「カサブランカ」のシナリオから(一)〜《I never make plans that far ahead.》

英語の勉強の一環で映画「カサブランカ」のシナリオを読みました。テキストはアルク英語シネクラブ編集部編『カサブランカ』(アルク)です。監督はマイケル・カーティス、シナリオはジュリアス・J・エプスタイン、フィリップ・J・エプスタイン、ハワード・コッチの三人が担当しています。大好きな、そしてこれまでいちばん回数を重ねた作品のシナリオです。

しっかりヒアリングができればよいのですがいまのわたしの学力ではとても無理で、じっさい読後どれほど聴き取れるか試してみたのですが歯が立たず跳ね返されてしまいました。いずれスイスイ聴けるようになりたいものです。

カサブランカ」は名せりふの宝庫です。リック(ハンフリー・ボガート)がイルザ(イングリッド・バーグマン)に愛を込めて呼びかける「君の瞳に乾杯」《Here’s looking at you,kid.》をはじめ忘れがたいせりふがたくさんあります。そのひとつにリックの店カフェ・アメリカンでのリックと、彼への片思いから自暴自棄になっているイボンヌ(マデリーン・ルボー)とのやりとりがあります。

「昨日はどこに?」《Where were you last night?》

「そんな昔のことは覚えてない」《That‘s so long ago.I don’t remember. 》

「今夜会える?」《Will I see you tonight?》

「そんな先のことは分からない」《I never make plans that far ahead.》

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ハードボイルドの非情が似合うボギーのせりふですが、イボンヌはあまりにつれない男への腹いせにドイツ兵といっしょに店にやって来たりします。でも、ほんとうの気持は涙を流しながら「ラ・マルセイエーズ」を歌うシーンに表れています。

読み進めると《That’s too far ahead to plan .》という《I never make plans that far ahead.》と似たせりふがありました。ナチスのパリ占領を前に、リックとイルザがパリからの脱出の相談をしていて、ようやくリヨン駅からマルセイユ行きの列車に乗ることで話がまとまったところでリックが「マルセイユで結婚しよう」というとイルザは「そんな先のことは……」《That’s too far ahead to plan .》と応じたのでした。

イルザはナチス強制収容所で亡くなったと知らされていた夫ラズロ(ポール・ヘンリード)が生きているとわかりリヨン駅には現れませんでした。事情を知らないリックにはとんでもない「そんな先のこと」となりました。イボンヌへのすげない言葉はイルザとの結婚のやりとりが下敷になっていたのではないでしょうか。

リックに振られたイボンヌ役を演じたマデリーン・ルボーはフランス出身の女優で、当時の夫は「カサブランカ」でリックの店の賭場のディラー役で出演していたマルセル・ダリオでした。ダリオはユダヤ人だったために夫妻は一九四0年六月ドイツの侵攻に先立ちパリを逃れ、リスボンへ、そうして苦労してアメリカに入国するという映画を地で行くような体験をしていました。

マデリーン・ルボーが九十二歳で亡くなったのは二0一六年五月一日。彼女の死去により「カサブランカ」にクレジット表記された俳優のなかで生存者はいなくなりました。

なお「カサブランカ」が公開されたのはアメリカ合衆国第二次世界大戦に参戦した翌年一九四二年の十一月二十六日、日本での公開は一九四六年六月二十日でした。本稿の日本語のせりふはAmazon Prime Videoの字幕を用いています。