思いがけないサムとの出会い。再会のあいさつを交わしたイルザはサムに「何か昔の曲を弾いて」とリクエストします。
ここでサムはベニー・グッドマンが大ヒットさせたスイング時代の名曲「アヴァロン」を弾きます。イルザはサムにリックの近況を訊ね、サムはイルザに「彼に会わないで下さいよ」と求める。そのあとイルザが発したのが《Play it.》でした。
「あの曲を弾いて、サム、お願い」《Play it once, Sam, for old time's sake.》
「あの曲とは」《I don't know what you mean, Miss Ilsa.》
「あの曲よ。“時の過ぎゆくままに“」《Play it, Sam. Play" As time goes by"》
「どんな曲か忘れました」《Oh I can't remember it, Miss Ilsa. I'm a little rusty on it.》
「こうよ」といってイルザはハミングをします。《I'll hum it for you. "La re la."》
やむなくサムは弾きはじめますが、イルザは「歌って」と追打ちをかけます。
イルザだってリックの古傷に触れないようにこの曲を避けているサムの心情はわかっているはずなのに、それでもリクエストします。一途で芯の強い彼女ですが見ようによってはけっこう強引です。そしてサムが歌っているところに「その曲は弾くなといったはずだ」と口にしながらリックが現れます。
ここの一連のやるとりはわたしでもヒアリングできましたが、あらためて脚本を読むと胸に迫るものがあります。惻惻として人の胸を打つというのはこういう気持だと実感しました。
一九七二年、 ハーバート・ロス監督、ウディ・アレン原作脚本、そしてアレンとダイアン・キートンが主演したPlay It Again, Samが公開されました。日本での公開はその翌年で、ご承知のように邦題は「ボギー!俺も男だ」でした。ちなみに沢田研二の「カサブランカ・ダンディ」がリリースされたのは一九七九年でした。なつかしいな。