「青春18×2 君へと続く道

七十歳をすぎていまさら「青春18」でもあるまいとパスに決めていましたが映画投稿サイトのコメント欄を読むうちやはり気になって劇場へ足を運びました。結果は大正解、よくぞパスしなかった。あとでチェックすると監督、脚本はわたしが「ヤクザと家族」を機に注目した藤井道人氏で、「青春18」、ま、いいかといったおっちょおこちょいは禁物です。

雨が塵埃を洗い、やわらかな薄日が差して、涼風が流れる、そうした雨あがりのさわやかさを感じた作品でした。もちろんわたしの心のなかの塵埃も洗ってくれていて、そこに人生の哀歓が沁みました。

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二00六年夏、台南。高校三年生のジミー(シュー・グアンハン)がアルバイトをしているカラオケ店に、財布をなくしたので働かせて、と日本人バックパッカーのアミ(清原果耶)がやって来ます。十八歳のジミーと、日本贔屓のカラオケ店のオーナーに雇われた四歳上のアミがひと夏の恋を経験するなかアミは唐突に帰国してしまいます。

二0二四年冬。三十六歳のジミーは、設立に関わったベンチャー企業の役員を解任され、自身のこれまでを見つめ直そうと喪失感を胸に旅に出ます。最終の行き先は福島県。アミは帰国後一度だけジミーに葉書を出していて、彼はその葉書をよすがに旅立ったのでした。去来するのはデートで観た映画「Love Letter」、ミスチルの楽曲、十份でのランタン上げなどの思い出。

日本と台湾との合作による忘れがたい恋愛映画はまた素敵なロードムービーであり、行き着いた先では、おもいでの夏のアミの急な帰国の謎解きが待っていました。その軌跡をたどったあとにジミーは再生のスタートを切れるのか。メインジャンルもサブジャンルもない、こうした要素が組み合わされた物語にはささやかな贅沢が感じられ、アミの描いた数々の絵も画集があれば求めたいほどで眼福に恵まれました。そして二人の旅を支えた善意の人たちに思わず感謝したくなりました。

(六月四日 TOHOシネマズ日比谷)