雪崩

先月二十七日、栃木県那須町のスキー場で起きた雪崩事故で栃木県立大田原高校の登山部員七名と引率教員一名の八名が死亡した。当日は他校の生徒や先生方とともに茶臼岳(標高1915メートル)への往復を予定していたが天候が悪くて中止し、ラッセル訓練(深い雪をかき分けて、踏み固めながら道をつくって進む冬山登山の技術)に切りかえて雪崩に遭った。
四十年あまり前、まったくの素人ながら一年だけ高校の登山部の顧問をした。専門的な指導のできる教員がいなかったため若さと体力を見込まれてお鉢がまわって来たのだった。高校生の競技登山に冬山やロッククライミング、スキーは関係ないのに、どうして雪山での講習会をしたのだろう。わずかな顧問体験があったぶん驚きの度合は強まったようで、これまでわたしは、仮に生徒が冬山に登りたいと言ってくれば、それを止めるのが顧問の役目だとさえ思っていたのである。
高校生の冬山登山はどことも厳禁と信じこんでいた。だから今回の事故で許可している県や学校があるのが驚きだった。冬山登山を認めるかどうかは各都道府県高等学校体育連盟の登山専門部に任されていて、事故後の報道によると高校生の冬山登山を許可している県が少数ながらいくつかあり、なかには冬山での競技を実施しているところもあった。
登山部の活動は生徒といっしょに顧問の教員も山へ登らなくてはいけない。引率教員はプレイングマネージャーなのである。夏山ならわたしのような素人でもその役目をなんとかこなせたが冬山となると無理だ。プレイングマネージャーは事故防止のため生徒が練習している傍で坐って見ているというわけにはゆかない。もし四十余年前に冬山への引率をしなければならなかったとすれば、と思うとぞっとする。
今回犠牲となった引率の若い先生は剣道部の顧問と兼務で本格的な冬山経験はなかった。
事故後のコメントでは、冬山登山技術の継承の観点から厳格な条件のもとでの実施を述べられた方がいたが、とても高等学校の部活動が担えるものではない。


このほど雪崩が春の季語と知った。迂闊なことにずっと冬の季語と思っていた。『今はじめる人のための俳句歳時記』には「降雪期間中雪崩は尽きないが、特に春の雪崩は全層雪崩(底雪崩)となりやすく、大木や岩や土砂を巻き込んで山を轟かせ、被害の規模も格段に大きいので春の季語とする」とある。