「 ブラッド・アンド・ゴールド 黄金の血戦場」~娯楽作に漂う奇妙な味

Netflix配信の娯楽作品です。題名からうかがわれるようにゲージュツに接する心がまえとか歴史の予習とかは一切不要のお気楽作品で、わたしはけっこうこの種の映画は好きなのですが、加えてシュールというか奇妙な味付けが気になってメモを取っておく気になりました。

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第二次世界大戦末期の一九四五年春、妻は爆死したが娘は生きていると知ったドイツ兵ハインリッヒ(ロベルト・マーザー)は 子供に会いたさ一心で脱走を企てます。ところが、その道中でユダヤ人の囚人が隠した金塊を探すナチス親衛隊と遭遇し、捕えられ、木に吊るされてしまいます。 このとき脱走兵と親衛隊の一群のドイツ兵のあいだに音楽が流れます。それがなんとリナ・ケッティの歌唱で知られる有名なシャンソン「待ちましょう」(ジャタンドレイ、直訳は「 私はあなたを待つ」 )なのです。これが多くのドイツ兵が戦場で耳を傾けて故郷を懐かしみ、涙を流したといわれる「リリー・マルレーン」であれば 脱走兵と親衛隊という正反対の立場にある人たちのあいだにも通じあう心情があるんだといった気分になるのですが、そうじゃなくて「待ちましょう」なのですから相当シュールな選曲なんです。この曲について鈴木明は『コリンヌはなぜ死んだか』(1980年、文藝春秋)に「フランス人の心の襞に、戦争の記憶とともにこびりついて離れない曲」と書いています。戦争を避けたいと願いながらも無気力のまま時間を空費している、そうした厭戦気分の漂うパリで流行した曲でした。

独仏両国が戦争状態になる直前、「格子なき牢獄」のコリンヌ・リュシエールを起用した「脱走兵」(デゼルトウール)という映画が封切られました。ところがフランスがドイツに宣戦布告したものですから「脱走兵」では都合が悪く「ジャタンドレイ」(私はあなたを待つ)という題名に変え改めて上映されるようになりました。 ドイツ人脱走兵とナチス親衛隊のいるシーンにこの曲を流したのはペーター・トアヴァルト監督に思いや意図があってのことだったのでしょうか。

そしてこのとき感じた奇妙さはあとの物語の展開に付いて廻ります。

親衛隊はハインリッヒを絞首刑として木に吊るしたままその場を去ります。処刑の見極めを手抜きしたのは一刻も早くユダヤ人が隠した金塊を手にしたかったからにほかなりません。そこへ都合よく近くに住む農家の娘エルザ(マリー・ハッケ) が現れ瀕死のハインリッヒを助けます。そうするうちにエルザは逃亡先で親衛隊員に強姦されかけ、弟は凶弾に斃れてしまいます。

こうしてハインリッヒとエルザの復讐戦は、親衛隊の金塊探しとリンクし、さらには金塊を隠してあるとされる村の村民が金塊奪略の第三極として血眼になって争奪戦に参入します。こうなるとナチスを扱う映画ながら持続低音は昔懐かしい時代劇や西部劇で、ネットではある方が「こじんまりしたInglorious Basterds」とおっしゃっていました。

復讐戦と争奪戦のバトルはお楽しみとして、問題は(というほどではないけれど)その果てにまたもや意外な曲が流れます。反戦フォークソングとして知られる「花はどこへ行った」!とつじょ主張したくなったのかな。

上のコリンヌ・リュシエールについては本ブログhttps://nmh470530.hatenablog. com/entry/2020/07/05/000000の記事を参照してください。