受賞条件である講演や公演を誠実に果たすのかも疑問で…

雪崩

先月二十七日、栃木県那須町のスキー場で起きた雪崩事故で栃木県立大田原高校の登山部員七名と引率教員一名の八名が死亡した。当日は他校の生徒や先生方とともに茶臼岳(標高1915メートル)への往復を予定していたが天候が悪くて中止し、ラッセル訓練(深い…

上野谷中の花の梢

「上野谷中の花の梢又いつかはと心細し」。 元禄二年三月二十七日(新暦一六八九年五月十六日)松尾芭蕉は江戸深川にあった芭蕉の草庵、採荼庵(さいとあん)から船に乗り千住で上がり、前途三千里のおもいを胸に抱いた。『奥の細道』の旅の出立であり、その…

海外テレビドラマ雑感

吉川英治『三国志』に続いておなじ著者の代表作『鳴戸秘帖』を読んだ。これまで「なるとひちょう」と思い込んでいたが「なるとひじょう」とふりがながある。 物語は阿波、蜂須賀家と一部公家による尊王討幕のたくらみと内偵する幕府隠密の抗争を軸として展開…

第96回新宿ー青梅かち歩き大会

三月十二日。昨年十一月に続き新宿―青梅43キロかち歩き大会に参加した。都庁前の新宿中央公園を8:30に出発。今回はとちゅう30キロ手前でみちづれとなった素敵な女性と話しているうちに、これから先は彼女のペースメーカーを務めようと決めると、彼女のほうも…

『三国志』から『プレイバック』へ

『三国志演義』の世界に浸りたくて吉川英治『三国志』を読みはじめた。中学生のとき父がむやみに勧めるのでこの作家の代表作『宮本武蔵』を読んだが修身道徳の教科書みたいでなじめなかった。『三国志』は中国講談の翻案で道徳臭はあるが武蔵ほどではない。 …

お金の欠点

「金というものの唯一の欠点は、使うとなくなってしまうということである。これは実際、困ったものであって、使うとなくなるからというので使わずにいれば、なんのために金を持っているのかわからない。」 吉田健一「金銭について」より。金についての箴言集…

年末年始

森泉笙子さんからご案内をいただき練馬区立美術館区民ギャラリーの「Rの会展」へ行ってきた。Rの会は現代美術を学ぶ生涯学習団体で森泉さんは下の写真の油絵を出品されていた。 美術館は西武池袋線中村橋駅近くにあり、この線を利用することはめったにないが…

「君が代」と「民が代」

就活を素材に若者たちの心模様を描いた「何者」を観た。三浦大輔監督は若者の精神風俗を描くのに巧みで、演劇界出身らしい構成も面白く、会社訪問の経験をもたない前期高齢者としてはエントリーの経緯などこれまで知らない世界を知ることができてありがたか…

ベトナム戦争を読む

十一月。上野駅で見た浅草鷲神社のポスターにことしの一の酉は十一日、二の酉は二十三日とあった。酉の市と聞くと読みたくなるのが樋口一葉『たけくらべ』だ。 「此年三の酉まで有りて中一日はつぶれしかど前後の上天気に大鳥神社の賑わひすさまじく、此処を…

第95回新宿―青梅43kmかち歩き大会

十一月十三日、新宿〜青梅間43kmを歩いた。うれしいことに小春日和の一日だった。 この大会は毎年三月と十一月に行われているが、ことしの三月は上海に旅行していて参加できず、そのぶんもここでがんばろうと意欲に燃えていた。いっしょに参加したグループの…

豊洲市場問題私見

二0一五年のイングリッド・バーグマン生誕百周年を記念したドキュメンタリー作品「イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優」を観て、その夜、バーグマンとアラン・バージェスによる『イングリッド・バーグマン マイ・ストーリー』を手にした。一九八0年…

『鶉衣』を読む

昨年のラグビー・ワールドカップのベスト4は南半球勢が占めた。その四強ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンによるラグビー・チャンピオンシップで、アルゼンチンが南アに26-24で勝った。ホーム&アウエー方式で一週間前のアウエー…

不忍池でポケモンGO

書架を眺めているうちになつかしさから谷沢永一『紙つぶて(完全版)』(文春文庫)を手にした。一篇六百字、瞠目の書物コラムを通読するのはたしか四度目である。単行本『完本紙つぶて』は一九七八年文藝春秋刊、当時二十代後半だったわたしは一読して感銘…

『北槎聞略』のことなど

五月末にサンクトペテルブルクとモスクワを旅した。写真はそのとき訪れたエカチェリーナ宮殿で、ロマノフ家が五月から八月末にかけて滞在した夏の宮殿として知られる。サンクトペテルブルク圏内のプーシキン地区にあり、大黒屋光太夫はここでエカチェリーナ…

美しき五月

「あひさしの傘(からかさ)ゆかし花の雨」。 元禄時代のマイナーな俳人の句を採り上げた柴田宵曲『古句を観る』にある印象深い句で、作者は淀水、「花の雨」という季語はこれで知った。 相合傘、男と女、花の季節の雨は絵画にしてみたい素材だが、俳句とし…

京極政治学と東芝の粉飾決算問題

京極純一先生の訃報に接してからこのかん、折にふれ『日本の政治』『文明の作法』『現代民主制と政治学』『和風と洋式』『世のため、ひとのため』等のあちらこちらを開いている。あらためて言うことでもないが、先生の個別の問題についての論述は鋭い観察力…

なでしこの敗戦に思う

読書に倦んでひと休み、ふと思いついてYouTubeでジャズの映像を探しているうちにコンコード・ジャズ・フェスティバル1986でのマキシン・サリヴァンとスコット・ハミルトン・クィテットのビデオをアップしてくれている方がいらして感激! 歌の文句じゃないけ…

「もうヒトツのソラ」展

表参道のギャラリー「PROMO-ARTE」で催された(二月十八日〜二十三日)森泉笙子さんの「もうヒトツのソラ」展へ行ってきた。絵画の展示とともに著書や関根庸子の名で日劇ミュージックホールにショーダンサーとして出演したときの公演パンフレット、グラビア…

パリの散歩の余韻

ジュリアン・デュビビエ監督「パリの空の下セーヌは流れる」を再見した。セーヌ河のほとりを主たる舞台に人々の織りなす人生のスケッチ集には懐かしいシャンソンが彩りを添える。昨年の秋この界隈をほっつき歩いたので親近感はひとしおだ。テロによる戒厳状…