2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ボスニア正教会(2016晩秋のバルカン 其ノ二十)

ボスニア・ヘルツェゴビナの首都はサラエボ。この国は連邦国家で、構成するひとつにセルビア人を主とするスルプスカ共和国がある。ふつうセルビア人共和国と呼ばれるが日本の外務省はセルビア共和国とまぎらわしいためスルプスカ共和国と表記している。この…

『パンツが見える。』を読みながら

和歌山のひどく女好きの老人が殺された事件がマスコミを賑わしている。犯人逮捕のニュースはまだないから、むつかしい様相を呈しているようだ。 開高健『最後の晩餐』を読むと、食の極限は人命に関わるとよくわかるが、女の諸相はあらためて論ずるまでもない…

第一次世界大戦(2016晩秋のバルカン 其ノ十九)

サラエボ事件をうけてオーストリア=ハンガリー帝国はセルビアに対し事件の捜査に自国の機関を参加させることなど十項目を最後通牒としてつきつけた。戦争回避の努力もなされたが最終的にセルビアは十項目を是認しなかったため七月二十八日オーストリア=ハ…

ラティンスキー橋(2016晩秋のバルカン 其ノ十八)

一九一四年六月二十八日オーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナンド大公は妻ゾフィーとともにボスニアの州都サラエボを訪れ、オープンカーでパレードをしていたところを暗殺された。サラエボ事件の勃発である。 この日、オーストリ…

「灼熱」(2016晩秋のバルカン 其ノ十七)

バルカンの旅から帰ると折よく渋谷のシアター・イメージフォーラムでダリボル・マタニッチ監督「灼熱」が上映されていた。旧ユーゴスラビアの内戦を背景とした映画で、二0一五年第六十八回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞している。 オム…

「民族浄化」(2016晩秋のバルカン 其ノ十六)

高木徹『ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争』(講談社文庫)は「世界中に衝撃を与え、セルビア非難に向かわせた『民族浄化』報道は、実はアメリカの凄腕PRマンの情報操作によるものだった」と訴えている。 本書で凄腕PRマンとして知られ…

セルビア空爆(2016晩秋のバルカン 其ノ十五)

NATOによるセルビア空爆は、セルビア人による民族浄化作戦により難民化したコソボのアルバニア人を帰還させることを目的に一九九九年三月二十四日から六月十一日にかけて行われた。民族浄化とは複数の民族集団が共存する地域において、ある民族集団を強制的…

セルビアのイメージ(2016晩秋のバルカン 其ノ十四)

「週刊文春」年末恒例のミステリーベストテンは日本推理作家協会員ならびに翻訳家、評論家等へのアンケートにより決定される。二0一六年の海外部門第一位にはピエール・ルメートル『傷だらけのカミーユ』が輝いた。 さっそく読み始めたところパリの宝石店を…

ベオグラード散策(2016晩秋のバルカン 其ノ十三)

一九八0年チトー大統領が歿した直後からユーゴスラビア各地では不満が噴出し、連邦を構成するいくつかの国や民族から独立の声が高まり、九十年代には内戦状態に陥った。そして連邦国家を構成していたスロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セ…

イコンと政治(2016晩秋のバルカン 其ノ十二)

ユーゴスラビアの社会主義経済の最大の特色は生産手段をソ連のように国有とせず、生産の場の権力を労働者評議会に代表される自主管理機関が掌握する自主管理体制にあった。生産物は官僚統制によらず生産者の自主管理権のもとにあった。この体制のもと市場は…

イコン(2016晩秋のバルカン 其ノ十一)

建設工事のつづく聖サヴァ教会には多くのイコンが描かれていた。イコンは画像や記号を意味するが、狭義では東方正教会で描かれる聖画をいう。東方正教会の主たる布教地は小アジア、ギリシア、ブルガリア、セルビア、ルーマニア、ロシアなどである。 偶像崇拝…

聖サヴァ教会のなか(2016晩秋のバルカン 其ノ十)

聖サヴァ教会のファサードは完成しているが内部はなお工事が続いている。建造がはじまったのは一九三五年だが、第二次大戦中はドイツ軍を中心とする枢軸軍に占領されて工事は中断した。戦後再開されたものの原資は信者の浄財で資金不足が常態となっており、…

