「パリタクシー」~パリで起きた「或る夜の出来事」

映画のあと、後々まで心に残っているだろうかとか、さわやかな印象を残してくれてうれしいとか思ったり考えたりする。それはおのずと映画の評価に繋がります。よい意味で記憶に残るかどうかは映画や文学作品について考える際の大切な項目であり基準なのですが、その点「パリタクシー」は、記憶力の減退著しい老爺のわたしでも、すくなくともしばらくは覚えていると信じられる作品でした。

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九十二歳のマダム、マドレーヌ(リーヌ・ルノー、フランスの国民的シャンソン歌手だそうです)が高齢者施設に入所することになり、自宅にタクシーが迎えに来ます。

運転手シャルル(ダニー・ブーン)は、かねもなく、休みもとれず、免停寸前でストレス溜まりっぱなし。この四十六歳の男が、終活に向かう九十二歳をパリの端っこにある施設に送ることになったのです。孫くらいの年齢にあたる不機嫌で無愛想な男に、マドレーヌは「ひとつの怒りでひとつ老い、ひとつの笑いでひとつ若返るものよ」と優しく声をかけたのですがシャルルに響いた様子はありません。

ところがマドレーヌがいくつか寄り道をお願いするうちにシャルルの表情にすこしずつ変化が表れます。立ち寄った先はいずれも彼女が以前に過ごしたところで、そのたびに彼女の人生の軌跡、意外な過去が明らかになってゆきます。

シャンゼリゼのような大通りを走り、ちょっと奥へはいった狭い通りで車を止めて立ち寄る、そうしているうちに二人は夜のレストランで食事をするまでに至ります。施設からは到着が遅すぎると催促の電話がかかってくるほどドライブはずいぶんと時間のかかるものとなりました。

パリの街並、とりわけ名前も知らない通りのプロムナードが印象的でした。昼間のシーンもけっこうありますが、深夜に目的地へ着いたことで、ここは思い出の名画に敬意を表しながら、パリを舞台とした「或る夜の出来事」と言っておきます。

監督・脚本は「戦場のアリア」のクリスチャン・カリオン。

(四月十三日 角川シネマ有楽町