日記から

パリの散歩の余韻

ジュリアン・デュビビエ監督「パリの空の下セーヌは流れる」を再見した。セーヌ河のほとりを主たる舞台に人々の織りなす人生のスケッチ集には懐かしいシャンソンが彩りを添える。昨年の秋この界隈をほっつき歩いたので親近感はひとしおだ。テロによる戒厳状…

ときには時事問題にも目を向けて

ジャズの「ホワッツ・ニュー」、シャンソンの「再会」、そして映画の「ジンジャーとフレッド」、いずれも別れた男女の時を経ての出会いに哀愁感が漂う名品だ。 フェリーニ作品中のマイ・ベスト「ジンジャーとフレッド」は1985年の映画だから昨2015年は三十周…

オールド・ローズはバレリーナに似て

イマジカBSがデヴィッド・フィンチャー監督の特集をやっていて「ハウス・オブ・カード 野望の階段」シーズン1と2を一気に放送してくれた。元版のイギリスBBC製作「野望の階段」は見ていてアメリカ版もそのうちにとBlu-rayに録画してあったが映画を優先してい…

ラグビー・ワールドカップとジョナ・ロムー氏の死去

九月に歌舞伎座へ来た折り、来月のプログラムは何かなと見たところ「文七元結」とあり、余計なことするのじゃなかったと思ったがもう遅い。慣れ親しんだ古典落語の舞台をパスするのは無理というもので、帰りがけ年金老人は財布を気にしながらチケットをゲッ…

報道パパラッチの物語

BBC製作のテレビドラマ「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」(映画「裏切りのサーカス」の元版)とその続篇「スマイリーズピープル」がセットになったDVDをゲットした。全篇視聴するには11時間余りかかる。日本語字幕も吹替えもなく、英語字幕を期…

燃え尽き症候群

破天荒なアクション、悶絶のミッション。快調のシリーズ最新作「ミッション:インポッシブル/ ロング・ネイション」でマンガスパイ物語を堪能した。007シリーズがちょいとシリアス度を高めている傾向にあるので、こちらはマンガ度を高めるほうに舵を切るの…

日本が南アに勝った!

目が覚めていつもとおなじようにスマホでニュースを見ると、18日にイングランドで開幕したラグビーワールドカップで昨19日日本が南アに勝ったとあった!号外を出すに価する出来事だ。深夜のライブ中継は苦手なので朝イチで見るようにしていて、贅沢言っては…

上田昭夫氏の訃報

シネマヴェーラ渋谷で「アイアン・ホース」と「オーケストラの少女」を観た。前者はジョン・フォードが最も好きな作品だったそうで、一八六0年代におけるアメリカ横断鉄道敷設の困難を描いたサイレント映画。名のみ知る作品の初見で、迫力ある映像と詩情を…

都心での森林浴 

クリストファー・ランドン『日時計』(丸谷才一訳)を再読した。去年末、創元推理文庫復刊フェアのなかにあるのを知り、買っておいたもので、むかし訳者の名前に惹かれて読み、はや三十年以上が経つ。内容はすっかり忘れていたが、読み進むうちに思い出され…

冷のコップ酒  

寝床にiPadを持ち込みYouTubeで「愛より愛へ」を観た。一九三八年(昭和十三年)に公開された松竹大船作品、監督は島津保次郎。 佐野周二と高杉早苗のカップルは男のほうの親の許しが得られないので家を出て同棲中だ。男は作家志望で女は女給勤めをしている…

ヴェネツィアに魅せられて

五月六日は傘雨忌、久保田万太郎の命日で、先日読んだ倉島厚、原田稔編『雨のことば辞典』にもこの忌日が立項されていた。傘雨は万太郎の俳号。 万太郎は一八八九年(明治二十二年)十一月十一日に生まれ一九六三年(昭和三十八年)五月六日に没した。梅原龍…

退職五年目

桜のころは人事異動の季節だった。四十年近く官業に在り、年度末の三月二十日前後に異動の公表があった。サラリーマンの死命を制するといってよい人事だが自分が関係しなければ気楽で面白く、退職の翌年は発表の日にさっそくネットで異動表を見た。今年は二…

映画「カサブランカ」の都市めぐり

食卓に大根サラダがあり、食後、曲亭馬琴編『俳諧歳時記栞草』を開くと、冬の季語として大根引(だいこひく)、これを「だいこ」と略して音読するようになったとあった。ちなみに大根が花を開くのは春の末、したがって大根の花は春の季語、種を蒔くのは旧暦…

佐々木譲第二次世界大戦秘話三部作との再会

録画しておいた「シャーロック・ホームズの冒険」と「シャーロック・ホームズの華麗な挑戦」を観た。久しぶりの前者ビリー・ワイルダー作品は本来四時間超の作品として企画され撮影も出来ていたのに二時間に短縮されたいわくつきのもので、カットされた部分…

片岡千恵蔵、市川右太衛門の両御大に唸る

イマジカBSで放送のあった「エイトメン・アウト」を観た。「フィールド・オブ・ドリームス」の前年1988年に制作されているが、こちらは日本の劇場では公開されていない。情報に疎く、不明を羞じるほかないけれど「フィールド・オブ・ドリームス」の影に隠れ…