聖サヴァ教会(2016晩秋のバルカン 其ノ九)

正教会はギリシア正教会、ロシア正教会というふうに一か国にひとつの教会組織をもつのを原則としている。国と教会組織は異なっても教義はおなじである。写真はセルビア正教会の中心聖サヴァ教会で、世界でも最大級の正教会の大聖堂だ。ちなみに日本正教会の…

「白い都」(2016晩秋のバルカン 其ノ八)

少女ヤスミンカはベオグラードの紹介を続けた。 「温暖な気候と肥沃な大地をめぐって、ここは古くからいくつもの民族が果てしない抗争、破壊、略奪を繰り返す舞台となりました。ケルト人、ローマ人に続き中世以降、舞台の主役となるのは、スラブ人、マジャー…

ベオグラード要塞(2016晩秋のバルカン 其ノ七)

米原万里が在籍したプラハのロシア語学校には五十か国以上の国の子供たちが通っていた。ここで歴史と地理を担当したアンナ・パヴロヴ先生は授業で取り上げる国の出身者がクラスにいると、その生徒が自国についてしっかり語ることができるよう指導していた。 …

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(2016晩秋のバルカン 其ノ六)

東ヨーロッパにかんして思い浮かぶ一冊に米原万里『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』があり、もう一度読みたいと思いながらそのままだったのが今回の旅行を機にようやく再読した。 著者は大田区立馬込小学校三年生のとき、父親が日本共産党代表として参画して…

待合の探求

六月十四日。一九四0年のこの日、ドイツの侵攻によりパリは陥落した。ドイツを中心に長年ヨーロッパで報道に従事した米国人ジャーナリスト、ウィリアム・シャイラーの『ベルリン日記』には「パリは陥落した。ヒトラーの鉤十字の旗は、私があれほどまで深く…

ネレトバの戦い(2016晩秋のバルカン 其ノ五)

東欧諸国のなかでユーゴスラビアは唯一ソ連の助力なく独力でナチスからの解放を勝ち取った国だ。戦後この国がソ連の言いなりにならず、ときにスターリンとわたりあい、「社会主義非同盟中立路線」という独自の道をあゆむことができた大きな要因にナチスに独…

セルビア正教会(2016晩秋のバルカン 其ノ四)

ことし(二0一六年)の五月にモスクワとサンクトペテルブルグを旅してロシア正教の寺院をはじめいくつかの宗教施設を見学した。ソ連崩壊の賜物で、いまなお社会主義国家が健在ならばこうはまいらなかっただろう。 ソ連は革命遂行の名のもと聖職者、信者に対…

「花の家」からの帰り道で(2016晩秋のバルカン 其ノ三)

「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」。 多民族、多言語、多宗教のモザイク国家の旧ユーゴスラビアを示す言葉である。 スロベニア、セルビア、モンテネグロ、マケドニア、クロアチア、ボスニア・ヘル…

「カメラを止めるな!」

金がないなら知恵を出せ、などと野暮をいう高慢横柄は困ったものだが、金がないのでよい映画が撮れないなどと口にする人はもっといやだ。 「カメラを止めるな!」はそんな議論を軽やかに吹き飛ばす超低予算のオモシロ映画、創意工夫と爽やかで熱い心意気がい…

花の家(2016晩秋のバルカン 其ノ二)

旧ユーゴスラビアの「建国の父」チトー大統領(1892-1980)は同国の首都だったベオグラードに眠る。写真は墓所のある記念館で「花の家」と呼ばれている。敷地はもとチトーの居宅で、館の名は彼が花や植物が好きでガラス天井の温室を作り、観葉植物を栽培して…

ベオグラード(2016晩秋のバルカン 其ノ一)

(二0一六年)十一月十七日から二十六日にかけてクロアチア、スロベニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロを周遊した。いずれもユーゴスラビア社会主義連邦共和国に属していたところで、いまはそれぞれ独立国家となっている。十日間で五…

「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブはアメリカのギタリスト、ライ・クーダーがキューバの、国外ではほとんど知られることのなかったベテラン・ミュージシャンとセッションしたのを機に結成されたビッグバンドだ。 これが一九九六年、翌年リリースされたアルバ…