「ディアナとニンフたち」(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十)

真珠の耳飾りの少女」に着想を得て書かれた同名小説の作者トレイシー・シュヴァリエは、絵に描かれた少女の表情は矛盾だらけで、無垢でありながら擦れていて、喜びにあふれていながら悲しみに満ちていて、希望にあふれていながら喪失感に満ちている、と述べたうえで、こうした複雑な感情はすべてこの絵画を描いた画家フェルメールに向けられているものだ、と考えるようになったという。少女の視線の向く先に画家がいる。

「ディアナとニンフたち」は現存するフェルメールの作品では最初期のものとされている。トレイシー・シュヴァリエの言う「複雑な感情」をこの作品に探ってみたいところだが、残念ながら横顔か後ろを向いていて表情ははっきりしない。

フェルメールについての批評では、リトケという研究者が、女性の個人的な私生活の一瞬と複雑な欲望とを描きだす作風、女性の私生活を共感の眼を持って表現する能力を指摘していて、それはこの初期の絵画にも示されているように思う。

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