リタ・ヘイワースのミュージカル

寺田寅彦は「コーヒー哲学序説」に、研究している仕事が行き詰まってどうにもならないとき、コーヒーを飲む、コーヒーカップの縁がくちびると触れようとする瞬間、ぱっと頭の中に一道の光が流れ込むような気がしたり、解決の手がかりをおもいつくことがしば…

第二回日劇ミュージックホール同窓会

先月十一月二十四日、第二回日劇ミュージックホール同窓会がすこし早めの忘年会を兼ねて、前回とおなじ銀座のパセラを会場に開かれた。 参加者は五十音順に、梓かおり、小浜奈々子、小鳩美樹、殿岡ハツエ(ご夫妻で出席)、松永てるほ、岬マコ、若山昌子のダ…

芥川比呂志を読む

所用で帰郷した。本は持たずに帰り、実家に預けてある未読本のなかから芥川比呂志『決められた以外のせりふ』と『肩の凝らないせりふ』の二冊を取り出し、気の向くままあちらこちらの頁を繰った。先日中村伸郎のエッセイを読み、親友だった芥川比呂志のエッ…

あきる野市での柳家小三治独演会

NHKBSで「刑事マディガン」の放送があった。これまで見逃していたドン・シーゲル監督作品でマディガン刑事にリチャード・ウィドマーク、その上司にヘンリー・フォンダ。よい刑事ものだったことにくわえて公開された一九六八年当時のマンハッタンやブルックリ…

震災の日の本と映画

八月十五日。恒例により閣僚の靖国神社参拝が報道されていた。賛否両論を読んでも年中行事の風景を見ているような気分がする。それらに較べ、きょう読み返した評論家の呉智英氏のコラム「あーあ、保守よ情けない」(『健全なる精神』双葉文庫所収)は小太刀…

柳田格之進と武家のモラル

古今亭志ん朝『世の中ついでに生きてたい』(河出文庫)を読んだ。なかに志ん朝師匠と池田弥三郎先生との対談が収められていて、池田先生が志ん朝さんに「火事息子」で「いま通ったのだれだい」「酒屋のお父さんだよ」と言っていたと指摘すると師匠が「お恥…

和田誠映画祭

「アナと雪の女王」を観た。字幕版か吹替版かで迷ったが松たか子と神田沙也加の評判に惹かれて吹替版にした。 冒頭エルサとアナの姉妹が遊んでいて、エルサの魔法が誤ってアナの頭に当たり傷つけてしまう。両親が急いで森のトロールに会いに行くと、トロール…

日劇ミュージックホールOG会(其ノ二)

懇談会につづいては料理とお酒が運ばれ、松永てるほさんの乾杯の発声で開宴し、しばらくは歓談のひととき。見た限りでは森サカエ、松永てるほ、岬マコさんはよい飲みっぷりでしたねえ。 そうするうちに森サカエさんにリクエストが寄せられた。日本レコード大…

日劇ミュージックホールOG会(其ノ一)

この六月十五日に日劇ミュージックホールのOG会が開かれ、過日、小浜奈々子、松永てるほ、岬マコさんと面識を得たわたしも受付や記録報告などの手伝いを兼ねて参加させていただいた。 まずは当日の読売新聞に「ミュージックホールダンサー初のOG会」という見…

ジョヴァンナ・メッツォジョルノのことなど

四月になるときまってヴァーノン・デュークの名曲「エイプリル・イン・パリ」を思い出す。エドガー・イップ・ハーバーグの歌詞ではワインの香り、マロニエの花、木陰のテーブルがあしらわれて春の女神が幸せと恋心をもたらしてくれる。これほど四月に似合い…

「朝顔の蕾のやうなあの筆先で書いた恋文けさ開く」

消費税率が上がった。無職渡世の年金暮らしだからこれまでとは身に沁みる度合が違う。収入増の可能性は皆無のところへ老後の不安が高まる。夜が冷たい、心が寒い、そしてフトコロはいっそう乏しくなる。このあいだ新聞で、ドジョウだなんだとか言っていた前…

嵯峨美子「五月の風」

レコードを聴きながら本を読んでいると突然ガリガリっといやな音がした。見るとよちよち歩きの子供がプレイヤーのアームをつかんでレコードを引っ掻いていた。叱っても音は還ってこないし、レコード以上に心が痛んで、そのときは子育てなどするものではない…

小浜奈々子、松永てるほ、岬マコさんとの歓談

大学生のころ長期の休みの終わりに地方の実家から新幹線で上京すると、東京駅へ着く手前で日本劇場が目に入ってすこしばかり浮き立つ気分になったものだった。いま有楽町のおなじ場所に建つマリオンを見てもそんな気にはならない。 早いものでその日劇がなく…

2011年プラハでの岩崎宏美コンサートでチャスラフスカさんを見た

毎度のことながら情報に疎く、昨年十月に和田誠『いつか聴いた歌』の増補改訂版が愛育社から出ていたのとこれにあわせてコンピレーションのCD「いつか聴いた歌 スタンダード・ラヴ・ソングス」が発売されていたのを年が明けてから知り、さっそく買ってきた。…

褥中で観た「自転車泥棒」や「FOSSE」のこと

お正月のニュースで、港区の愛宕神社が今年から楽天Edyによるお賽銭奉納に対応したのを知った。賽銭箱ならぬ「さい銭端末」だそうだ。愛宕神社がある港区は楽天創業の地で、三木谷社長の申し出で試験的に導入したという。わたしのような硬直した老骨からみる…