イメージの都市(2015オランダ、ベルギーそしてパリ 其ノ二十五)

ローデンバックは『死都ブリュージュ』のはしがきに、わたしはとりわけ一つの都市を呼び起したいと思った、物語の展開を促すのはブリュージュの景観という舞台装置であり、そのために河岸、ひとけない通り、古い家屋、掘割、ペギーヌ会修道院、教会、礼拝用の金銀細工、鐘楼の情景を再現した、そのうえで読者が、この都市の姿に魅せられ、水の魅力を体感し、高い塔の影を感じ取っていただくように、と結んでいる。

作者の意図は十二分に達成され、多くの読者がこの都市に魅せられた。都市の再現を主題とする屈指の小説の誕生であり、そこでは「『永遠の半喪期から脱しえない灰色の神秘』につつまれた沈黙と憂愁の都市」というイメージが喚起され、ブリュージュの夢幻が読者のなかに定着した。

こうして『死都ブリュージュ』は今日の観光産業にも大きな役割を果たしているが、この地で生活する住民にとっては「死都」などとんでもないことであり、作者は憤激の対象となった。

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