「民族浄化」(2016晩秋のバルカン 其ノ十六)


高木徹『ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争』(講談社文庫)は「世界中に衝撃を与え、セルビア非難に向かわせた『民族浄化』報道は、実はアメリカの凄腕PRマンの情報操作によるものだった」と訴えている。
本書で凄腕PRマンとして知られるジム・ハーフ氏は「ボスニア・ヘルツェゴビナ政府との仕事では、セルビアミロシェビッチ大統領がいかに残虐な行為に及んでいるのか、それがマーケティングすべきメッセージでした」と語っていいて、そのための効果的なキャッチコピーが「民族浄化」だった。
米原万里は『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』で「現代世界の宗教地図を一目するならば、国際世論形成は圧倒的に正教よりもカトリックプロテスタント連合に有利なことが瞭然とする」と述べており、ここからもセルビア正教の苦境が察せられる。宗教面での不利は情報戦争の敗北に直結していた。