「カメラを止めるな!」

金がないなら知恵を出せ、などと野暮をいう高慢横柄は困ったものだが、金がないのでよい映画が撮れないなどと口にする人はもっといやだ。
カメラを止めるな!」はそんな議論を軽やかに吹き飛ばす超低予算のオモシロ映画、創意工夫と爽やかで熱い心意気がいっぱい詰まった快作だ。
山奥の廃墟でゾンビ映画を撮る監督がNGを出し続けたはてに怒りと不機嫌をぶちまける。そこへ本物のゾンビが襲来して、あふれ出るリアリティーにおおよろこびの監督はカメラを回し続け、逃げまどう役者やスタッフの姿もカメラに収めて三十七分の短編映画ができあがった。
ここから二段構えのドラマが展開して、それまでの「三十七分ワンシーンワンカットのゾンビサバイバル映画」を撮った人々による爆笑と驚きは大増幅していっそうの盛り上がりをみせる。

映画をめぐる映画、映画についての映画として出色の作品は、フェデリコ・フェリーニ8 1/2」のエンタメ版変奏曲のようであり、フェリーニがいまに生きてあればこんな映画を撮りたかったのではないかしら、と思った。
映画専門学校「ENBUゼミナール」のワークショップ「シネマプロジェクト」の第七弾として製作された上田慎一郎脚本・監督作品は公式ホームページによると「二0一七年十一月初お披露目となった六日間限定の先行上映では、たちまち口コミが拡がり、レイトショーにも関わらず連日午前中にチケットがソールドアウト。最終日には長蛇の列ができ、オープンから五分で札止めとなる異常事態となった。イベント上映が終わるやいなや公開を望む声が殺到。この度、満を持して都内二館同発での劇場公開が決定した」のだったが、都内の二館で間に合うはずもなくこの八月から全国で拡大公開されている。
知る人ぞ知るといった作品が評判を呼んで、グンと広がったのはめでたく、はじめ地方での公開がなくイライラさせられた「お葬式」のときのことを思い出しました。
(八月三日TOHOシネマズ日比谷)