「ゴッドファーザー」の舞台裏

映画「ゴッドファーザー」は一九七二年の公開ですから一昨年二0二二年は五十周年にあたっていました。おそらくこれに合わせて製作された「ジ・オファー / ゴッドファーザーに賭けた男」を先日U-NEXTの配信でみました。

ゴッドファーザー」製作をめぐるパラマウント映画社内とその周辺のてんやわんや、またマフィアのリアクションを描いたまことによくできたテレビドラマで、十エピソードなのですが途中から終了が惜しまれるほどで、気分が高揚したわたしはシチリアを旅行したとき買ったゴッドファーザーTシャツを着て画面に見入っていました。

f:id:nmh470530:20240524144052j:image

アルバート・S・ラディ(プロデューサー)、ロバート・エヴァンズ(同、ただしクレジットはなし)フランシス・フォード・コッポラ(監督)、マリオ・プーゾ(原作者)それにマーロン・ブランドアル・パチーノなどスタッフ、出演陣のそっくりさんがすべて実名で登場します。中心となるのは若手のプロデューサー、S・ラディ(本作と「ミリオンダラー・ベイビー」でアカデミー作品賞)で、企画が知れるとともにマフィアの妨害やキャスティングの難航、親会社からの横やりなどトラブルが連発、これにS・ラディ が持ち前の情熱と度胸で乗り越え、映画製作にこぎつけます。

f:id:nmh470530:20240524144130j:image

もちろんわたしはこのドラマにおける事実と創作を指摘する力はありませんけれど、 クレジットされていないプロデューサー、ロバート・エヴァンズの著書『くたばれ!ハリウッド』(柴田京子訳、文春文庫)を参照すると一層おもしろさは増すと思います。

ドラマではマーロン・ブランドの出演はわりとすんなり決まりました。しかし本では、ニューヨークのパラマウント本社からエヴァンズへ「(マーロン)ブランドがドン(コルレオーネ)をやるのならイタリアでの公開はないと思ってくれ。客が笑いこけてやつをスクリーンから吹っ飛ばしちまう」「ブランドをタイトル・ロールにすえるなら出資しない。問答無用。決定事項」と指令が届きます。

アル・パチーノについてはドラマでも本でもコッポラとエヴァンズが鋭く対立していました。「だれにマイケル・コルレオーネを演じさせるか、それがわれわれふたりのあいだでの大論争の種となった。フランシスは無名の俳優ーアル・パチーノーをのぞみ、わたしはそれ以外の者を望んだ」「原作でプーゾが描いているマイケル像は、あらゆる面でパチーノと正反対だった」とエヴァンズは書いています。そのうえで「コルレオーネ一家のキャスティングに関する抗争は、コルレオーネ・ファミリーがスクリーンの上で闘う抗争よりも危険をはらんでいた」と振り返っています。

キャスティングの対立がマフィア内部の抗争より危険をはらんでいたのですから、これは「ジ・オファー」のおもしろさのひとつの証明といえるでしょう。

テレビドラマのあとはもう何回目になるのだろうあらためて「ゴッドファーザー」を鑑賞しました。三時間近い長尺なのに一寸の弛みも緩みもないのに毎度驚いてしまいます。

ヴィトー・コルレオーネ(マーロン・ブランド)の暗殺未遂事件を機に米海兵隊に所属するマイケル・コルレオーネ(アル・パチーノ)は堅気から裏社会の業界へと人生のコースを切り換えます。そしてトップに上り詰めるにつれての彼の表情の変化は凄みを帯びていきます。NHKBS放送の録画はレストア版で画像音声すこぶるよし。